小島健輔の最新論文

販売革新2021年01月号
日本のチェーンストア産業が今、取り組むべき課題
『チェーンストアに問われるサステナビリティとDX』
小島健輔 (株)小島ファッションマーケティング代表取締役

 コロナ禍で贅沢消費・感性消費に依存する百貨店やアパレルの売上が激減する中も、食品やドラッグ、日用雑貨・生活衣料中心のチェーンストアはエッセンシャルニーズに支えられてダメージが浅く、あるいは活況を呈したが、平常時とは需給が激変し、お値打ち価格の維持や安定供給という面では課題を残した。

 

■チェーンストアはエッセンシャル産業だ

そもそもチェーンストアとは国民の生活を支えるエッセンシャル産業であり、「生活財をお値打ち価格で安定供給するサステナビリテイ」を第一義とするはずだが、90年代以降、30年も続くデフレ局面の中で付加価値を志向して事業コストを肥大させ供給を硬直化させ、存在意義に逆行する事業者も少なくなかった。コロナ禍ではそんな事業者や事業部門がダメージを受ける一方、事業コストを抑制し安定したサプライチェーンを築いた事業者には追い風が吹いた。

「お値打ち価格での安定供給」には、付加価値を乗せるギャンブルや利幅を稼ぐ大量一括調達の誘惑に耐え、サプライヤーと一体になっての安定した需給対応に精進する必要があるが、成功体験を重ね独占的優位に立った事業者は容易に誘惑に落ち、自らに利益を集中して同時にリスクも抱え込み、ひとたび逆風が吹けば過剰在庫を抱え、あるいは商品の供給を絶たれ、顧客もサプライヤーも離反して立ち尽くしてしまう。コロナ禍に振り回された2020年はそんなドラマを散々、見たのではないか。

流通業は消費と生産の間にあって円滑な供給に努めるのが責務で、自らの利益のために商品の流れを妨げてはならない。機を見るに敏な商人はコロナ禍で衛生商品を買い占め価格を吊り上げて利ザヤを稼ぐなど、あざとく立ち回ったかもしれないが、混乱が収まるに連れ、常日頃から培ったサプライヤーとの絆を駆使して継続供給に努めた商人が勝ち残った。利幅を稼ぐために大量一括調達の誘惑に落ちる事業者は絶えないが、継続的サプライを分断すれば消費と生産の需給調整を妨げ、過剰在庫を抱えて値引き販売に流れ、あるいは欠品して顧客の期待を裏切ることになる。

チェーンストアが生活財を安定供給するエッセンシャル産業だとすれば、機を見た単発調達で特売を仕掛ける狩猟民的商人ではなく、継続供給でEDLPに徹する農耕民的商人であるべきだろう。コロナクライシスはそんな商いの本質を問うたのではないか。

 

■ウォルマートはディスカウントストアではない

 米国内に5,355店、世界で11,503店を展開して5,240億ドルを売り上げ(20年1月期)、カーブサイド・ピックアップなど店舗網と店舗物流を駆使した顧客利便のC&Cでアマゾンを突き放す世界最大の小売業者ウォルマートはディスカウントストアの代表のように言われるが、ウォルマートのマーチャンダイジングの基盤は継続調達のVMIであって、随時調達のディスカウンターではない。ウォルマートの品揃えはVMIで供給される台帳陳列の棚がズラリと並ぶ広い通路の間や陳列棚列エンドに随時調達のディスカウントアイテムが量販陳列される二重構造だが、基本は継続供給のVMIだ。

ウォルマートのVMIはカテゴリーキャプテン制と紹介されて久しいが、基本的な業務体系は変わっていないはずだ。毎シーズン、カテゴリー毎の最大ベンダーたるカテゴリーキャプテンがまとめ役になって設定する基準棚割に基づいて、ローカル毎のカテゴリーブローカーが個別店舗のフェイシング量を設定する。それに基づいて補充サイクル毎にAIがアルゴリズムで弾き出す各店舗の補充数量を、各店舗のカテゴリー担当者が棚のフェイシング量を目視確認して検証し、携帯端末が示す補充投入予定量を必要なら打ち変える、というチームワークで回している。補充サイクルはカテゴリー毎の消化回転速度で異なるが、基本的な仕組みは変わらない。カテゴリーキャプテン制は棚割設計に基づくVMI継続供給が大前提であり、放出アイテムの随時調達というディスカウントストアとは根本から異なる。

 我が国のディスカウントストアを代表するドン・キホーテ(PPIH)にしても、陳列棚列エンドや通路に山盛りされる特売アイテムは随時調達でも、陳列棚にぎっしり圧縮陳列されるアイテムは、本部や支店が設定したベンダーや店舗が独自に探したベンダーから各店舗の担当者がトコロテン型に棚割を組んだ流動的VMIになっている場合が多い。随時調達アイテムだけでは、ディスカウントストア事業だけで1兆1千億円を超える売上規模(1兆1175億円/連結1兆6819億円)を回していけるはずもない。

※VMI(Vendor Managed Inventory)・・・あらかじめ定めた陳列棚割と販売計画に基づいてベンダーに在庫管理と補給を委任する取引形態。

※カテゴリーキャプテン制・・・カテゴリー毎の最大供給者がリーダーとなってシーズン毎の基準棚割を組むというウォルマートのVMI体制の骨格。

※ブローカー・・・米国の問屋には在庫を抱えて供給する「ディストリビューター」、在庫を抱えず棚割や催事仕込みなどローカルマーケティングを提供する「ブローカー」の2タイプがある。

※トコロテン型棚割・・・アイテム/SKU配置を固定して一定期間補充するのが「台帳型」、アイテム/SKU配置のパターンを決めて類似商品を切り替え補充するのが「トコロテン型」。後者はファッション衣料や服飾雑貨などデザイン変化に対応して小ロット生産されるアイテムに向いている。

 

■利益とリスクを抱え込んでは安定供給は担保できない 図表)SPAの在庫配置

 低コストで安定した継続供給が求められるエッセンシャルアイテムはVMIが必須で、随時調達のディスカウントアイテムや一括調達のオリジナルアイテムだけでは顧客の期待に応えられない。オリジナル調達にしても工場直の「直貿」に拘らず、ベンダーや商社の生産ライン制御や在庫管理・物流機能を活用して無理無駄のない供給を図るべきで、安定供給を求めれば必然的にVMIになる。

 オリジナル商品によるエッセンシャルなSPAでも、ユニクロ(ファーストリテイリング)と無印良品(良品計画)の業績格差がじりじりと開き、コロナ禍の20年8月期(ユニクロは12ヶ月/無印は変則6ヶ月)では明暗を分けたが、その根本的な原因は1)アイテム数の絞り込みによる調達ロットの差、2)シーズンMD構成の安定性の差、3)サプライのチームワークと自社完結の差だった。

 無印良品の衣料・雑貨はアイテム数が多く平均調達ロットはユニクロの十分の一以下で必然的にコストが高く、価格を競おうとすれば『わけあって、安い』と品質を下げざるを得ない。各シーズンのアイテム数も年毎に変動が大きく、販売消化データの継続性を欠けば消化予測の精度も落ちる。ロットが限られる上に生産地在庫の管理・物流も100%出資のソーシング子会社に担わせているから資金負担が重く、商社のような融通も利かない。対してユニクロは各シーズンのアイテム数が絞られてロットが桁違いに大きく、毎年のアイテム展開も変化が少ないから販売消化データの継続的蓄積で消化予測の精度も高く、生産地在庫の管理・物流もアイテムや地域に通じた複数の商社に託しているから、在庫の負担が軽く融通も利く。

 国内ユニクロが店舗在庫40%、国内倉庫在庫60%のバランスを保っているのに対し、良品計画国内事業の店頭在庫比率は18年2月期の40.7%から年々低下し、20年2月期は33.0%、20年8月期は27.4%まで落ちているが、過年の売れ残り在庫が積み上がっていると推察される。

ユニクロは素材では東レ、ホールガーメントニットでは島精機、生産地在庫管理・物流では三菱商事など複数の商社と戦略同盟を結んで外部の知恵と力を有効に活用し、自社の負担を軽減して商品開発と店舗運営・販売に戦力を集中しているが、良品計画は自社内で完結している。その一方でアイテムによっては商品開発を外部に依存するなどサプライチェーン戦略が徹底されておらず、商品力でも在庫管理・物流でもユニクロとの格差が開いている。ユニクロはSPAと言ってもサプライヤーとの戦略同盟で独自の擬似VMI体制を確立しており、利益もリスクも一人で抱え込む古典的なSPA体制の無印良品を突き放している。

ユニクロより格段にVMIを活用しているのがワークマンだ。今や過半を超えたオリジナル商品はともかく、最低10年は継続展開すると顧客に保証しているプロ向けアイテムは、多頻度に更新して精度アップしているアルゴリズムに基づくVMIで、ほとんど在庫リスクなく調達している(年間の値引きロスは売上の1.2%でしかない)。戦略同盟という視点でも、9月末で885店に達するワークマンの店舗はほとんど買取VMIのFC店であり、販売面でも在庫リスクは極めて限られる。

 

■DXがVMIを革命的に効率化する

 VMIが作り置き倉庫在庫を補給するにとどまるならサプライチェーンの機動性は限られるが、販売動向が生産ラインに直結するなら飛躍的なサプライ効率が実現し、過剰在庫も欠品もなくなる。

 生産コストを抑制すべくどんどん遠隔地へ移転して生産ロットも肥大し、大量に作り貯めた在庫をシーズンかけて売り減らす悪習が定着しているが、それでは需給の変化に対応できず、大量に売れ残って叩き売ったり翌シーズンに持ち越すケースが頻発している。国内ユニクロこそ商社などとの製販同盟に支えられて前期で2.78回転、コロナ禍の今期(20年8月期)も2.38回転に踏みとどまったが、良品計画国内事業は20年2月期の2.67回転から20年8月期は1.99回転と2回転を割り込んだ。連結決算ではソーシング子会社が生産地に抱える在庫(国内売上比率から国内向け在庫を算出)が加わり、20年2月期では1.92回転、20年8月期では1.3回転まで落ちたと推計する。

 コロナ禍に直撃されたとはいえ、ここまで在庫回転が悪化するのは、コストを落とすべく販売期のはるか以前から作り貯めて生産地の倉庫に積み上げているからで、シーズンに入って売れないからと言って生産ラインを止めるわけでもないし(とっくに生産は終了している)、予想以上に売れたからと言って即、追加生産できるわけでもない。そんなジレンマを解決するのが、商品企画のCADから生産ラインのCAMまでデジタル連携して販売動向に機動的に生産対応するDX(デジタル・トランスフォーメーション)だ。

 それにはデザインからパターンメーキング、仕様設定、3Dサンプリングまで企画段階のデジタル化、マーキングCADや裁断CAMから自動縫製まで生産段階のデジタル化が不可欠で、デジタルCAD・CAM装備のスマートファクトリーを消費地近辺(国内だけでなく中国沿海部まで)に配して補正生産すれば、2週サイクル(小ロット国内生産なら1週サイクルも可)で販売動向に対応できる。ユニクロのパターンオーダー感覚のセットアップ「ジャストサイズ」企画など、2000サイズから選んでネットで注文すれば大概の地域で翌日には届くが、これは2000サイズのミニマム在庫を出荷倉庫に用意し、SKU在庫差異を短サイクルに補正生産しているからできる芸当だ。

 こんな短サイクル補正・補充生産が実現すれば、コストを抑制すべくシーズンの遥か以前から生産する数量を圧縮でき、需給ギャップと売れ残り在庫の問題を解決できる。多少は調達コストが上がるだろうが、値引きと売れ残り在庫のロス、欠品による機会ロスには遠く及ぶまい。

 

■コロナを契機に店舗運営のDXも加速する 写真)ZARAのショールーミング

 店舗要員の人手不足や人件費負担から進み始めていた店舗のDXも、コロナ感染拡大を契機に急加速する。お・も・て・な・しよりソーシャルディスタンスが問われ、無人販売や無人精算が求められる中、ネット連携のセルフ販売やキャッシュレスの無人精算がどんどん広がっていく。

 ネット連携では商品タグからECサイトに飛んでさ・さ・げ情報や購入客レビューを見たり、在庫を照会したり発注するショールーミングはもちろん、買い回りを避けるべく事前にネットで調べて店舗と商品を絞り込み取り置きもするウェブルーミングも駆使できるよう、二次元コードやストアアプリを実装する必要がある。アパレルのセルフ販売では販売員との接触を避けるべく、擬似フィッティング用のサイズトルソーロボットや3D採寸&AIレコメンドのリモート・フィッティングシステムも広がるに違いない。

 コンビニエンスストアの「amazon Go」に始まった無人精算も、膨大な処理能力を要する画像解析AI頼りから、グロサリーストアの「amazon Fresh」ではもう少し手軽なAIカメラ&重量センサー付きスマートカートに進化(アプリのID認証は同じ)する一方、アパレルではICタグとセルフレジ、ゲートセンサーを使ったシステムが広がり始めている。食品スーパーではスマートカート軸、アパレルではICタグ軸の無人精算が広がり、店舗販売は急速に無人化していくだろう。

 店内マテハンだけは無人化は難しいが、ICタグとセンサーがあればリアルタイム・フェイシング管理は無人でできるから、AIの指示で作業を効率化できる。巨大自動販売機方式を除けば棚入れや棚整理は当分は人力だが、80年代に確立された重力スライドによる後方からの自動補充という手もある。根本からマテハンを省人化したければ、次に述べるように販売と物流を分離すれば良い。

 

■ウェブルーミングサロンとC&C 写真)GUのショールーミングストア

 マテハン人時量を圧縮したければ、お試しサンプルだけの「ショールーミングストア」にすれば良いが、アパレルではサイズサンプルの運用が手間取り、ZARA(ワンサイズ陳列でストックにサイズを持つ)もGU(全サイズ陳列で試着後にスタッフが陳列に戻す)も省人時効果は期待できないという実験結果に終わったようだ。どちらも多店化の目処は全く立っていないから、アパレルのショールーミングストアはポップアップ型を除いて広がらないと見る。

 ならば注目されるのが、ネットで選んで取り寄せ試着する「ウェブルーミングサロン」(在庫を持たないからストアに非ず)で、もとよりサンプル在庫も持たないからマテハンの手間は限定されるし、EC在庫のみならず近隣店舗からも取り寄せて受け取りと修理加工の拠点とすれば、C&Cサービスのローカル拠点となる。C&Cサービスはウェブルーミングの受け取り利便だから、注文者の近隣店舗在庫を引き当ててローカル宅配業者を使えば、倉庫在庫を引き当てて全国区の宅配業者を使うより1日以上早く半額の宅配費用で届けられるし、店舗での受け取りは最速、注文30分後から可能で、当然に宅配費用はかからない。ローカル宅配は送料無料にし、受け取りの速さと合わせてEC専業者に対する優位を勝ち取るべきだ。

 近隣店舗在庫を取り寄せるためだけにローカル運送業者を契約しては採算に合わないから、ウェブルーミングサロンを展開するなら、ローカルエリアの店舗間で在庫を融通するテザリングと一体に運用するべきだ。もとよりC&Cはローカルマーケティングであり、顧客利便と在庫効率を図ってECと店舗販売を連携するにはテザリングが必定で、修理加工基地の集約と合わせればコストも大きく削減できる。

 ECといえばデジタルに走りがちだが、アパレルや履物ではC&Cの肝はフィッティングとテザリングというアナログなスキルにある。食品スーパーならダークストアとカーブサイド・ピックアップであり、ウイズ・コロナでECが拡大する中もチェーンストアのEC専業者に対する優位を確保する必須条件だ。

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