小島健輔の最新論文

ブログ(アパログ2019年01月10日付)
『良いファンドと悪いファンド』
小島健輔 (株)小島ファッションマーケティング代表取締役

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 このギョーカイはよほど行き詰まっているのか、ファンドあるいは実態は投資会社のような企業による買収が頻発しているが、立て直して再生できるケースは稀で、リストラの果てに資産をバラ売りして解体されるケースさえある。どうやらアパレル企業を買収するファンドには良いファンドと悪いファンドがあるようだ。

 悪いファンドに共通しているのは、1)短期で見た目の業績を改善しようと財務優先で投資や在庫、人件費をカットして組織の活力と先々での収益力を毀損してしまう。2)運営の実態や顧客を見ないで数字と人事だけで現場を弄り、運営を混乱させ顧客を離反させてしまう。

 そんなやり方に流れるのはファンドが短期のイグジットを画策するのに加え、ファンドが雇ったプロ経営者も短期での“結果”を急ぐからだと思われる。中にはもとより再建する意思などなく、ファンドは短期で見た目の業績を化粧して売り抜け、プロ経営者は巨額の成果報酬を手にする、という取り込み詐欺紛いの構図さえ見られる。そんなハゲタカたちに支配されては企業は食い物にされ働く者は使い捨てられるだけで、ハッピーなイグジットなどあり得ない。

 良いファンドに共通しているのは、1)長期的な業績向上によるイグジットないしは長期の保有を意図し、2)業務の実態を掴んで現場が成果を上げやすくなるよう財務的に支援し、3)働く者のやる気を引き出すガバナンスの整備に務める。短期の“結果”を急ぐ渡り鳥型のプロ経営者に依存せず、実務責任者の力量を引き出すコーチング型か実務に精通した長期委任型の経営者を招く、あるいは内部の信頼できる執行責任者に委任する。

 ファンドに限らず資本支配する親会社などから出向する経営者が再建を指揮する場合でも、短期の“結果”を求めて経費カットや在庫操作などで見た目の業績を化粧したり、親会社を向いたスタンドプレイに走って無駄な経費を費やし、施策が現場と乖離して混乱を招き、体力を消耗させて再建が遠のくケースが少なくない。

 出向企業の実態を掌握して運用レヴェルからカイゼンを積み上げ体力をつけてから再構築に移るのが正道だが、大概は前任者や現場の実績を否定して彼らがコツコツと積み上げた仕組みを崩し、裏付けのない風呂敷を広げて新たな消耗戦に走ってしまう。そんな茶番劇の繰り返しで資本も人材も顧客も毀損してしまう悲劇は見たくないものだ。

 ファンドにせよ親会社にせよ、資本支配による経営関与はどうあるべきか、財務戦略や経営戦略以前に組織活力を引き出すガバナンスこそ再生の決定打だと思う。

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