小島健輔の最新論文

繊研新聞2009年1月6日付掲載
第101回全国有力SCテナント調査2008年秋商戦(8〜10月)
『大恐慌に耐えて清貧の花を咲かせよう』
(株)小島ファッションマーケティング代表取締役 小島健輔

恐慌前夜の穏やかな凋落

 今秋商戦は夏商戦に続いて低迷し、百貨店婦人服洋品は93.3と昨秋から3.1ポイント、百貨店紳士服・洋品は95.7と1.9ポイント、レディスブランド/ストアは96.2と2.0ポイント、メンズブランド/ストアは95.5と1.3ポイント水準を落とした。とは言え、恐慌に突入した冬商戦に較べれば穏やかなもので、直近の12月商戦など二桁割れが当たり前。7掛け6掛けというブランドも珍しくない。
ラグジュアリ−消費文明は終焉した
 金融恐慌が実体経済に波及して自動車や家電といった基幹産業まで不振を極めるという惨状下、消費も生産も雇用も急激な縮小スパイラルに陥っている。家計資産の目減りに加えて雇用まで危なくなった国民はひたすら生活防衛に走り、価値と価格の常識が一変して値崩れが急速に拡がっている。売れているのは高機能高品質商品を低価格で提供する国民的SPAや最低価格のファストアパレルばかりで、ユースドや手持ち衣服を仕立て直しする更正服さえ再評価されている(お直し屋さんは大繁盛です)。国民はもはや不要不急の衣料品や浮ついたラグジュアリー品に支出を振り向ける情況ではなく、80年代から四半世紀も続いた飽食のラグジュアリ−消費文明は終焉した。
 遠からずラグジュアリーブランドの多くは店舗網の縮小や日本撤退に追い込まれ、高コスト高歩率体質を是正出来ないまま売上減少に手を拱く百貨店は大規模な店舗閉鎖を余儀無くされよう。百貨店が二百店を割り込むのも時間の問題で、回収の覚束ない改装や新規出店に投資する情況ではない。高コスト体質を抜本的にリストラして歩率を駅ビル並みに下げない限り、百貨店は百貨店アパレルとともに心中するしかないのだ。

低迷ながら一部に回復が見られたレディス

 秋商戦では33ブランドが脱落する一方で35ブランドが好調組に加わり、夏商戦の低迷からわずかに回復した。堅調を継続したのはセクシーガールだけでセレクトショップも水面に留まり、ヤングカジュアルやストア型SPAは水面にわずか届かず、ワーキングガールやトランスキャリア、ミッシー、ミセス、キャリア、プレタは低迷を継続。ラグジュアリープレタは二桁割れに陥った。
 ヤングではストリートキャラクターとモード系ストリートカジュアルが堅調でナチュラルカジュアルとストリートカジュアルの一画にも好調ブランドが見られ、「Xガール」「アルシーヴ」など5ブランドが好調組に加わる一方で6ブランドが脱落。セクシーガールではネイティブ系が失速する一方でコーストアメカジ系が絶好調に加速、グラマラスモード系は好調を継続し、「リップサービス」など2ブランドが加わる一方で5ブランドが脱落した。ワーキングガールはやや回復し、「ルラシェ・トア・フォン」「アパート・バイ・ローリーズ」など11ブランドが加わる一方、脱落は4ブランドに留まった。
 セレクトショップでは「シップス」「フリーズショップ」など4ブランドが加わる一方、2ブランドが脱落した。低迷を継続したクリエーターズでは2ブランドが脱落。ストア型SPAでは「チャオパニック・ティピー」「オリーブ・デ・オリーブ・ドール」など6ブランドが加わる一方、7ブランドが脱落した。
 低迷継続のトランスキャリアでは「エヴー」が加わって1ブランドが脱落。ミッシーでは「シャンブル・ド・ニーム」が加わって1ブランドが脱落した。キャリアでは「セオリー・リュクス」が加わって1ブランドが脱落。ミセスでは「バジーレ28」など3ブランドが加わる一方、2ブランドが脱落した。低迷継続のプレタは好調ブランド皆無を継続。低迷を深めたラグジュアリープレタでは2ブランドが脱落して好調ブランドが無くなった。ラグジュアリーグッズは好調ブランド皆無を継続した。
 消費低迷下でも売上を伸ばしたナチュラル系ブランドは手頃価格と楽ちんな緩レイヤードで団塊Jr層まで取り込み、同じく一部の109系ブランドは手頃価格と緩セクシーフィットの旬な単品でOL層まで取り込んでおり、世代が限定されるブランドと明暗を分けた。

わずかに回復したメンズ

 メンズもわずかに回復し、4ブランドが脱落する一方で新たなに7ブランドが好調組に加わった。  ヤングは好調継続のエクストリーム系を除いて低迷を継続、「Xラージ」が加わる一方で1ブランドが脱落した。ヤングアダルトは低迷ながらやや回復し、「55DSL」「コムサメン・プラチナ」が好調ブランドに加わった。クリエーターは水面を回復したものの好調ブランドは皆無。スポーツ&ジーニングも好調ブランド皆無を継続した。コンテンポラリーはスタイリッシュモードの一角が浮上したものの、好調ブランド皆無を継続。アダルトとビジネスは壊滅状態を継続した。プレステージも低迷を継続して好調ブランド皆無を継続した。
 ストアは低迷を継続して2ブランドが脱落。SPAは回復して堅調タイプが増え、アメカジ復活に乗った「フラッシュ・リポート」など3ブランドが加わる一方で1ブランドが脱落した。セレクトショップは勢いを欠き、1ブランドが加わるに留まった。
 アウトドア系もサーフ系も一時の勢いを欠いたがアメカジ系やエクストリーム系に風が吹き、割高な百貨店は低迷を継続したが価格合理性の高いSPAは堅調に回復という嵐の前の穏やかな秋商戦だった。

大恐慌に耐えて清貧の花を咲かせよう

 世界恐慌が現実となって消費も生産も雇用も急激な縮小スパイラルに陥る中、不要不急のファッションビジネスは縮小均衡が避けられない。恐慌の寒風の下、人々は永年エスカレートさせて来た豊かな生活を根底から見直し、過剰消費/過剰付加価値を排して清貧で心豊かな暮らしを再構築しようとしている。それは敗戦の焦土に立った昭和20年代に匹敵するほどのパラダイム転換であり、モードとラグジュアリーの過剰消費の日々は二度と還って来ないと腹を括るべきだ。
 短期の回復を期待して対策が遅れれば破綻は避けられない。まずは不採算事業/ブランド/店舗を果敢に撤収して出血を止め、次いで精緻なプロセスマネジメントとディストリビューション&インベントリーコントロールによって、米国ギャップ社のように売上減少下でも増益出来る体質を確立すべきだ。その上で素材開発や製品化工程にまで踏み込んだ真摯な商品開発によって勝てるバリューと価格を実現し(生産原価率35%以上が鉄則)、大恐慌の焦土に花咲く清貧で初々しいパワーブランド/業態を世に問うべきではないか。

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