小島健輔の最新論文

WWD 小島健輔リポート
『飛躍する「ユニクロ」、苦闘する「無印良品」
なぜ明暗が分かれたか』
(2023年10月18日付)
小島健輔 (株)小島ファッションマーケティング代表取締役

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 10月12日にファーストリテイリング、13日に良品計画とグローバル展開SPA両雄の23年8月期決算が発表されたが、ファーストリテイリングがコロナ禍やカントリーリスクを乗り越えて国内外とも力強く飛翔したのに対し、良品計画は新たな布陣へと苦闘する国内事業をコロナ禍から復活した海外事業がカバーするという片肺飛行を余儀なくされ、明暗を分けた。一体、両者の今後はどうなっていくのだろうか。

 

■全方位増収増益で来期3兆円超えが見えたファーストリテイリング

 ファーストリテイリングの23年8月期連結決算は、売上収益(売上高)が2兆7666億円と前期から20.2%、営業利益は3811億円と同28.2%、当期純利益も2962億円と同8.4%伸び、3期連続の増収増益で過去最高の業績を達成した。営業利益率は13.8%と前期から0.9ポイント上昇してコロナ前19年8月期の水準(11.2%)を2.6ポイント上回ったが、単体決算だった00年8月期の26.5%(売上収益2290億円)はともかく、連結決算になっての最高水準だった10年8月期の16.2%(売上収益8148億円)にも届いておらず、まだ改善余地がある。

海外ユニクロ事業が1兆4371億円と28.5%も伸びて全社売上の52.0%(前期48.7%)と遂に過半を超え、営業利益も2269億円と43.3%も伸びて同61.7%(前期56.1%)に達し、売上収益が8904億円と9.9%、営業利益が1178億円と9.2%の伸びに留まった国内ユニクロ事業を大きく引き離した。営業利益率も、海外ユニクロ事業の15.8%(前期14.2%)に対して国内ユニクロ事業は13.2%(前期13.3%)と格差が広がった。

売上収益が15.2%増の6202億円、営業利益が25.0%増の1043億円(利益率16.8%)というグレーターチャイナの回復に加え、注目すべきは欧米事業が収穫期に入ったことだ。売上収益が49.1%増の1913億円、営業利益が82.5%増の273億円(利益率14.3%)の欧州、売上収益が43.7%増の1639億円、営業利益が91.9%増の211億円(利益率12.9%)の北米、の伸びと高収益化が今後の業績を押し上げることになる。

ジーユー事業は2952億円と20.0%伸びて全社売上の10.9%(前期10.7%)を占め、営業利益は261億円と56.8%も急伸して同7.1%(前期5.9%)に拡大したが、営業利益率は改善されても8.9%(前期6.8%)とユニクロ事業とは格差があり、本格的なグローバル展開には世界にインパクトあるコンセプトと付加価値が通るマーチャンダイジングの確立が急がれる。ユニクロの「ライフウエア」に匹敵するコンセプトはともかく(「Boost Wear」なんてどう?)、ユニクロの機能性に匹敵するのは意匠性素材と着崩せるパターンではなかろうか。

グローバルブランド事業は15.0%伸びても1416億円と全社売上の5.1%(前期5.4%)に過ぎず、コントワー・デ・コトニエ事業の減損損失とリストラ費用で営業赤字が30億円(前期8億円)に拡大したが、業績への影響は軽微にとどまる。プラステ事業は増収で赤字幅が縮小し、セオリー事業は大幅な増収増益とアナウンスしている。世界をインフレが席巻する中、高単価なブランド事業の拡大は必定で、セオリー事業のラグジュアリー化が期待される。

欧米ユニクロ事業が本格的な収穫期に入る24年8月期の売上収益3兆500億円(10.2%増)、営業利益4500億円(営業利益率14.8%)は中国事業に異変がない限り、余裕で達成できるのではないか。一株あたり配当金は40円増の330円を予定しており、株式を3分割した前々期からは6割の増配になる。

 

■苦闘する国内事業を復活した海外事業がカバーした良品計画

良品計画の23年8月期連結決算は、営業収益(売上高)が5814億1200万円と前期から17.2%伸びたが営業利益は331億3700万円と同1.1%増にとどまり、当期純利益は220億5200万円と同10.2%減少した。営業利益率は5.7%と前期から0.9ポイント低下し、コロナ前18年2月期の11.9%には遠く、収益構造の再構築が急がれる。中国など海外事業は好調だったが国内の既存店が苦戦し(売上3.6%減、客数6.8%減)、粗利益率が低下し人件費や出店費用も嵩んで営業利益率が半減して足を引っ張った。

海外事業は2385億8300万円と26.9%伸びて全社売上の41.2%(前期38.0%)、営業利益も245億5900万円と41.1%も伸びて同74.1%(前期37.9%)に激増し、営業収益が3428億2900万円と11.3%増にとどまり、営業利益が85億3400万円と44.1%も減少した国内事業と明暗を分けた。営業利益率も、海外事業の10.3%(前期9.3%)に対して国内事業は2.5%(前期5.0%)と4倍強に格差が広がった。

東アジア事業は1716億3000万円と23.3%伸びて全社売上の29.5%(前期28.1%)を占め、うち中国が1060億円と東アジア事業の63%を占める。東南アジア・オセアニア事業は314億7000万円と42.9%伸びて同5.4%(前期4.4%)、欧米事業は354億8200万円と32.3%伸びて同6.1%(前期5.4%)を占める。営業利益率は東アジア事業が17.7%(前期16.7%)と最も高く、売上規模は4分の1強でもユニクロのグレイターチャイナ事業(売上収益6202億円、営業利益1178億円)の16.8%を超える。東南アジア・オセアニア事業は9.1%と国内事業(2.5%)より格段に高収益だが前期(12.4%)から低下しており、欧米事業はようやく黒字転換したばかりで2.6%と国内事業と大差ない。

ユニクロに比べれば欧米事業の売上は10分の1、営業利益は54分の1に過ぎず、収益化以前の段階にある。欧米事業を収益化するには今後、(ユニクロがそうだったように)少なからぬ投資と試行錯誤を要するから、良品計画の海外事業は東アジアとりわけ中国への依存が続くと見なければなるまい。ユニクロもグレイターチャイナへの依存度が海外事業売上の43.1%、同営業利益の46.0%、全社売上の22.4%、同営業利益の27.4%と高いが、良品計画の東アジア事業は海外事業売上の71.9%、同営業利益の79.7%、全社売上の29.5%、同営業利益の59.1%にも達する(グローバル販管費差引後)。欧米事業が収穫期に入る時期は読めず、カントリーリスクを抱える中国に依存するタイトロープが続くことになる。

24年8月期の営業収益は10.1%増の6400億円、営業利益は過去最高となる480億円(営業利益率7.5%)、当期純利益は本社売却益の計上も含んで330億円と見込んでいる。営業収益は国内事業を10.4%増、海外事業を9.7%増、営業利益は国内事業を41.1%増(営業利益率13.0%)、海外事業を14.9%増(同15.0%)と見積もっており、国内事業の収益改善が課題となる。一株あたり配当金は40円と予想しているから4期連続の据え置きになるが、2期間で6割もの増配になるファーストリテイリングとは配当でも格差が開く。

※良品計画の開示資料は20年2月期までと決算期を8月に変更して以降に断絶があり、同期でも開示資料によって集計が異なるなど正確な理解が難しいことをお断りしておきたい。

 

■改善するも商品財務の格差は経営戦略の一貫性の差

 ファーストリテイリングの商品財務で注目すべきは売上収益が20.2%も伸びたのに棚資産が7.55%も減少したことで、棚資産回転日数は123.3日と前期から38.8日も短縮され、在庫回転は2.85回と同14.5%も速まった。買掛債務回転も93.0日と23.8日も短縮され、CCC(Cash Conversion Cycle)も39.1日と15.8日も短縮され、必要運転資金は14.3%も圧縮されて純資産対比も15.8%と5.6ポイント改善された。粗利益率51.92%と在庫回転2.85回を掛けた交叉比率も147.7と、同17.7ポイントも向上した。

大仕掛けなグローバル戦略の一方で「SKU単位、個店単位にこだわった経営」が着々と実行された結果と評価される。同社の本質的な強みは、素材から開発した完成度の高い単品を縦売り(継続補給販売)するSKU単位のサプライと在庫運用、個店単位の出店精査と店舗運営の効率化による販管費のコントロールであり、組織の底力に加えて「上り」(多客数立地)志向の出店戦略も寄与したと思われる。

良品計画の商品財務も大きく改善されたが、ファーストリテイリングとの格差は依然として大きい。営業収益が17.2%伸びたのに対し棚資産は3.0%の伸びに抑制され、棚資産回転は156.8日と前期から23.4日短縮され、在庫回転は2.36回と6.2%速まった。買掛債務回転も41.4日と9.4日短縮され、CCCも123.1日と13.8日も短縮されたが、必要運転資金は5.4%増加して純資産対比は73.3%と小幅(2.7ポイント)な改善にとどまった。

棚資産回転はファーストリテイリングより33.5日長く、在庫回転は0.48回転(16.9%)遅く、CCCは84日も長く、純資産対比の運転資金率は4.64倍も負担が大きい。交叉比率も37.3ポイント(25.3%)低い。売上規模は4.76倍、純資産規模は7.00倍、当期純利益は13.43倍の格差があるが、規模の格差というよりこれまでの経営戦略の蛇行による店舗資産や組織運用の非効率化が大きいと思われる。

今も生活圏の食品スーパー隣接600坪型店舗の布陣を推し進めて出店立地を下っているが、インフレ局面で商品単価が上昇する中では客数減による効率低下のリスクが大きい。これまで幾度も出店立地を上ったり下ったりして来た経緯があり、店舗資産の非効率化と減損による収益低下を招いて来た。地方のロードサイドに発したユニクロは一貫して出店立地を上って来ており、出店政策と店舗規模拡大にブレがなく、今後のインフレ局面では一段と有利になる。資本力も組織力も格差があり、両社の格差は一段と開いていくのではないか。

 

■格差が広がった両社の国内事業

 ファーストリテイリング、良品計画とも、国内事業には課題を抱えている。どちらも売上伸び率、営業利益率とも海外事業に見劣りし、とりわけ良品計画の営業利益率は国内外の格差が大きい。そんな両社の国内事業の推移を比較すれば、抱える課題と解決方法も見えてくるのではないか。

 ファーストリテイリングでは海外ユニクロ事業が国内ユニクロ事業を売上収益で超えたのが18年8月期、営業利益で超えたのも同期だが、以降、今期まで海外ユニクロ事業の営業収益が1.60倍、営業利益が1.91倍になったのに対し、国内ユニクロ事業の営業収益はわずか3.0%、営業利益は6.2%しか伸びていない。良品計画海外事業の営業収益は未だ国内事業を超えていないが、営業利益は22年8月期で逆転している。18年2月期から今期まで海外事業の営業収益は1.65倍、営業利益は2.45倍になったのに対し、国内事業の営業収益は1.46倍になっても営業利益は3掛けに激減している。国内小売事業に相当する「直営+LS(フランチャイズ)+EC」売上はこの間、16.3%しか伸びておらず、国内事業は微増収・大幅減益だったのが実態だ。

 この間の直営店営業指標の推移を見ると実態が明らかになる。国内ユニクロの1店当たり店舗面積は938平米から1030平米と9.8%増えたが1店当たり売上は9億7240万円から9億3621万円に3.7%減少し、平米当たり売上は104.1万円から91.0万円と12.6%低下している。店舗が大きくなり自動セルフレジを導入するなどして人時効率を高めた結果、一人当たり保守面積が29.32平米から38.25平米に30.5%も拡大し、1店当たり運営人員は31.99人から26.93人(常勤15.58人+非常勤11.35人[8h換算])に圧縮され、一人当たり売上は3052.0万円から3476.6万円と13.9%も上昇し、インフレ下の賃上げ競争をリードすることが出来た。

 良品計画の1店当たり店舗面積は744平米から1114平米と49.7%も増えたが1店当たり売上は5億2320万円から5億5733万円と6.5%しか増えず、平米当たり売上は70.3万円から50.0万円と28.9%も低下した。店舗が大きくなっても出店立地を下ったため販売効率が低下し、セルフレジの導入も遅れて自動化には至らず、店舗運営の革新は大きくは進まなかったが、一人当たり保守面積を37.9平米から59.7平米に57.5%も拡大し、1店当たり運営人員を19.6人から18.7人(常勤6.2人+非常勤12.5人[8h換算])に圧縮している。結果、一人当たり売上は2666万円から2987万円と12.0%も上昇したが国内ユニクロの86%にとどまり、販売効率の低下で営業利益も落ち込み、ファーストリテイリングのような華々しい賃上げを打ち出す余裕はなかった。

 両社の国内事業を比較すると、店舗を大型化し保守面積を拡大して人時効率の向上を図ったのは同様でも、ユニクロが出店立地を上り、RFID一括読み取り式の全自動セルフレジを導入するなどIT装備を高めたのに対し、良品計画は出店立地を下り、顧客がバーコードをひとつずつスキャンする旧式なセルフレジにとどまるなどIT装備が遅れ、平米当たり売上も一人当たり売上も格差が開き、営業利益率の大差(13.2%対2.5%)につながったと総括されよう。

 

■両社の将来性を三つの視点から占う

 事業の将来を左右するのはA)コンセプトのインパクトと拡張性、B)運営組織の力量と戦略の一貫性、C)経営体制とガバナンス、の3点に尽きると思うが、両社の場合はどうだろうか。

 

  1. コンセプトのインパクトと拡張性

「ユニクロ」は「カジュアルの民主化」に発して日本の「国民的カジュアル」に出世し、グローバル化とともに「万人のライフウエア」(MADE FOR ALL)へと進化し、著名クリエイターとのコラボを重ねて洗練され、各国市場の要求に揉まれて適応して来た。その過程は「普遍化」という拡張であって、トレンド変化に左右されたりモードの文法に固執するライバルに比べれば格段の拡張性がある。それが可能なのは「ユニクロ」が標榜して来た「カジュアル」がグローバルNBの最大公約数だったからで、グローバルに拡張するとともにハイブランドのエキスも取り込んで最大公約数も拡張されていくと思われる。長年愛顧されてリユースが定着するようになれば、グローバルNBの一角を占めるようになるのではないか。

「無印良品」は西友ストアのPBに発して、メーカーブランドのマーケティングコストを省いた「訳あって安い」というミニマリズムを原点としながら、「無印」(NO BRAND)というブランドを売るアイロニーを抱える特異なポジションが時代の波に乗ったり沈んだりして来た。SDGsを先取りしたコンセプトや商品開発が時代に先んじて意識高い系に支持されたり、時流に合致して大衆に押し上げられたり、自然志向やミニマリズムが時流とすれ違ったり、適応する「普遍性」より発信する「個性」に流されて来たことは否めない。

グローバル展開においても、導入期は「個性」が突破口になっても拡張期は適応する「普遍性」が必定で、収穫期に至るにはローカルニーズを最大公約数に吸収しなければならない。それが出来るコンセプトとマーチャンダイジングの柔軟性、サプライの機動性があるかというと、現状は否定的に受け止めざるを得ない。ファーストリテイリングから少なからぬ人材が移籍して「普遍性」へと舵を切りつつあるが、生産ロットが「ユニクロ」より一桁少ない(売上ベースで9.56%)衣料・雑貨ではコスト競争力に格差があり、「ユニクロ化」が吉と出るか凶と出るか予断を許さない。

 

  1. 運営組織の力量と戦略の一貫性

ユニクロの塚越新社長兼COOが『世界中の販売、在庫を常時確認・データ共有し、状況に応じて適切に修正できるプラットフォームは出来た。今後は、徹底した個店運営、在庫運営、経費管理など、商売の原理原則をグローバルで実行する』と発言しているように、ユニクロの組織運営は振れることなく進化し高度化して来た。それを可能としたのは柳井正という振れないオーナー経営者が戦略を一貫して来たからで、代々の  非オーナー執行経営者が時代に応じて戦略を舵取り、組織運営を試行錯誤して来た良品計画では戦略が一貫せず、運営組織の体制もスキルも高度化せず、格差が開いていったのではないか。

 

  1. 経営体制とガバナンス

巨大上場企業となってもオーナー一族が株式の過半を握って戦略が一貫しガバナンスを徹底できるファーストリテイリングに対し、セゾングループの解体でオーナーシップが崩れた良品計画は代々の執行経営者の戦略と組織運営が一貫せず、時代の経営コンセプトを美辞麗句で謳うことに終始して来た印象がある。時代をコンセプトでリードしたセゾン文明の栄光を引きずり、総力戦を勝ち抜く筋肉質の運営組織を確立できなかったのではないか。

両社のガバナンスの差については根本的な会社体制の違いも指摘される。ファーストリテイリングは05年11月に持株会社に移行して事業会社のユニクロやジーユー、グローバルブランドを傘下に置き、経営の監督機能と業務執行機能を分離したが、良品計画は未だ持株会社に移行せず、経営の監督機能と業務執行機能が未分化の状態にある。取締役会の指揮下に国内事業の営業本部と海外事業部、中国大陸事業部、各カテゴリーの商品部が並立しており、直営とFC、卸も交錯して事業の実態が掴み難い。

IRの開示データも20年の2月期から8月期への決算期変更を境に連続性が崩れたり開示されなくなった項目もあり、決算短信と決算説明会資料、データブックで集計が異なる項目もあって分かり難い。事業規模も事業領域も格段に大きいファーストリテイリングの開示データでは集計が異なる項目は見当たらず事業の実態は一見して掴めるから良品計画の開示データには課題があるが、事業体制や会社体制が要因となっているのではないか。

海外事業が営業収益の4割を超え、営業利益は4分の3に迫る良品計画は事業体制の再編と資本構成の安定化、持ち株会社への移行が喫緊の課題であり、それ無くしてはファーストリテイリングとの格差は縮まらないと思われる。

 

 

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