小島健輔の最新論文

WWD 小島健輔リポート
『踊り場のアウトドア市場
「ワークマン カラーズ」は突破口になるのか』
(2023年09月05日付)
小島健輔 (株)小島ファッションマーケティング代表取締役

ワークマンは8月30日に新宿住友ビル三角広場でインフルエンサーやプレス向けの大規模な「ワークマン23年秋冬物新製品発表会」を開催し、31日には翌9月1日に開業する「ワークマン カラーズ」イグジットメルサ銀座店の内覧会を開催して事業拡大への並々ならぬ意欲を表明したが、キャンプブームの失速でアウトドア市場の萎縮が危ぶまれる中、再び成長軌道に乗せる突破口となるのだろうか。

ワークマンにもアウトドアの逆風が迫る

5月にコロナが5類に移行して行動制限が解除されて以降、日常が回帰して人出も店舗売上高も急回復しているが、コロナ下のブームで急拡大したキャンプ業界は急激な需要の冷え込みで流通在庫が積み上がり、業績が暗転して真っ青になっている。日常への回帰は都市圏生活(メトロライフ)への回帰でもあり、コロナ下で広がったアウトドアライフが萎縮に転じ、キャンプ用品のみならずアウトドアアパレルも冷え込むのではないかと業界は戦々恐々としている。

「ワークマン プラス」による急成長が一巡して巡航速度に減速し、「#ワークマン女子」で成長力を維持せんとしているワークマンとて都市圏生活回帰によるアウトドアへの逆風は否めず、4〜6月は自腹を切って値上げを抑制しても既存店の客数減が続き、同期間計(2024年3月期第1四半期)の既存店売上高は1.4%減、客数は4.5%減(客単価は3.3%増)と勢いを失った。猛暑の7月こそ既存店売上高が8.2%増、客数も1.4%増(客単価は6.7%増)と盛り返したが、8月は既存店売上高が3.9%増に減速し、客数は2.1%減(客単価は6.2%増)と再び落ち込んだ。

快進撃を支えてきた高機能低価格PB(プライベートブランド)も24年3月期第1四半期で売り上げ構成の68.1%に達し、流石にSPA化の弊害が顕在化してきた。在庫リスクを丸抱えするPB比率が7割に迫り、アウトドアの冷え込みも加わってか、一店平均在庫は前年同期より14%強、直営店在庫・DC在庫に加盟店在庫も合わせたチェーン総在庫は19%近く増加し(チェーン全店売上高は同3.9%増)、棚資産回転は前年同期の5.82回から5.08回に減速したと推計される。一店平均在庫から概算したもので4〜6月という四半期の結果だから通期とイコールではないが、VMIで在庫を回していた往時のワークマンから急速なSPA化で在庫回転が減速しているのは間違いない。それでもファーストリテイリングの23年8月期第3四半期(3〜5月)の3.20回転と比べれば1.6倍近く速いから、在庫効率のアドバンテージは依然として大きい。

次の成長を支える「#ワークマン女子」は6月末で37店舗に達し、チェーン全店売上高の6.1%を稼ぐに至っているが(24年3月期第1四半期)、同業態の既存店売上高は13.3%減と開店初年度からの落ち込みが大きい。「#ワークマン女子」の開店初年度売上高平均は2億9780万円と「ワークマン プラス」より45%も多く、SC(ショッピングセンター)内店舗に限れば5億3085万円と突出しており、過熱した開店人気の反動と見られるが、女性客の「期待外れ」という厳しい評価とも受け取れる。

「#ワークマン女子」店頭の商品を見る限り、機能性と価格のお買い得感は確かなものの著名スポーツブランドのような洗練にはほど遠く、「かっこいい」とか「すてき」とかいったテンションは想像できない。デザインやパターンの完成度、素材物性とのマッチングも製品買上げ小売業PBの域を出ず、ブランド商品のようなしゃれた着こなしは難しい。実用志向のミセス〜シニア層には受け入れられても、おしゃれなアスレジャースタイルを期待する「女子」(おおむね40代以下)には失望されるかもしれない。デザインもともかく、もっさりとしたおおざっぱなパターンや土臭いナチュラル、あるいは異様にビビットなアウトドア系のカラーリングも都市圏生活の「女子」層には無粋に見えるのではなかろうか。

そんな危機感を抱いて、今回の「23年秋冬物新製品発表会」と「ワークマン カラーズ」イグジットメルサ銀座店内覧会を見せていただいた。

「23年秋冬物新製品発表会」はアウトドア感覚を出ず

ガラス張りの高い天井から自然光が入る(演色がアウトドアになる)新宿住友ビル三角広場の3250平方メートルで開催された「23年秋冬物新製品発表会」では、低価格を維持したまま使い勝手の良い機能性が一段と追求され(ユニクロの中途半端な機能性と高価格が対比される)、おなじみの過激演出がアウトドアの風雨から災害時の脱出サバイバルに変わった。ワーク&アウトドア発祥のタフな機能性を深耕する一方で「女子」に向けたファッション性やフェムテックを訴求し、部分的ながらアウトドア一辺倒から都市圏生活もカバーするイメージへの転換が意図されていた。

ファンケル社開発素材を使った女性向け保湿肌着(シームレスショーツは大注目)や10段階丈調節可能なアクティブ汎用スクールパンツ「ブリスター」、高機能お手頃価格のゴルフウエアなど新たに売り上げを稼ぎそうな企画は注目されるが、カントリー&アウトドア感覚のナチュラルカラーや異様に派手なビビッドカラーはメトロ(都市圏)感覚とは相容れず、アウトドアアイテムをオーバーサイズで無理やりストリートに崩したスタイリング提案も「東京リベンジャーズ」的な周辺感(それに共感する人も少なくないが)を否めず、ファッション的な洗練とは無縁に見えた。

カントリー&アウトドアのタフな機能性にファッション感覚を加えようとしているのはわかるが、田舎娘に無理な厚化粧を施したような違和感は否めず、そのまま「ワークマン カラーズ」に持ち込んでは「#ワークマン女子」同様、都市型ホームセンター客的なミセス〜シニア層の支持にとどまり、20〜40代のメトロ感覚「女子」には失望されるのではないかと危ぶまれる。

「ワークマン カラーズ」イグジットメルサ銀座店に露呈する課題

イグジットメルサは中央通りとみゆき通りに面する(ギンザシックスの斜向かい)銀座5丁目の一等地にありながらテナントミックスのストーリーを欠いて雑居ビル化しており、5階の「ワークマン カラーズ」イグジットメルサ銀座店もエスカレーターを挟んで100円ショップの「セリア」とフロアを分け合っている。「銀座5丁目」のみゆき通りというオシャレなイメージとは乖離したロケーションだが、既存の「#ワークマン女子」を改装して新業態に転換した。

売り場面積は70坪だが後方にストックルームが21坪あり(合計91坪)、バックヤード率は23%にもなる。高い販売効率に対応する補充在庫を積むためで、既存の「#ワークマン女子」から引き継いだものだが(実見したが、ラックに棚入れするごくごく普通の方式)、全面改装なのだからオープンストック方式とかスライドロッカー方式とか、売り場を広げる策はなかったのだろうか。

売り上げは改装前を上回る5億円を計画しており、売り場面積あたり月坪59.5万円、ストックルームを含めても月坪45.8万円と高いが、「#ワークマン女子」のショッピングセンター店舗の開店初年度売上高平均が5億3085万円だから、ごく平均的な水準だ。銀座5丁目の一等地とはいえ、イグジットメルサ5階のロケーションは郊外の大型モール程度ということなのだろう。家賃負担は知る由もないが、近辺の水準から見れば計画売上高対比で10%強ほどと推察する。

エスカレーターサイドの横長店舗は奥行きが浅く、店頭から直角に3連のハイラックを並べている。エスカレーターを登った側から、トレンドも意識したウィメンズの「life is」と新開発の保湿婦人肌着、原色と黒を合わせたジェンダーレスなアウトドアの「WORKMAN-Ship」、ワークウエアとカジュアルをクロスしたジェンダーレスの「Share」、ワークウエアとウィメンズを合わせたタフ可愛ジェンダーレスな「tough」、シューズとレインアイテムが配置され、エスカレーターサイドにメンズとトゥイーンズ(小学校高学年から中学生向けジュニア服)が張り付いている。中央を実験的なジェンダーレステーマ(メンズアイテム中心の編集)が占めて分かりにくく、ウィメンズ、メンズどちらも品ぞろえが限定されて見えるのは課題が残る。

その奥にエスカレーターを向いてレジカウンターがあり、レジカウンターの後に壁を隔てて閉鎖的なフィッティングルーム(3台では不足)、レジカウンターの裏から奥にかけてストックルームが配置されるという何とも非効率なレイアウトには絶句させられた。メンズを4割に広げたのにレジから見えないウィメンズと共用の閉鎖的なフィッティングというのもデリカシーが疑われるが、メンズの大半は女性による購入(代理購入も含む)と見ているのだろう。

メンズは4割に倍増し、ユニセックス2割、ウィメンズ4割とアナウンスしているが、トゥイーンズも1割弱投入されているし、シューズも2割以上を占めているから、実際のところはメンズ30%弱、ウィメンズ40%、シューズとレインアイテム25%弱、トゥイーンズ6〜7%というバランスと見受けられる。テーマに分けたジェンダーレスな編集構成は分かり難く、ウィメンズとシューズはともかくメンズとトゥイーンズは品ぞろえが限られ、この立地ならウィメンズとシューズに絞るべきだったと思われる。

さまざまな切り口で女性客にオーバーサイズのメンズアイテム(M以上でSは例外)を推奨しているが、フィットと丈のコントラストで軽快に着こなす若者のストリート感覚とは相容れず(「23年秋冬物新製品発表会」でのスタイリング提案もオーバーサイズのレイヤードが重ったるく、軽快なストリートスタイルとは大きく乖離していた)、メンズアイテムをオーバーサイズに着る大人女子など極めてマイナーだから、マーケットとのすれ違いが危ぶまれる。

レジカウンターとフィッティングルームの配置は小売店舗運営に通じた者には理解に苦しむ非効率なもので(年間運営人時量が3000〜4000時間かさむ)、可動ミラーや買い物カゴが顧客の通行を妨げるなど、首を傾げる不守備がいくつも目に付いた。機能が説明された大型のタグも色・サイズのMD展開表や各サイズの実寸表、ECへ飛ばすQRコードがなく、ささげタグ(ECと同レベルの商品情報記載)の機能を果たしておらず、OMO運用の意識も低い。

「ワークマン プラス」も「#ワークマン女子」も商業施設内店舗はすべからく各地の販売代行業社に運営を委託しており、直営店は加盟店(FC)に渡すまでのトレーニングストアに限られる。それでは店舗運営がブラックボックスになって運営スキルが磨かれず、人時効率も停滞し、OMOも定着せず、ひいてはロジステイクスもピントがずれてチェーン運営総体が非効率化していく。

商品供給型のフランチャイズビジネスは店舗運営をブラックボックス化しがちで、現場に歪みが溜まれば運営効率が低下して壁に当たってしまう。インフルエンサー活用のSNSマーケティングを仕掛けて顧客を広げても、店舗の表現や顧客利便がすれ違っては顧客化(Life Time Value)は望めないし、店舗運営やロジスティクスの効率が停滞すれば収益構造も崩れていく。

「ワークマン プラス」の商業施設内店舗は12店で打ち止められ、「#ワークマン女子」も「ワークマン カラーズ」を含んで現段階で同17店舗、10年後も3業態合わせて商業施設内店舗は100店舗に抑える計画だが、これからもすべからく各地の販売代行業社に運営を委託していくのだろうか。今はコストメリットが大きいにしても、いずれアキレス腱になるとしたら、早々に見直すべきだろう。

アウトドアウエアからニュートラルな「ライフウエア」へ

プロ向け機能性ワークウエア&ギアの「ワークマン」から一般消費者向け低価格機能性アウトドアウエア&ギヤにコンセプトを転換した「ワークマン プラス」は画期的なヒットとなって停滞していたワークマンを再び成長軌道に押し上げ、女性向けのアウトドアファッションを打ち出した「#ワークマン女子」も「ワークマン プラス」以上の人気となって多店化とともにワークマンを再び成長軌道に乗せる勢いがあったが、コロナ明けの都市生活回帰でキャンピングやアウトドアのブームが冷え込む中、脱アウトドアの「メトロライフウエア」へのコンセプト転換が問われていた。「ワークマン カラーズ」イグジットメルサ銀座店にその回答があったかというと、アウトドアのコンセプトと商品企画のままジェンダーレスな編集演出で無理やりファッション化を図った泥縄感を否めなかった。

カントリー&アウトドアの延長上でカラリングやウエアリングをファッション化しても、周囲から浮き上がってメトロなライフスタイルとは乖離してしまう。人気もまばらなカントリー&アウトドアでのウエアリング表現と人々が密集するメトロエリアでのウエアリング表現は根本から異なり、メトロエリアでは周囲に違和感なく溶け込むストレスフリーな「ライフウエア」が求められる。都市圏に生活する広範な「女子」の支持を得てユニクロを脅かす勢力となるには、メトロなライフスタイルにストレスなく溶け込むニュートラルな「ライフウエア」に根本からコンセプトを転換する必要があるのではないか。

「ライフウエア」は機能性スポーツウエアがアスレジャーの奔流となって旧来のカジュアルウエアに取って代わる中で台頭したコンセプトであり、さまざまな既成概念やストレスから心と体を解放するニュートラルな「心地よさ」が基本となる。吸汗速乾、透湿防水・撥水、吸湿発熱・蓄熱、保湿、抗菌防臭、帯電防止、難燃・防炎、防刃・防弾、汗染み防止、防シワ・形態安定、UVカット、接触冷感など、さまざまなストレスから解放する機能性ももちろんだが、TPOレス、シーズンレス、エイジレス、ジェンダーレスといった既成概念や服の構造からの解放も意味する。

そんな視点ではユニクロの機能性は部分的で、服の構造も旧来のアメカジやトラッドの文法を出ていない。「ワークマン カラーズ」とてアウトドアの機能性は追求しても、都市生活のストレスから解放するデリケートな機能性や旧来の制約を超えた構造の服を開発しているわけではない。アウトドアアイテムにファッション性を加えてもニュートラルな「ライフウエア」には成りようがない。

ビジネスシーンにおいて「アクティブスーツ」が旧来のテーラードスーツに代わる「ライフウエア」と成りつつあるのと同様、カジュアルシーンにおいてもゴールドウインの「ニュートラルワークス.」やアダストリアの「スマイルシードストア」など、旧来のカジュアルの概念を変えるニュートラルな「ライフウエア」が台頭している。どちらもEV(電気自動車)のギガキャストのように生産プロセスを一新する服の構造革命に踏み込んでいるわけではないが、ニットにおけるホールガーメント的な構造革命(ワークマンのシームレスショーツはそれに近い)も遠からず実現されるだろう。

産業革命以降の近代に形成された職住分離の労働概念も核家族的な男女分担も崩壊し、社会構造もライフスタイルも大きく変わり、服の概念を一変させる革命が進行する中、ユニクロもワークマンもマーケットの変容に立ち遅れては成長神話も崩れてしまう。ニュートラルな「メトロライフウエア」は衣服文明もアパレル産業も一変させる時代を画する革命であり、「#ワークマン女子」「ワークマン カラーズ」もカントリー&アウトドアという既成概念を脱して広範な都市圏生活女子の「メトロライフウエア」に脱皮することが急がれる。

 

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