小島健輔の最新論文

商工ジャーナル2008年6月号掲載
『SPA化が進むアパレル業界と外国企業の参入』
(株)小島ファッションマーケティング代表取締役 小島健輔

 アパレル業界は市場規模の縮小に歯止めが掛からないまま、SPAのメジャー化によって小売業とメーカーの際がなくなり、景気後退とともに販売チャネル間のバリュー競争が激化して高コストな百貨店流通が急速に凋落しつつある。

縮小と効率悪化が続くアパレル業界

 衣料品の市場規模は91年をピークに毎年縮小が続いており、07年下期には通年ベースで91年比66.9%まで縮小。家計支出に占める被服履物支出比率(エンゲル係数と同様にファッション係数と呼びたい)も91年の7.28%から07年下期には通年ベースで4.23%まで低下してしまった。この間に衣料品比率の高い百貨店の販売効率は58.5%に、ショッピングセンターの販売効率は57.2%まで低下している。アパレル業界はまさに構造不況業種と言わざるを得ないのが実情だ。
 その一方で、売上対比の小売不動産比率(家賃、保証金金利、内装償却費など)は93年の14.0%から07年には20.3%に、販売人件費率は91年の10.7%から07年には14.0%まで上昇。本来ならこのコスト増が収益を直撃するはずだが、上場アパレル企業の決算に見る営業利益率は06年までは逆に上昇傾向にあった。消費景気が暗転した07年下期以降はさすがに急落に転じたが、この間の営業利益率の上昇をもたらしたのがSPA化による粗利益率の向上だった。

SPA化がもたらした構造変化

 SPAとはSPECIALTY STORE RETAILER OF PRIVATE LAVEL APPARELLの略で、自社ブランドによるアパレル製造小売業を意味する。アパレルメーカーが直営店を展開しても小売業がオリジナルを開発してもSPAとなり、企画から販売まで一貫する事で粗利益率は確実に向上する。アパレル卸業では粗利益率はせいぜい30%、仕入れに依存する小売業ではせいぜい40%前後だが、SPAでは低くても50%前後、上手く回せば60%台に乗せる事も出来る。実際、ポイントは60%の粗利益率を実現しているし、多くのアパレルメーカー系SPAも60%前後の粗利益率を確保している(低価格を売物にするユニクロは47.6%とやや低めだが)。
 70年代まではアパレルメーカーと小売業の際ははっきりしていたが、80年代初期のDCブランドブームを契機にアパレルメーカーの直営店展開がメジャー化する一方、90年代には中国のアパレル生産基地化を背景にAMS(APPAREL MANIFACTURING SERVICE、企画開発機能を持ったOEM業者)が急速に台頭し、小売業のオリジナル開発は飛躍的に容易となった。
 AMSは生産手配のみならず、デザイナーやパターンナーを抱えて商品企画から仕様開発まで代行し、小売業者は開発したい商品のイメージを伝えるだけでオリジナル商品が手に入るようになった。近年は機動的商品開発を志向してアパレルメーカーまでAMSを積極活用するようになり、アパレル業界の商品開発は一変してしまった。結果、アパレルメーカー、小売業の双方からSPA化が急進して両者の際は崩壊し、消費者が店頭で見ても両者の見分けは困難となった(業界人でも内情を知らないと見分けはつかない)。
 製販を一貫する効率的で利幅の厚いSPAがバリュー(価格対比の商品価値)でも収益力でも突出する事になり、バリューでも収益力でも劣る卸業者と仕入れ依存の小売業者は急激に淘汰されて行った。SPA化はインショップ展開の百貨店ブランドでも急進したが、30%台半ばから後半という百貨店の高歩率(売上対比家賃比率にほぼ相当)が災いして割高となり、ほぼ半分の家賃比率で済む駅ビルやショッピングセンターに出店するSPAとのバリュー競争に敗北して急速にシェアを失いつつある。

多様化するSPA

 一言でSPAと言っても、その形態は極めて多様だ。GAPやユニクロに代表される大ロットで開発期間の長い大仕掛けの工業的SPAの一方、109(ギャルファッションのメッカと言われる渋谷のファッションビル)の小さなブティックのように一週間で小ロットの商品開発を回すウィークリーSPAも存在する。ウィークリーほどではないが、小売業系では4週から8週の開発期間で毎週のように新規商品を投入するファーストSPAが主流となっている。上場企業のポイントはその代表格と言ってよいだろう。
 工業的SPAがスタッフを抱えて企画・開発を自ら行うのに対し、ファーストSPAは様々な機能を持ったAMSに企画・開発の多くの部分を委嘱している。だからこそ社内の労務的限界に縛られる事なくクイックに市場対応し、開発に関わる固定費も低く抑えている。
 ファーストSPAの強みはクイックな市場対応であり、工業的SPAの強みは圧倒的なバリューに他ならない。ファーストSPAは鮮度で勝負するも開発期間が短いだけに類似商品との同質化に巻き込まれ易く、工業的SPAはバリューで突出するも開発期間が長いだけに鮮度は訴求し難い。どちらもメリット・デメリットがあって甲乙を付け難いが、工業的SPAは大きな市場を大仕掛けで狙うビジネス、ファーストSPAは小さな市場を手軽な仕掛けで狙うビジネスであり、それぞれの特性を活かして市場を分け合っている。
 この両者に加え、セレクトショップのバラエティやミックス感、SPAのバリュー感と収益性を兼ね備えたセレクトSPAという類型もメジャー化している。ユナイテッドアローズやシップスはその好例だ。

SPA間のグローバルウォーズが勃発

 アパレル市場の勝ち残り組はSPAばかりとなった今、世界で勝ち残ったグローバルSPAが続々と進出してSPA間のグローバルウォーズが勃発せんとしている。95年に上陸して既に109店舗を展開するGAP(米国)、同じく98年に上陸して既に29店舗を展開するZARA(スペインのインディテックス社)に加え、今秋にはスエーデンのH&M、来春には米国のアバークロンビー&フィッチも上陸する。
 商品開発力やバリュー感に加えて店舗オペレーションやロジスティックス、イメージ戦略など、システムと経営戦略の総力戦になるから、ファーストリテイリングを筆頭とする国内SPAがどう闘うか注目される。

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