小島健輔の最新論文

マネー現代
『『GINZA SIX』“大量閉店”騒動のウラで、マスコミが報じない「東京大崩壊」のヤバすぎる現実』
(2021年01月25日付)
小島健輔 (株)小島ファッションマーケティング代表取締役

総崩れ」が始まった都心商業施設

「ギンザ シックス」では臨時休業中の3テナント(飲食)に加え、昨年12月27日から今年1月20日にかけてコスメブランドやアパレルショップ、カフェやレストランなど22店が閉店したが、5万平米に241店舗が揃う巨大商業フロアの中では“歯抜け”程度で、1月26日には40店の後継テナントも公表される。

なのに鬼の首を取ったかのごとく報道されたのは、コロナ前の外国人観光客による満艦飾の賑わいと、コロナでほぼ鎖国状態となって人気が絶えた閑古鳥ぶりが極端だったからだろう。

インバウンド狙いに偏っていた銀座の商業施設はどこも似たような状況で、「東急プラザ銀座」でも12月から1月にかけてアパレルや装身具、コスメから名産品や茶房まで少なからぬ閉店が見受けられたが、こちらも入れ替え予定があるのだろうか。

閉店が目立つのは銀座に限らず、「六本木ヒルズ」ではけやき坂の路面店に空き区画が目立ち、「東京ミッドタウン(六本木)」でも12月から1月にかけてアパレル店や服飾店の閉店が続き、「表参道ヒルズ」でも空き区画が目立ち始めている。これら都心施設で閉店が表面化しているのは数店舗〜1ダース前後だが、2月から3月にかけてさらに増えると見る関係者が多い。

もとから採算度外視の「メディアハウス」だった

アパレル店や服飾雑貨店では売上に占める家賃負担率は12%程度までが好ましく、販売費(人件費や光熱費、キャッシュレス手数料)と合わせて30%強までに収めないと採算が苦しくなるが、都心の路面店や前述したような著名商業施設ではイメージ先行の“旗艦店”扱いの出店が多く、コロナ前のインバウンド景気下でも家賃負担だけで売上の半分に迫るケースが少なからず見られた。

これら華やかな都心の商業施設はインバウンドやラグジュアリーを狙って贅沢な投資をしており、テナント損益無視の高家賃戦略を採る「メディアハウス」と化していたから、インバウンドの波が引いてしまえばほとんどのテナントが巨額赤字を垂れ流し続けることになる。

コロナ禍で20年4月以降は来日観光客が前年比99.9%減、やや回復した11月、12月に至っても97.7%減という状況では売上より家賃のほうが嵩む店舗も少なくなかったはずで、商業施設が預かる売上金だけでは決済できなくなり、毎月の巨額赤字に何処まで絶えられるかの泥沼持久戦になっていたのではないか。

それが1月7日の緊急事態宣言の再発令で終わりが見えなくなり、一年延期された東京オリンピックも中止や再延期が避けられない情勢となっては、もはや巨額赤字に耐えてまで店舗を維持する意味はないと閉店の決断に至ったと推察される。

※メディアハウス・・・・採算度外視の旗艦店やイメージ店舗、ショールームなどを揃えて高水準の家賃を徴収する商業施設で、期間限定のイベント貸しでは高額なプロモーションフィーを取るなど館丸ごと広告メディアと位置付ける。

エッセンシャルじゃない商業施設はヤバイ

コロナ禍の収束が見えなくなり、インバウンドの回復も当分見込めず、経済も再失速して国内消費も萎縮し生活圏シフトが加速する中、都心の高コストな商業施設からテナントが逃げ出すのは必然だったが、郊外圏でも広域志向の大型商業施設では都心施設同様の大量閉店劇が始まっている。

競合商業施設に圧されて売上が落ち込んだ負け組商業施設なら大量閉店も珍しくないが、年明けの緊急事態宣言再発令を契機に大量閉店が表面化しているのは、むしろ地域の勝ち組商業施設だ。

どうしてそんなことが起こるのかと言うと、逆風下では勝ち組商業施設ほどテナント構成と足元ニーズのミスマッチに陥りがちだからだ。

勝ち組商業施設は商圏を広げようと背伸びした都市感覚(業界では「アップスケール」と言う)のテナントを増やしがちだが、それがコロナ禍の生計直撃によるエッセンシャル(生活必需)シフトで客離れを招き、生活に密着した等身大テナントへ入れ替えざるを得なくなっている。グレードは異なるとは言え、その構図はインバウンドとラグジュアリーに偏りすぎた都心商業施設と共通しているのではないか。

もう一つの要因が業種構成のミスマッチだ。

16年以降、アパレルの勢いが陰る中、アパレル店を減してコスメブランド/ストアやビューティサービス、フードコートやレストラン、カフェなど飲食店を増やして来たが、それがコロナ禍で裏目に出ている。

飲食店舗は長期にわたる客数減に営業時間の短縮が加わって営業の継続を諦めるテナントが続出しており、コスメはマスク常用によるメイク需要の落ち込みや高単価なスキンケア接客の回避、ビューティサービスは濃厚接触回避の客数減で家賃負担に耐えられなくなっている。

もっともエッセンシャルなのが生鮮食品や加工食品・菓子など食物販店舗、ドラッグストアや百円ショップなどだが食物販店舗は増えておらず、アパレルでも「ユニクロ」などエッセンシャルなテナントは好調だから、同じ業種でもエッセンシャルなテナントにシフトすべきだった。地域の日常生活から浮き上がったエッセンシャルじゃないテナントや商業施設は存続が難しくなっている。

崩れる雇用と困窮する生計というシリアスな現実

コロナ禍の経済停滞で宿泊業や飲食サービス業を筆頭に非正規雇用者の雇い止め、正規雇用者でも残業カットやボーナスカット、早期退職募集が広がっており、緊急事態宣言再発令で店舗や事業の継続を断念するケースが広がれば雇用情勢は一段と悪化し、生活に行き詰まる人々も一段と増えていく。

労働力調査も家計調査もまだ情勢が小康状態にあった20年11月分までしか発表されていないが、再発令後の21年1月分での暗転が危惧される。

そんな中、生計と消費は生活防衛が色濃くなっており、一部の資産家階級や泡銭が回る人を除き、お洒落や贅沢を避けて生活必需品に支出を絞り込む「エッセンシャルシフト」が加速している。

そんなことは日々、事業を営む人々は痛感しているから、飲食・サービスや小売の事業者は店舗や事業に見切りを付け、都心でも郊外でもコストの高い商業施設から店舗が消えていく。

それはかつて商店街がシャッター街化していった姿を思わせるが、それより極度に急激だ。パニック的瞬間風速はともかく、ネット販売が代替出来るのはせいぜい消費総体の4分の1、分野によって3分の1ぐらいまでだから、よりコストの低いエッセンシャルな商業施設へとテナントも逃げ出していく。

エッセンシャルシフトやECシフトで潤う事業者も少なくないが、大多数の勤労者とりわけ非正規雇用勤労者(68%を女性が占める!)の生計が困窮する中、消費と経済の縮小スパイラルは避けられず、それがまたエッセンシャルシフトを加速していく。コロナ禍の直前までインバウンドやラグジュアリーを追っていた都心の華やかな商業施設、アップスケールな消費の夢を煽っていた郊外の広域大型商業施設が大量閉店に直面してエッセンシャルシフトを強いられるのは必然なのだ。

中心から周辺へ、都市文明が崩壊していく

勤労の形態が通勤からリモートワークに変わり、消費も少なからず店舗購入からリモート購入(ECやC&C)にシフトし、生活必需品へのエッセンシャルシフトが進めば、消費と生活の場も住居周辺に収斂して都市中心部が空洞化し、都市文明は崩壊に向かう。

20年6月に東京都の人口は周辺三県への転出超過に転じ、7月を除き人口減少が続いているが、かつて疫病に襲われた大都市はすべからく人口減少に転じている。

都市はもとより農村部より生活環境も衛生環境も劣悪で出生率が低く死亡率が高いため、自然減を流入で埋められなくなると容易に人口減に転じてしまう「蟻地獄」だった。経済の発展期には都市に勤労者が流入して人口増となるが、経済が衰退期になると流入より転出が増え自然減で人口減少が加速する。

江戸時代に逆戻り

コロナ禍が長引けば、経済の停滞と疫病に加え地方農村部の「在郷町」(ローカル生産・流通・金融拠点)に経済活動が分散して人口減が進んだ江戸後期の三大都市(江戸・大阪・京都)のようになってしまうかも知れない。

とっくに先行していた工場に加え、郊外やローカルへサテライトオフィスが広がれば、現代の「在郷町」が巨大都市の経済と文明を崩壊に導くかも知れない。もはや、その可能性は否定できなくなって来た。

※都市と農村の人口力学については、静岡県立大学長・鬼頭宏氏(歴史人口学)著作の「人口から読む日本の歴史」を参照されたい。また、「在郷町」については青山文平作「遠縁の女」の棲む隣町として描かれている。

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