小島健輔の最新論文

商業界オンライン 小島健輔からの直言
『小島健輔の視点「ユナイテッドアローズのZOZO離れに何を見る」』 (2019年02月13日付)
小島健輔 (株)小島ファッションマーケティング代表取締役

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『影響は軽微』というZOZO側の強気にかかわらず、『ZOZOARIGATO』を契機とした出店アパレルのZOZO離れはジリジリと広がっているが、09年の自社EC再スタート以来、10年も続いてきたZOZOへの運営委託を解消するというユナイテッドアローズのZOZO離れは別の意味でZOZOの苦境を露呈している。

蜜月関係から離反へ

 セレクト最大手のユナイテッドアローズが09年の再スタートからZOZOに開発と運営を委託してきた自社ECを19年10月以降、新たなパートナー企業と組んで自社運営に切り替える。自社ECの運営委託は解消してもZOZOTOWNへの出店は継続するとしているが、不可分な関係と見られてきたユナイテッドアローズのZOZO離れはアパレル業界のみならずECサポート業界にも衝撃を与えている。

 ユナイテッドアローズとZOZOとの取引はZOZOTOWN開設直後の05年5月の出店に始まり、09年に開設した“現行”自社サイトもZOZOに開発・運営を全面的に委託してきた。“現行”と書いたのは、07年4月に自社運営サイト「LICLIS」を開設したものの軌道に乗らず、1年もたたない08年2月に閉鎖に追い込まれているからだ。失敗の教訓からEC運営のプロたるZOZO(当時の子会社スタートトゥデイコンサルティング)への運営委託に切り替えて以降、急拡大に転じ、蜜月関係が続くことなる。

 ところがZOZOは受託販売事業(ZOZOTOWN)に比べて収益性の劣るB2B事業(ブランドECサイトの開発・運営サポート)に見切りをつけ、15年3月期の取扱高177億円をピークに一度は縮小に転じ、スタートトゥデイコンサルティングも本体に吸収している。18年3月期から再強化に転じてB2B業務を子会社のアラタナに移管していたが、ユナイテッドアローズ側が店舗とECを一元一体に運営するオムニコマース体制の確立を急ぐ中、EC特化のZOZOとはシステムや運用がかみ合わず、運営委託の解消に至ったと思われる。

 現在はECフロントはもちろん、在庫保管・出荷もZOZOに委託しているが、自社ECの在庫保管・出荷を担う最新設備のフルフィルセンター(千葉県流山市)が既に稼働しており、新パートナーによるシステムが整う19年10月をめどに自社運営に移行する。

迷走が招いたB2B事業の蹉跌

 ZOZOにとってもユナイテッドアローズはB2B事業取扱高の大半を占めており、18年3月期は75億4000万円中の54億6000万円、19年3月期見通しも100億円中の64億円ほどを占めるから、ユナイテッドアローズの離脱はB2B事業の休止を意味する。 

 ZOZOARIGATOを契機としたZOZO離れとは様相が異なるが、影響の深刻さという点ではオンワードのZOZO離れより大きいかもしれない。ECはともかくオムニコマースをサポートする体制に欠けると判断されたわけだから、B2B事業の発展性がブロックされたに等しいのではないか。

 B2C受託販売事業のZOZOTOWNはアパレルでは突出した規模とはいえ、顧客に対しては手を替え品を替えした販促策を尽くしてコストを肥大させ、出店アパレルに対しては手数料率をかさ上げ続け、どちらも限界に近づいている。ZOZOARIGATOによるZOZO離れがライバルに隙を突かせる契機となりかねず、もはや安泰とはいえない状況でオムニコマースの要となるB2B事業がブロックされてしまえば突破口が見いだせなくなる。大枚を投じたPB事業も離陸のめどが立たず、ZOZOは八方ふさがりの状況に追い込まれている。

 ZOZOは15年12月にスタートして1年半で撤退した『ゾゾフリマ』にせよ、膨大な損失を計上して19年3月期決算の下方修正を招いた『ZOZOSUIT』とPBにせよ、出店アパレルの離反が広がる『ZOZOARIGATO』にせよ、成算や反動を検証しないまま新規事業に前のめったり短期で撤退したり、取引先への説明を尽くさないまま方針を二転三転する悪癖があるが(ガバナンスが欠けている)、B2B事業もその例に漏れない。自社ECにシフトする出店アパレルを引き止めるべく注力したかと思うと、採算性の低さから唐突に縮小撤退に転じ(当時、自社ECを運営委託していたアパレルがパニックに陥ったのを忘れたとは言わせない)、出店アパレルのオムニコマース体制移行に取り残されると見るや再拡大に転ずるという節操のなさを見れば、取り組むアパレルとて先々が不安になって当然だ。

 ZOZOが最優遇してきたユナイテッドアローズとて先々を見据えれば自社ECのZOZO依存は限界で、切り替えの混乱や経済的合理性に目をつぶっても独自のオムニコマース体制を確立すべく、ZOZOと袂を分かったのではなかろうか。

変動費から固定費への切り替えと逆ざやリスク

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 ユナイテッドアローズのECはZOZOTOWNに加えてZOZOに運営委託した自社ECが10年3月期以降、急拡大して11年3月期には約90億円を売り上げ、EC比率も10.6%に達したが、ZOZOTOWNが75%、ZOZOに運営委託する自社ECが15%の計90%を占めていた。17年3月期にはEC売上げが202億円と大台に乗ってEC比率は16%に達し、自社ECも40億円を超えたが、 ZOZOTOWNが60%、自社ECが20%とZOZO依存は依然80%と高止まりしていた。19年3月期ではEC売上げは237億8000万円、EC比率も19%に迫ると見込むが、第3四半期までではZOZOTOWNが50%、自社ECが27%の計77%とZOZO依存が解消されたわけではない。それでもZOZOと袂を分かつのはなぜだろうか。

 ZOZOTOWNの創業期に出店した著名セレクトチェーンの販売手数料率は22〜24%と、35%以上といわれる近年の新規出店アパレルに比べれば格段に優遇されている。そんな著名セレクトチェーンの自社ECに対するB2Bサービスの販売手数料率は20%を下回るはずで、ユナイテッドアローズは最優遇されていた。

 ユナイテッドアローズの自社EC売上げは19年3月期見込みで64億円強と推計されるが、ZOZOTOWN以外のモール店舗の受注を自社ECのフルフィルに乗せれば倍近い規模の取り扱いスケールになる。当社が検証してきた内外アパレルチェーンの自社EC運営コストを見る限り、64億円で自社運営に切り替えれば売上対比運営経費率は25%前後になってしまうが、120億円なら20%強に抑制できる可能性がある。となれば、新たな自社運営ECではZOZOへの運営委託と比べての逆ざやも許容限度に収められる。

 そんな目算を示すのが『ZOZOには売上げの一定割合を手数料として支払ってきたが、新体制ではシステム使用料を固定し売上げの拡大とともにコスト率が下がる仕組みとする』という発言だ。運営委託ではどんなに売上規模が拡大しても手数料率は下がらないが、固定費化すれば売上げの拡大とともに加速度的にコスト率は下がっていく。当たり前のことだが、問題はその反転時期だ。

 当社の推計では新体制の運営コスト率がZOZOへの運営委託手数料率を下回るには自社EC売上げ(フルフィル活用のモール売上げを含む)が300億円を超える必要があるが、年々30%伸ばしても4年を要する。それまでは自社ECが経費増で減益するリスクを抱えるが順調に伸びれば杞憂に終わるし、連結経常利益が100億円を超えるユナイテッドアローズにとっては戦略的に吸収できる範囲と思われる。

オムニコマースの戦略的必然性

 ZOZOへの委託運営から新たなパートナーと組んで自社ECの自社運用に転ずれば、数年間は逆ざやを覚悟する必要がある。それでも踏み切るのはこれ以上、ライバルたちに後れを取れないからだ。

 大手セレクトではベイクルーズグループがデータ的にも物理的にも在庫運用の一元化を実現し、エンジニアチームを抱えて内製運営する自社ECがEC売上げ335億円の過半を占め、EC比率も28.2%に達する。アダストリアが333億円、ワールドが308億円、TSIが289億円と続くが自社EC体制はベイクルーズに及ばない。ユナイテッドアローズはEC売上げではTSIに続くが自社EC体制が立ち遅れ、店舗スタッフの参画という点ではEC売上げ160億円(EC比率20.1%)のビームスにもリードを許している。エンジニアチームも抱えず自社ECをZOZOに依存し続けるユナイテッドアローズはライバルとの競争から落ちこぼれる寸前にあったと言っても過言ではなかった。

 有力アパレルのオムニコマースは顧客と在庫を店舗とECで連携するというスタートラインから、店舗をECのプラットフォームに乗せて選択やお試し、決済や受け取りの利便を最大化するというC&C(クリック&コレクト)の段階に移行しており、店舗とECを一元一体に運用できることが店舗を持たないEC専業者や一体運用できない店舗小売業者に対する決定的アドバンテージとなりつつある。

 C&Cではこれまでのアプリサポートやタブレット接客に加え、EC注文品の受け渡しや返品対応、ピッキングや宅配出荷といったマテハン負荷がかかるから、スタッフ構成を見直し、ピッキングロボなど設備投資を加えて店舗運営を再構築する必要があるし、売上げもECと店舗、店舗と個人にどう計上するか、社内のガバナンスに加えて商業施設デベとの擦り合わせも必要になる。加えて、店舗在庫までECの注文に引き当て、店から宅配出荷するケースが広がれば、在庫コントロールのアルゴリズムも一変してしまう。

店舗がキーデバイスとなる

 クリック&コレクトなオムニコマースでは、在庫を抱える常設店舗にせよサンプル在庫だけのショールーミングストアやポップアップストアにせよ、試して受け取れる店舗がキーデバイスとなるから、ECプラットフォームのフロントとバックヤードだけでは対応できない。パーソナルな人的対応と物理的なマテハンがECやAIと連携する“店舗”が不可欠になるのだ。

 そんなC&Cを機動的にサポートするには店舗運営とロジスティクスに通じたインハウスなエンジニアチームと物流体制が不可欠で、外部に開発と運営を委託する体制では突破口がなかった。今回の体制変更ではインハウスなエンジニアチームを抱えるわけではないが、新たなパートナーとの密着した運用で解決を図る。ZOZOへの運営委託を解消するというユナイテッドアローズの決断は、むしろ遅きに失したのかもしれない。

 アパレル以上に鮮度とスピード、デリカシーが問われる生鮮食品の分野ではアマゾンやアリババがスーパーマーケットチェーンを買収したり出資してAIとITで再武装し、C&Cサービスの拠点(アパレルの何十倍も必要)としているが、アパレル分野でもC&Cを担う拠点を確保すべくECプラットフォーマーがアパレルチェーンを買収してもおかしくない。

 ZOZOがZOZOSUITとPBに投じた大枚をC&C拠点の布陣に投じていたとすれば、あれほど株価が下がることはなかっただろう。オムニコマースシフトに戦略を集中しなかったZOZOの失ったものはあまりに大きく、挽回はもはや難しいかもしれない。その全ての要因は前澤氏を支える知恵者とガバナンスの欠落にあることは言うまでもあるまい。

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