小島健輔の最新論文

商業界オンライン 小島健輔からの直言
『「スニーカー通勤」でビジネスウエアが一変する!』 (2018年03月15日付)
小島健輔 (株)小島ファッションマーケティング代表取締役

メンズのスタイリング。左が「アクティブスーツのビジカジ(パッカブル・アンコンセットアップ)」、中央が「ブルゾンルックのカジビジ(ブルゾンとカジュアルパンツ)」、右が「マウンテンブルゾンとジョグパンツのアスレジャー」。

メンズのスタイリング。左が「アクティブスーツのビジカジ(パッカブル・アンコンセットアップ)」、中央が「ブルゾンルックのカジビジ(ブルゾンとカジュアルパンツ)」、右が「マウンテンブルゾンとジョグパンツのアスレジャー」。

 昨年10月にスポーツ庁が「スニーカー通勤」を打ち上げたときは『またも行政のピント外れの民業介入か?』と「クールビズ」に懲りたアパレル/流通業界にはシラッとした反応が走ったが、スポーツ業界やアパレル業界から次々に「アクティブスーツ」が発売されるに及んで『革命的大潮流へと発展するのでは』という期待感?に一変しつつある。

 スポーツ庁の「スニーカー通勤」は国民の健康増進を意図しての啓蒙だったが、業界や消費者の多くは「楽チン通勤」と受け止めた。なぜなら「スニーカー通勤」以前に3つの既成事実が進行していたからだ。いまさら言われなくても「スニーカー通勤」が当たり前になろうとしていたジャスト・タイミングの提言だったのだ。

「楽チン通勤」へと向かう3つの既成事実

(1)スニーカーブームとビジネススニーカー転換

 スニーカーブームに火がついて既に数年が経過するも依然、衰えが見られず、スニーカーはスポーツやカジュアルという領域を超えてライフスタイル全域に定着した感がある。中でも注目すべきは営業マンなど足で商売するビジネスマンの革靴がゴム底のビジネススニーカーに一変したことで、前後してお洒落の世界でもビジカジに合わせる革製ゴム底のモードスニーカーが広がっていった。実用とお洒落という違いはあっても、両者に共通するのは足腰に負担をかけずイージーケアな「楽チン」だったことは否めない。

(2)ノームコアとアスレジャーの潮流

 ファッションの世界ではスニーカーブームと前後して「ノームコア」と「アスレジャー」が席巻していった。「ノームコア」は「超普通」という意味で、デザインやルールにこだわらないで気負わず服を着ようという「服のコモディティ化」であり、緩くて着やすい合繊混やジャージのイージーケアな生活着がカジュアルからビジカジまで広がった。「アスレジャー」は「アスレチック(運動)」と「レジャー(余暇)」を組み合わせた造語で、エクササイズウエアのままウィークエンドを楽しむようなライフスタイルをうたうものだが、部屋着のジャージにパーカやブルゾンを羽織ってどこにでも行くTPOレスな「楽チン」さが受けて広がったことも否めない。

(3)ビジカジ/カジビジ・シフトは男性だけでなかった

 仕事着・通勤着もスーツ姿からジャケット・ルックの「ビジカジ」やブルゾン/ジャージジャケット・ルックの「カジビジ」へ急速に転換してきたが、それは男性だけではなかった。男性のビジネスウエアは、よほどお堅い業種でない限り「ビジカジ」が定着し、ソフトな業種やフライデースタイルでは「カジビジ」も広がってきたが、それは女性とて同様だった。かつて男性がイメージしたキレイめスカート姿やスーツ姿の「OL」はもはや金融などお堅い業種のオフィスワーカーに限られ、一般OLの通勤スタイルは「ビジカジ」、パートさんなど非正規雇用では「カジビジ」どころか「アスレジャー」にすっかり切り替わってしまった。

タイミングよく登場した「アクティブスーツ」

「スニーカー通勤」の提言とタイミングを合わせたように登場したのがアクションスポーツの機能素材を使った「アクティブスーツ」で、ミズノの野球ユニフォーム素材「ムーブスーツ」(2万8800円/12サイズ)、アディダスジャパンが伊勢丹とコラボした形状保持機能素材「アイコンスーツ」(3万5000円/6サイズ)など、伸縮性があってクリーニング要らずのイージーケア、防汚脱臭など機能性が売り物。価格もツープライススーツ店やロードサイド紳士服店並みとお手頃だ。

「アクティブスーツ」のインパクトはスーツルックながら楽チンに着られるイージーケアなビジネスウエアという点で、「ビジカジ」「カジビジ」のようにコーディネートに頭を使う必要もなく、気楽に使い倒せる。これまでスーツと「ビジカジ」の間で躊躇していた営業マン層など「アクティブスーツ」にシフトしてしまうのではないか。その足元がビジネススニーカーになるのは言うまでもない。

女性は「楽チンな労働着」を求めている

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 営業職からオフィスワーカーまで男たちが「アクティブスーツ」と「スニーカー通勤」にシフトしていけば、社会戦力化した女たちも同様に変貌していく。

 前世紀の女性は「職場の華」という一面もあったが、女性就業率が米国を抜いて70%(15〜64才)に迫る現在、女性は「職場の戦友」たる労働者と化しており、男性同様に機能的でイージーケアで楽チンなビジネスウエア(労働着です!)を求めている。そんな女性たちにアパレル業界がいまだトレンディだ、フェミニンだ、セクシーだと売り込む姿はもはやジョークでしかない。

 
 労働者化した女性たちがセクシーな服や下着を拒否して機能的な服や下着(「デカショーツ」がトレンドになる御時世です)を志向する現実を直視するなら、彼女たちがパンプスを捨てて「スニーカー通勤」に走り、男性向けに提案された「アクティブスーツ」を受け入れるのも必然と思われる。ならば婦人服売場や婦人靴売場の構成は根本的に変らざるを得ない。頭の切り替えが急がれるのではないか。

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