小島健輔の最新論文

ダイヤモンド・チェーンストアオンライン
『売上アップを左右する!チェーンストア衣料品の「お、値打ち」を高める方法』
(2024年05月10日付)
小島健輔 (株)小島ファッションマーケティング代表取締役

 チェーンストアの衣料品は専門店やブランドショップの衣料品に比べるとお値段相応な安っぽさを否めないが、必ずしも品質が劣るわけではない。品質は負けていないのに、時代のトレンドや顧客の嗜好とすれ違ったり、陳列やディスプレイが無配慮に粗雑だったりして損をしている。もう少し顧客に寄り添ってすれ違いを解消し、見せ方を工夫して「見栄え」を良くすれば、売れ行きも違ってくるのではないか。

 

■チェーンストア衣料品は「安物」か「割高」か

 

 チェーンストア衣料品の多くは生活圏の日常消費に応えるべく手頃な「大衆価格」に抑えられているが、品質が疑わしい「安物」というわけではない。もちろん、高額なブランド衣料品に比べれば使っている素材のコストは低いし、デザインやパターンが洗練されているわけではないし、縫製仕様に凝っているわけでもないが、素材が劣悪なわけではないし、縫製始末が破綻しているわけではない。工場、サプライヤー、チェーンストア各段階の検品をクリアしているのだからB品は外されているはずで、消費者からクレームが付くような不良品では決してない。

 「大衆価格」(Popular Price)と言ってもチェーンストアで売られている衣料品には上下2クラスがあり、どちらも品質の規範を逸脱するものではないが、その下を潜る越境EC品(途上国の市場商品)になると品質は怪しくなる。総合量販店(GMS)の平場で売られているのはアッパーポピュラークラス(ユニクロ価格)で、しまむらやパシオス、パレットなどの衣料スーパーで売られているのはロワーポピュラークラスとざっくり分けられるが、この両者に品質の差はほとんどない。なぜなら仕入れ掛け率が違うだけで生産原価はほとんど変わらないからだ。

 GMS衣料品の仕入れ掛け率は小売価格の48%程度だが、「しまむら」(ファッションセンターしまむら業態)衣料品の仕入れ掛け率は小売価格の61%ほどと一回り高く、サプライヤーの値入れから推計した生産原価率はGMS衣料品の38%前後に対して「しまむら」衣料品は48%前後と10ポイントも高い。GMS衣料品で3900円の婦人パンツの生産原価は1480円ほどだが、「しまむら」で2990円の婦人パンツの生産原価は1435円ほどになるから、品質はほぼ同クラスと見て良い。もちろん、GMS衣料品にも「しまむら」にも裾値品はあって品質は一格落ちるが、裾値品同士も品質は同クラスと思われる。

 GMS衣料品と「しまむら」で仕入れ掛け率が違うのは、売り減らしの計画調達と売り足しの当用調達の需給ギャップの差に起因して、在庫回転と値引きロスの差が大きいからだ。GMS衣料品の平均的な粗利益率が38%前後だから値引きロス率は14%前後(52-38)と大きいのに対し、「しまむら」婦人衣料の粗利益率は32.4%(紳士衣料も32.6%と大差ない)で値引きロス率は6.5%に収まっている(24年2月期)。販管費率もGMS衣料品が36%前後に対し、しまむらは25.8%(24年2月期の単体)に収まっており、10ポイントも差がある。GMS衣料品は値引きロスが大きい売り減らしの計画調達と非効率で高コストな運営体質の分、「しまむら」より割高な価格で売らざるを得ないのが現実だ。

 前回の『両極端”のユニクロとしまむら チェーンストア衣料品はどちらに学ぶべきか?』をご精読いただけば、GMS衣料品が何を変えていかなければならないのか、ご理解いただけると思う。

■消費者の目に映る「見栄え」とVMD

 製品としての品質もともかく、売り場で消費者の目に映る「見栄え」も「お、値打ち」を少なからず左右する。「見栄え」は生産の仕上げ工程、物流方式と気配り、陳列とディスプレイや照明で大きく変わる。

外注工場お任せのプレス仕上げでパッキン物流する「H&M」の布帛アウターは売り場でたたみ皺が目立つが、外注工場から回収した製品を自社工場でプレス仕上げしてハンガー物流する「ZARA」の布帛アウターは格段に「見栄え」がよく、何倍もの価格に見える。大衆価格のチェーンストア衣料品をプレス工程管理してハンガー物流するのはコストに見合わないが、三つの気配りだけでたたみ皺は容易に防ぐことが出来る。

1)パッキンを満杯にせず拳一つ空けて緩衝材(プチプチ)を入れる

2)輸送中は仕方なくても納品後のパッキンを直接に縦積みしない(スチールラックに載せる)

3)納品されたパッキンは寝かせず、早々に品出しするかストックに棚入れする

4番目として百貨店のように「定数陳列(一定ピッチに陳列できる点数を制限)の基準を守る」もあるが、大衆価格のチェーンストア衣料品に求めるのは無理があるし、よほど詰め込まない限り皺にはならないので、むしろ「見栄え」の問題と思われる。

陳列の「見栄え」を左右するのはアイテムの特性に適した陳列形状(FO/SO/FD※)で、セットアップや定型ルックを上下にFO/SO陳列したり、コーディネイトするトップス(短期回転)とパワーボトム(長期継続)を上下にFO/SO陳列して回転運用したり、カットソーやニット、ジーンズなどはFD陳列でカラーやサイズのバリエーションを表現したりと様々なVMDテクニックが駆使される。色相・明彩度の配列順やシーズンによる陰影表現など美術的な効果も大きく専門的な知識やセンスも問われるが、在庫状況や販売動向による営業的構築センスを欠いては結果に繋がらない。

「ユニクロ」のように計画生産した定番品の継続販売を主体とするチェーンではグロサリーのようにデジタルな棚割りを設計してフェイシング管理(補充と棚戻しによる陳列の維持)を行うが、「しまむら」のように当用調達品をリレーして売り切っていくチェーンではアナログな心太運用が行われるなど、VMDはマーチャンダイジングとサプライと一体であり、それらが未確立で跛行する状況では効果的な「見栄え」は望み難い。マーチャンダイジングとサプライが定まってブランディングされたSPAチェーンでは相応のVMDスキルが確立されて「見栄え」も良く、チェーンストア衣料品もその文法を踏むべきだが、FO/SOに比べてFDは数倍のマテハン人時量を要するから(「ユニクロ」と「しまむら」の人時売上の差の一因)、FO/SOによるアナログ運用とFDを核としたデジタル運用のバランスには慎重な検討が望まれる。

※FO(Face Out)・・・正面見せのハンガー陳列、SO(Sleeve Out)・・・肩見せのハンガー陳列、FD(Folded)・・・畳み陳列

 

■ディスプレイの「見栄え」と共感・好感

トルソーやマネキンを使ったディスプレイは「見栄え」ももちろんだが、顧客とのマッチングが問われるし、センスやトレンド感度を露呈してしまうので本部のコントロールが不可欠だ。その基本は骨格タイプのカバーと時代のフィット、コーディネイトのコントラストに尽きるが、要点は以下の3点と思われる。

1)顧客の体型をカバーするコーディネイト

骨格タイプの基本はウェイブ系(柔らかな丸みのある脂肪質)、ストレート系(グラマラスな筋肉質)、ナチュラル系(肉付きに癖がない骨格質)だが、それを強調するより欠点をカバーするようコーディネイトする方が「見栄え」が良く、顧客の好感も得られる。トルソーやマネキンも、肉付けに癖が出ないナチュラル系を使う方がほっそりと見えてコーディネイトの「見栄え」が良い。リアルマネキンはキャラクターが出てしまうので違和感を抱く顧客も多く、古くなると時代ずれしてイタくなるから、キャラの出ないアブストラクトマネキンやトルソーが無難だ。

2)顧客層が志向する時代のフィット

 フィットはトレンドのサイクルが12〜18年とスローで世代のファッション感覚に同期するが、TPOによっても差が出る。92〜08年はミニマル、09〜21年は抜けイージー、22年以降はミニマルなY2Kと抜けイージーの交錯というのがトレンド感だが(韓流のY2Kはミニマルだが東京ストリートのY2Kはアスレ感覚に抜ける)、オンシーンほどミニマル、オフシーンほど抜けイージーなフィットが好まれるようだ。

 アダルト/ミセス層はコンサバなジャストフィット、ビジネス/キャリア層はスタイリッシュに見えて動きやすいストレッチフィット、子育て世代のカジュアルは軽快で抜けたフィットなど、顧客層に適したフィットを外すと「自分たちの店ではない」とパスされてしまう。複数タイプをカバーする店ではコーナー毎にフィットを仕分けるべきだろう。

3)顧客層に刺さるコントラスト

 コーディネイトのコントラストはa)色相と明彩度のコントラスト、b)シルエットのコントラスト、c)素材物性のコントラストから成る。a)ではアイテム間の色環表の角度が開くほど、明彩度が開くほど、b)ではアイテム間のフィットや丈が異なるほど、c)ではアイテム間の表面感や組織感、ハリ感やオチ感などの物性が対極的であるほど、コントラストが大きくなる。

 トレンドにも左右されるが、一般に高齢ほど、オンのシーンほど、ハーモニックな(コントラストの小さい)コーディネイトが志向され、若年層ほど、カジュアルなシーンほど、コントラストを強調するコーデイネイトが志向される。地域特性も大きく、関東はコントラストを抑制する傾向、関西はコントラストを強調する傾向があり、同じ関東、関西でも南北で嗜好が異なる。トレンドや感度を競うのではなく、自店の顧客に刺さって共感・好感が得られることが肝心だから、相応なローカルアレンジも必要だ。

 

 これらを徹底するには週サイクルでコーナー毎のディスプレイを本部が明確に指示するべきで、グループウエアでコーディネイトする品番とカラーのみならずサイズとフィットを具体的に明示し、実例写真を添付すれば確実だ。グループウエアなら、各店舗で実施した写真を送らせて確認し、修正指示することも容易なはずだ。

 些細なことに思われるかもしれないが、共感・好感を積み重ねることで着実に顧客化して消化率を高め売上を伸ばすことが出来るし、すれ違いに気付くのも早くなる。

 

■商圏顧客とのギャップを埋めるコンセとW平場化

 幾度も指摘してきたことだが、チェーンストア衣料品の要は購買立地対応であり、それを外せばすれ違いが生じて売上も在庫効率も苦しくなる。コンビニなら近隣商圏の応急ニーズ、スーパーマーケットなら生活商圏の最寄りニーズ、広域モールの核店舗GMSなら最寄りニーズに加えて地域商圏の買い回りニーズにも対応するのが基本だが、微妙なのは独立店舗の箱型GMSや中途半端なモールの核店舗で、実勢商圏規模によって最寄りニーズと買い回りニーズのバランスを調整する必要がある。

 GMS衣料品の基本はアイテム別の平場編成で最寄りニーズに対応し、商圏規模が生活圏を超える分、オケイジョン対応やテイスト対応のコンセを加えて買い回りニーズも取り込むのが定石で、広域モールの核店舗では後者のバラエテイを広げるとともに、買い回り対応の自社開発あるいはコラボ開発のショップを加えて来た。それが上手く行かないのは商圏規模への過剰期待による空振りもあるが、核になる平場が商圏顧客とすれ違っていることが大きいと思われる。

 店舗開設から年月を経ると当初の顧客が高齢化する一方、再開発などによる世代交代で新たな中核となった若年世代(主に30〜40代の子育て世代)を取り込めず、衣料品のみならず食品も含めた全館の客数も売上も伸び悩むケースが多々見られる。その突破口となるのが子育て世代向け平場を加える「W平場化」で、イオンリテールの「TVC」(旧トップバリュコレクション)やイトーヨーカ堂の「ファウンドグッド」が典型だ。

前者はカジュアル業態に位置付けられてビジネスシーン対応を欠き(「スマートメドレー」で対応しているが世代感覚はすれ違う)、後者は元の高齢世代向け平場を廃してコンセ頼みに割り切っているから片肺飛行を否めない。対応してもらえない地域顧客は『私の店ではない』と認識して離れてしまう。

衣料品の「お、値打ち」は顧客の共感や好感次第で上振れするし、すれ違って『私には向かない』と思われれば下振れしてしまうのが現実だ。机上のマーケテイング論理ではなく、商圏顧客とのギャップを埋めるきめ細かい施策の積み重ねがチェーンストア衣料品の「お、値打ち」を高めていくのではないか。

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