小島健輔の最新論文

ファッション販売2001年3月号掲載
『早くも撤退が危ぶまれるカルフールに学ぶべきこと』
(株)小島ファッションマーケティング代表取締役 小島健輔

 90年代の外資SPAに続いて、ついに外資総合小売業の上陸が始った。昨春の“コストコ”に続いて昨12月8日、海浜幕張駅前にフランス発のハイパーマート“カルフール”が店舗面積17000ʄ、売場面積10000ʄの日本第一号店をオープン。今一月中に南町田店、光明池店を開設し、2003年までに13店舗を開設する計画だ。  “カルフール”は世界第二位の総合小売業であり、26カ国に九千余店を展開し、極東でも台湾に23店舗、韓国に12店舗、中国に21店舗を布陣しているが、“ウォルマート”に匹敵する脅威という見方とローカルなGMSに過ぎないという両極の見方がある。まだ上陸直後でジュニアチェーンの体制も整っていない段階だから拙速に評価すべきではないが、幕張店を見る限り日本市場での競争力は極めて疑わしい。

プロモーションは華やかだけど

  “カルフール”幕張店の印象は、押し寄せた人波もあって賑やかで華やかだ。高い天井と広々とした通路、整然とした什器配列、カラフルなインストア・グラフィックは、多層の空間にゴチャゴチャと什器を並べて柱巻きまで陳列した日本のGMSを見なれた人々には新鮮なインパクトを与えたであろう。
 様々な実演惣菜やインストア・ベーカリーまで備えた巨大なフーズ部門は日本のGMSにはないエンターテイメント性があり、ちょっとした郊外百貨店のような賑わい。生鮮の陳列は市場感覚で、欲しいだけ量り売りでも買えるし、チーズやワイン等のフランス食品の品揃えも豊富だ。その一方で什器列エンドには目玉商品がDSのように山積みされ、百貨店からDSまでのいいとこ取りという面白さがある。
 ファッション関連では婦人衣料、紳士衣料、子供・ベビー衣料に加えてスポーツウェア、シューズ、ジュエリーコーナーまで揃えているが、GMSのファッション関連を小綺麗いに集約したイメージで、DSの衣料部門という印象はまったく無い。棚割りはアイテムⓤ型ⓤ色ⓤサイズと買い易く組まれているが、今時のSPAのような迫力は無い。
 ハウスウエア部門もGMSのそれをコンパクトに集約したもので、HCほどきめ細かくは品揃えされていない。アプライアンス部門ではAV関連や生活家電が重視されているが、GMSと比べて突出した印象は無い。

品揃えは欠陥だらけで安くもない

ハイパーマートと言うとディスカウントのイメージが強いが、実際にはプロモーションの目玉商品以外はGMSと大差なく、安売りを期待して行くと裏切られる。その目玉商品にしても、ドライ食品では二流NB、アプライアンスでは韓国や台湾の無名ブランド、国内二流ブランドが多く、お値打ち感は弱い。衣料品ではプロパーも含めて品質に見過ごし難いバラつきがあり、目玉品は品質を問わず掻き集めた印象が強い。今、一番欲しい防寒衣料の目玉も限られており、がっかりさせられる。
 品揃えも欠陥だらけで、ハウスウエアやドラッグでは必須の品目が欠けているし、フーズでもブランド食品の欠落が目立つ。衣料品ではニューファミリー層への品揃えの限定が目立ち、婦人衣料等、ヤングや団塊世代、シニア層は買うものが無い。婦人衣料ではテイストも絞られており、品揃えのバラエテイは極めて限られる。子供衣料はまだましだが、全体では最近の大型化した“しまむら”ほどもスペースがあるのに、品揃えのバラエテイはその三分の一もない。数パーセント含まれるオリジナルの“TEX”は素材や縫製は許容ギリギリだし、フランスぽいセンスというよりシーズン遅れの海外通販商品のレベル。
 というわけで、衣料品に関しては足元商圏では“しまむら”に、中商圏ではGMSに行ったほうが遥かに確実で、わざわざ“カルフール”に行く人はいないだろう。ハウスウエアについても、HCの方が遥かに品揃えが豊富だし、GMSでついで買いする方が便利だ。アプライアンスに関しても、品揃えもともかく商品説明やアフターサービスのインフォメーションをあれだけ欠いては、家電のカテゴリーキラーの敵とはなり得ない。
 わざわざ“カルフール”に出かけたくなるのはフーズ部門だけということになるが、これとてブランドにこだわると失望させられるし(強引な取引先開発が災いし、入らないブランドも多い)、日常の食品購入で集中レジに並ぶ気にはなれないから、食品スーパーほど高頻度に出かけることにはならないだろう。 

“カルフール”って何

 “カルフール”はエンターテイメント性の強いフーズ部門を核にファッション部門やハウスウエア部門、アプライアンス部門等を揃え、ワンフロアのワンストップ・ショッピング、ワンストップ精算のハイパーマート形態にパッケージしたプロモーショナルなGMS業態であり、SSM+DSのスーパーセンターとは本質的に役割が異なる。安さや日常の使い勝手を期待すると裏切られてしまう。強力なフーズ部門の商圏拡張力に他部門が依存しているのが実態で、フーズ部門が大型GMS並みの商圏を確保するのに対し、ファッション部門やハウスウエア部門は小型GMS並みの商圏を確保する力もない。 

“カルフール”に学ぶべきこと

 このように冷静に見れば“カルフール”というのは極めて競争力を欠く弱い業態で、その収益性と日本市場での存続に疑念を投げざるを得ない。ちなみに“カルフール”はベルギー、英国、イタリアに進出後、撤退しており、昨九月には香港からも撤退している。日本市場でも初期の数店が期待通りにいかなければ、撤退ということも有るだろう。来年中にも“ウォルマート”が至近距離に出店するとなれば、もう撤退するしかないのではないか。
 強いて学ぶべきことが在るとすれば、そのパッケージ化されたプロモーションとエンターテイメント性のフーズ部門による商圏拡張戦略なのではないか。日本のGMSは上手とは言い難い衣料品売場をやたら拡げて商圏拡張を狙っているが、エンターテイメント性のフーズ部門による商圏拡張という選択もあるはずだ。プロモーションにしてもインストア・グラフィックの集中コントロールさへ出来ていないから、“カルフール”に学ぶことは少なくないはずだ。

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