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商業界オンライン 小島健輔からの直言
『小島健輔が指摘する「ライトオンの課題」』 (2019年02月14日付)
小島健輔 (株)小島ファッションマーケティング代表取締役

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『会員になれば誰でも常時値引き販売になるZOZOARIGATOが出店アパレルの反発を招いてZOZO離れが広がっている』という図式でライトオンのZOZO撤退がやかましく報道されているが、この話はちょっと怪しい。

モールサイト総撤収が実態だ!

 まず、ライトオンが撤退しているのはZOZOTOWNだけではない。18年8月期決算発表時にECを積極拡大するとして挙げられた7つの展開モールのうち、現在も稼働しているのは楽天だけで、アマゾンにもショップリストにもヤフーショッピングにも見当たらないし、マガシークとマルイウェブチャンネルはZOZOTOWNと前後して閉店している。ZOZOだけでなくECモールから総撤収しているというのが実態なのだ。

 新聞報道などによれば、『ジーンズショップからジーンズのセレクトショップを目指してNB軸のプロパー販売を強化していく過程だから、ZOZOARIGATOの常時値引き、とりわけ新規入会月の30%オフという値引き販売を許容できなかった』『自社ECサイトや実店舗で獲得した顧客が(価格差で)ZOZOに奪われてしまう』が撤退の理由とされているが、これだけが理由ではなかったはずだ。

 確かにNB軸のプロパー販売を強化したいなら、他の卸先と販売価格が異なってしまうプロパー期の値引き販売はNB側の理解を得られない。それは百貨店が単体売上げの7割近くを占めるオンワードとて似たような事情だったと推察される。ならばZOZOTOWNだけ撤退すればよいのに、どうして他のモールまで撤退しているのだろうか。

ZOZO撤退の本当の理由は何か?

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 察するに、(1)買取仕入れのNBを販売手数料の高いモールサイトで売っては採算が合わない(2)ライトオンが扱うようなカジュアルNBは値引き販売に食われて売上げが伸びない、の2点が背景にあるのではなかろうか。

 当社主宰SPAC研究会のメンバーアンケートでも、ブランド品のセレクト調達はSPA的なオリジナル調達に比べ12〜18ポイントも荒利益率が薄くなるし、展示会発注では消化回転も年間2〜4回にとどまるから、交差比率もオリジナル開発の半分強ほどになってしまう。これでは儲かりようがないから、NB軸のセレクトショップは路面はともかく賃料負担のかさむ商業施設では成り立たない。それはECモールとて同様なのだと受け止めたい。

 故に『自社ECこそがわれわれの世界観を表現できる場であり収益性も高く、人材や資金を集中していく』という発言になる。17年8月期の赤字転落からようやく水面に顔を出したばかりのライトオンにとって収益性の改善は最優先課題であり、手数料率負担の重いモールサイト、とりわけ後発の出店で手数料率負担がかさむZOZOTOWNからの撤退は不可避だったのではないか。

 ZOZOARIGATOは決断のきっかけに過ぎなかったのが現実で、ZOZO離れとしてメディアが騒ぎ立てる意味はない。むしろ、ライトオンの収益体質の課題、とりわけ『NB軸のジーンズセレクトショップ』という基本構想の抱える矛盾を露呈したのではないか。

NB軸のマーチャンダイジングには限界がある

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 『NB軸のジーンズセレクトショップ』を標榜するライトオンの商品政策は空回りしているきらいがある。まず、必ずしも顧客が受け入れていない。

 既存店売上げ前年比の推移を見れば、18年の春夏以降は若干、上向きだしているとはいえ水面の攻防で、NB軸で客単価が上がった分、客数が減るというシーソーゲームを繰り返している。アスレカジュアル化してTPOレスになっていくカジュアル市場の価格抵抗感は極めて強く、NB軸で単価を上げていくという目論見には無理がある。加えて、NB軸のマーチャンダイジングには採算性の壁が指摘される。

 かつて路面店主体だったセレクトショップも駅ビルなど商業施設への出店が増えるにつれてオリジナル比率が上昇し、今日の大手セレクトチェーンではNBなどセレクト商品の比率は3割前後まで減っている。荒利益と賃料負担のバランスを求めた必然の帰結だったのかもしれないが、『賃料負担のかさむ商業施設ではセレクト比率の高いアパレルチェーンは採算が厳しい』という公理が定まったのは間違いない。

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 ライトオンとて、かつては賃料負担の軽いロードサイドの定期借地店舗が中心だったが今世紀に入って以降、定期借家契約による商業施設テナント店舗が主流となり、18年8月期連結決算では賃借料と減価償却を合わせて売上げ対比16.5%も負担している。それらを含めて47.0%もの経費がかかっているのにNB軸のマーチャンダイジングでは荒利益率が48.5%に止まり(それでも近年の最高値)、販売不振で値引きロスがかさめば容易に赤字転落してしまう。

 48.5%という荒利益率もNB軸業態では突出して高く、オリジナルが過半を占めるセレクトSPAと比べてもそれほど遜色ない。それでも収益性が低いなら蓄積されてきた出店財務構造の問題であり、在庫コントロールやマーチャンダイジングの首尾で解決できる範囲を超えている。

 膨大な償却損失を覚悟で抜本的な店舗資産の入れ替えを断行するか、『NB軸のジーンズセレクトショップ』という基本構想に成算がないと腹をくくるかだが、前者は低収益なライトオンにとって現実的ではない。値入れが薄いのに回転も低い(3回転に届かない)というNB軸のマーチャンダイジングは商業施設では採算が厳しい、という現実をライトオンの経営陣は正視すべきではないか。

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NB軸で採算を取る方法はある!

 それでは『NB軸のジーンズセレクトショップ』という構想を捨てるしかない、かというとそうでもない。「定石」と「逆説」、ふた通りの選択がある。

「定石」とは多くのセレクトチェーンがたどった選択で、SPA的なオリジナルで値入れと回転を稼ぐ一方、NBのセレクトや別注でリミックスを掛けて品揃えの魅力を訴求するというもの。このやり方では、需要予測を外さず在庫コントロールがうまくいく限りは(離陸までの数シーズンはうまくいかなくて当然)PLは改善されるが重在庫になりがちで、キャッシュフローに余裕がないと苦しくなる。

 極端な話、『売れ残れば無理に値引き処分せず持ち越せばよい』と割り切るぐらいの図太さとそれが可能な定番性が必要だ。ロードサイドの紳士服店など、そんな在庫政策に徹しているし、ワークマンは定番商品の10年継続保証!と需要予測のアルゴリズム精度向上に注力している。

 需要予測と在庫コントロールがうまく回り出せばオリジナル比率を高めて収益性を改善できるが、そのゴールはセレクト比率が低い『セレクトスパイスSPA』であって『セレクトショップ』ではないかもしれない。収益性とセレクトショップ的なリミックスの魅力やNB商品の継続提供を両立するバランスがどこに帰着するかは結果論だが、経験値としてはセレクト比率40%(別注品を含む)あたりが理想ではないか。

「逆説」とはNB本来の期中補給力を最大限に引き出すVMI(Vendor Managed Inventory:納入業者に品揃えと数入れ、在庫管理を委託する方法)の活用だ。本来NBベンダーは店頭消化と生産を直結する看板補給が売り物のはずだが、ジーンズのNBベンダーは長年の市場萎縮で期中の補給機能をほとんど放棄している。ジーンズやシューズなどサイズ補給が要となるカテゴリーではVMIによる看板補給がNBの存続条件となるが、その崩壊がジーンズ専門店業界の衰退を加速したと言っても過言ではあるまい。

 VMIではシーズンごとにカテゴリーの棚割りとSKUフェイシング数量を定めて立ち上げ在庫を買い取り、以降はリンクしたPOS情報に基づいてベンダーがEOS(発注書不要)で補給する。量販店の衣料部門で利益を出しているのはSPA的ロット買取のアパレル部門ではなく、VMIでEOS補給する肌着・靴下部門だということは知っておくべきだ。

 ワークマンでもベンダー商品の87%はアルゴリズムに基づくEOSで発注書なしに補給されており、どちらも継続する定番商品が大半ということもあってベンダー商品とPB商品の荒利益率には全く差がない。NB商品のVMIはライトオンにとって画期的な突破口になる可能性がある。 

ライトオンの抱える根本的課題

 モールサイトを撤収して自社ECに注力するとはいえ、EC売上げは全社売上げの5%未満としか公表していないし、自社EC売上げはその半分以下ということになる。全社売上げから見て15億〜20億円程度なのだろうか。

 サイトを見る限りコーポレートサイトとも連携したシンプルな構成で、最新のパッケージをベースに親切で使いやすく構築されており、店舗在庫検索も店舗受け取り指定(店舗決済)も容易にできるし、チャットのカスタマーサービスもある。惜しむらくはカテゴリーやブランドが前に出てヘッドページに一覧性がなく、最上部にあるのに検索枠が見つけにくく、さまざまな属性検索が可能なのに見つけるまで何回ものクリックを要することだろう。ECフロントの仕組みは合格だがヘッドページの構成とデザインはいまひとつ、といった評価だろうか。

 それもともかく、スタッフスタイリングをどう検索しても今風の鮮度あるストリートスタイリングが出てこなかったのには正直、ショックを受けた。店頭で見ても昔ながらのジーニングとアメカジにチャンピオンのスウェットとディッキーズのワークウエアが加わるだけという数年続く陳腐化した品揃えには腰が引けるが、若い店頭スタッフの感性が反映するスタッフスタイリングには期待していた。それでも古典的なアメカジとジーニングの枠を出られないというのはどうしてか、検索条件のブランドリストを一覧して腹に落ちた。今どきのエクストリームスポーツやスニーカー軸のストリートブランドが全く見当たらないのだ。これでは昔ながらのスタイリングしか出てこないのは致し方ない。

 “ノームコア”以来の6年間でカジュアルは根底から一変した。作り手側のクリエイションやこだわりから使い手側のウェアリングや生活感にカジュアルの主導権が移行し、“アスレジャー”でアメカジとジーニングからスポーツウエアとドームウエアにカジュアルアイテムの軸が移った。ストリートのスタイリングを見ていれば誰でも分かる変化だったのに、業界人的なこだわりで視野をふさいだ人たちには見えなかった、いや見たくなかったのだろう。

『NB軸のマーチャンダイジングには限界がある』としたが、多くの顧客に支持されて高い販売効率を実現すればその限りではない。ライトオンの年間坪販売効率は96.4万円と100万円にも届かず、国内ユニクロ(343.5万円)の3.6分の1にすぎない。それだけ顧客層が薄い、あるいは人気がないということだろう。ライトオンの可能性を閉ざしているもの、それは自らを縛るカジュアル観とNB観ではなかろうか。

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