小島健輔の最新論文

ファッション販売2003年8月号掲載
『メンズ復活の潮流に乗れ』
(株)小島ファッションマーケティング代表取締役 小島健輔

メンズに復活の兆し?

 永年にわたってレディスの後塵を拝してきたメンズに、まだ部分的な傾向とは言え復活の兆しが見られる。  総務庁の家計調査報告によれば、婦人衣料と紳士衣料の支出額シェアは97年の62対38から2002年には64.4対35.6と2.4ポイント、全国百貨店売上では同72.4対27.6から76.7対23.3へと4.3ポイント、東京地区百貨店売上では同71.2対28.8から75.1対24.9へと3.9ポイント、メンズがシェアを落として来たが、昨年の後半からこの流れに逆行する兆候が出始めているのだ。
 全国百貨店ではレディスとメンズの伸び率格差が縮まって来た程度だが、先行指標となる東京地区百貨店では昨8月以降、メンズの伸び率がレディスの伸び率を上回る月が目立つし、家計調査でも今1〜3月間はメンズのシェアが巻き返している。月度の跛行を慣して季節毎の指標で見ると昨秋期以降、全国百貨店ではレディスとメンズの伸び率格差が一気に縮まっているし、東京地区百貨店ではメンズの伸び率がレディスを上回り続けている。
 当社が毎月集計している全国主要百商業施設(22百貨店含む/計4770ショップ)販売統計の既存店伸び率でも、ブランドショップでは昨夏期からメンズが逆転。ストアでも昨秋期から格差が急縮小し、今春期ではついにメンズが逆転している。伸び率と言ってもほとんど水面下での比較であって、メンズが伸びていると言うより、『レディスが減速あるいは低迷を深める一方でメンズが回復している』と言ったほうが適確であろう。

百貨店におけるシェア格差は縮まらない

 メンズに回復の兆候が見られると言っても、それは既存店伸び率についてであり、レディスとの売場面積/売上シェアの格差は出店やリモデルによって現在もなお拡大し続けている。
 家計消費におけるレディスとメンズの比率は97年度で62対38だったが、全国百貨店のそれは72.4対27.6と、家計消費よりメンズのシェアは10.4ポイント低かった。97〜99年の衣料品のデフレサイクルではこの差は10ポイント台に留まっていたが、百貨店がラグジュアリーブランドを強化し始めた2000年からは再び拡大に転じ、家計消費がレディス関連で平均5.1%、メンズ関連でも平均0.7%上昇とインフレに転じた2002年では12.3ポイントに拡大している。
 レディスが先んじてインフレに転じ、その勢いも強いのに対し、メンズは出遅れて勢いも弱く、百貨店のラグジュアリー戦略もレディスが先行した事が要因であろう。百貨店メンズのラグジュアリー戦略は今春に入っての伊勢丹本店メンズ館のリモデルが目立つぐらいで、レディスに比べれば拡がりを欠いている。
 政府のグローバル従属デフレ政策下(米国の経済ルール追従、政府支出の圧縮と国民負担の増大)では貧富差の拡大は避けられないから、百貨店がデフレ戦略に転ずるとは考え難い。となれば、レディス対メンズの売場面積/売上シェア格差はさらに拡大していくから、百貨店におけるメンズの復活は質的なものに留まらざるを得ない。その意味で最も期待されるのはブリッジゾーンであり、レディスに匹敵するようなコンテンポラリー層対応ブランドの拡充が急がれる。

メンズの活路は複合ストアにある

 最近の新設SCやファッションビルにおいて出店が突出しているのはファミリーストアであり、レディスストア、ターミナルではレディス+メンズのペアストアが続くが、メンズショップは郊外SCでもターミナルでも極めて限られる。一時は盛り上がったプライスライン・スーツストアもモールでは滅多に見かけない。という事は、メンズストアと言うよりファミリーストアやペアストアの中でメンズが新たなポジションを確立しつつあると見るべきだ。それはファミリーストアやママ&キッズストアにおけるキッズとて同様であろう。
 米国におけるアパレル関連専門店の97〜2002年の売上伸び率を見ても、メンズストアは唯一、98.5%とマイナスだったのに対し、ファミリーストア(ペアストアを含む)は31.1%増と最高の伸びを示し、レディスストアの23.3%増をひと回り上回っている。日本では同様な統計はないが、各タイプの出店面積伸び率を見る限り、米国以上の格差が拡がっていると推察される。
 有力セレクトショップにおいては、メンズ部門の方がレディス部門より伸び率で優る傾向が続いている。商業施設の中でメンズを供給するストアが限られる一方、レディスはファミリーストアやペアストアのみならず、様々なレディスストアが氾濫して供給過剰となっているからだ。ビジネスモデル先行や売れ筋追求で同質化に巻き込まれがちである事も苦戦の要因となっているのではないか。メンズ軸での開発においてはビジネスモデルでも独自の“こだわり”を大切にして、同質化の弊害を避けたいものだ。
 当社のSPAC研究会メンバーの注目業態アンケート(5月)でも「ザ・ショップTK」が突出した票を集めたが、メンズから発展したペアストア、ファミリーストアへの期待が実感される。同アンケートではメンズ軸のファミリーストア、ペアストアの開発のキーワードとして、“こだわり”“本物”“上質空間”“安心”“癒し”などが挙げられていた。
 日本のペアストアはファッション軸の若向けばかりだが、米国では若向けでも“ホリスター”のようなライフスタイル軸、“トミーバハマ”のようにシニア狙いのライフスタイル軸で成功しているケースも見られる。ファッション軸に囚われないでライフスタイル軸で発想すれば、様々な世代のペアストアが出てくるのではないか。     

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