小島健輔の最新論文

ブログ(アパログ2018年06月18日付)
『顧客から目を離すな!』
小島健輔 (株)小島ファッションマーケティング代表取締役

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 来春夏の素材展も4月のプレ展に始まって6月の実需展と大手商社の総合展で一巡したが、今シーズンの特筆点はプレ展と実需展で方向が一変した事、欧米トレンドとローカルトレンドが極端に擦れ違った事だ。
 4月のプレ展では有力テキスタイルコンバーターは合繊系機能素材に注力して麻系ナチュラル素材、キュプラやレーヨンなど人絹素材は限られ、既にマーケットの変調に気づいていたアパレル筋からの不評を買っていたが、6月の実需展では一転して麻素材や麻風合いの合繊混素材、微光沢感や透け感のある人絹素材が出揃っていた。その2ヶ月間に麻素材の需給が逼迫して価格が高騰したという“おまけ”まで付いたほどの急転回だった。
 そんな急転回が生じたのも、テキスタイル業界が欧米トレンド情報に偏って国内ローカルトレンドの変化を見落としたからだ。にもかかわらず、6月の商社総合展でも欧米トレンドが恭しく紹介されていた。『なんでそんな外れた情報に依存するの?』と聞いた所、顧客のアパレルやSPAがメジャーな情報として知りたがるからと答えていた。
 確かに半年以上も前に意思決定して大量発注するならメジャーな権威のある欧米トレンドオフィスの情報に頼らざるを得ないのかも知れないが、それでは皆が同じような商品を大量発注して過剰供給になってしまうし、顧客と擦れ違えば残品の山を築いてしまう。もう少し引き付けて顧客のローカルトレンドを掴み、せいぜい3〜4ヶ月の生産期間で調達すれば大外しすることは避けられるのではないか。
 大量残品の要因は発注時と販売時の時差によるトレンド変化と需給変化、ゼネラルな欧米トレンドと自社顧客のローカルトレンドとのギャップだから、この差を極小化すれば大失敗は避けられる。ならば刻々と変化する顧客のローカルトレンドから目を離さず、リー&フォン社のサプライチェーン革命のように開発〜生産時差を極力短縮するべきだ。
 同質化と過剰供給の源泉たる欧米トレンドなどに依存せず、自分の顧客と周囲の顧客のローカルな嗜好変化を刻々と追い続けることこそトレンド掌握の本道ではないか。そんなスタンスに徹する当社の「MDディレクション」(レディス/メンズ)は19SS版を製作中だが、すでに99%固まって素材の当て込みを進めるばかりだ。
 顧客のローカルなスタイリング変化を見落とさなければ来シーズンのトレンドは容易に掴めるし、開発時差を圧縮すれば需給のギャップも最小化できる。70年代の国内生産垂直分業時代には、そんなプロセスが成り立っていたからギョーカイの最終消化率は99%に近かった(17年は48%)。主導権はとっくに欧米トレンドやギョーカイではなくローカルな顧客に移っているのに、どうして現実を見ようとしないのだろうか。

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