小島健輔の最新論文

販売革新2018年11月号掲載
『有明自動倉庫の仕組み』
小島健輔 (株)小島ファッションマーケティング 代表取締役

販革11月号『有明自動倉庫#14

■自動化を徹底した有明倉庫

 物流マテハンのグローバルカンパニー「ダイフク」と提携して2年の歳月をかけて開発した有明フルフィルセンターは24時間稼働で自動検品率100%、旧体制比で入庫生産性80倍、保管効率3倍、出庫生産性19倍、省人化率90%、オーダーから出荷まで8~16時間もかかっていたのを最速15分〜最大60分に短縮するという華々しい自動化を実現したが、その要は店舗向け物流を切り離してEC物流に特化するという割り切りに起因する。

 有明フルフィルセンター自動化の骨子は「オリコン」使用、RFIDタグとマテハン用バーコードの使い分けにある。

 「オリコン」(折りたたみコンテナ)を使えば多様な衣料品・服飾品を一定形状に収納して倉庫内マテハンを徹底的に自動化できるが、パッキンからの移し替えは人手を要するし、嵩が膨れるから低コストで大量処理する店舗向け物流には必ずしも向かず(ZARAはハンガーとオリコンを併用している)、まずはEC物流に特化するという判断になったと思われる。

 RFIDタグは生産ラインで添付し、パッキンに添付したバーコードで方面別に仕分けてトレーラ・コンテナで消費国に運び、店舗向けはトランスファーセンターでパッキン単位に仕分け、EC向けはパッキンを開けて「オリコン」に移し物流用バーコードを添付していると思われるが、次段階では生産工場の出荷段階からオリコンで通すことになるはずだ。

 有明では「オリコン」のままRFID検品してバーコードで仕分けて棚入れし、オーダーを受けてピッキングし宅配箱入れラインへ運ぶ。ここでは人手で「オリコン」から取り出して宅配箱に入れるが、作業は定位置で行うから歩く必要はない。「オリコン」に商品が残って入れば同様に棚に戻し、空になれば折り畳んで回収するのも自動だ。

 商品が入った宅配箱は内容量に応じて自動で折り畳まれ封印されるが、この過程で宅配箱に宅配伝票と物流バーコードが添付されるはず。あとは方面別に仕分けられ、宅配業者のトラックに積み込まれるのは一般のフルフィルセンターと変わりない。

 

■棚入れ方式では自動化しても限界がある

 最新式の自動倉庫と言えども、いくつか課題が指摘される。まずは「棚入れ➡︎ピッキング➡︎棚戻し」という作業プロセスを採っていること。いくら効率化しても棚入れする以上は広大な保管スペースが必要になるし、自動化しても処理スピードには限界があるからオーダーが殺到すれば追いつかなくなる。

 もう一つはトランスファーセンターで店舗物流と分離されることで、オリコンへの移し替え作業を要し、滞貨の発生も危ぶまれる。店舗向けも全てがトランスファーされるのではなく補充用がパッキンのままストックヤードに積まれ、販売動向に応じてパッキン単位で店舗に補充されているはずだ。EC(有明)向けもオーダー動向に応じてパッキンからオリコンに移して補充出荷されるはずで、トランスファーセンターに在庫がパッキンのまま滞留するリスクがある。

 次段階では生産工場段階からオリコンで出荷し(積載効率は悪化するが)、出荷基地仕分けも消費基地仕分けもオリコンで自動化し、消費地トランスファーセンターでのオリコンへの入れ替えも不要にする計画だと思われるから、現状は過渡的な姿と見るべきだ。

 理想はいかなる段階にも在庫を滞留させず(棚入れせず)通過させていくことだが、それには生産から販売までのサプライチェーン総体の運用理念を根底から変えなければならない。ベーシック商品を大量継続販売するユニクロのディストリビューションは、オリコンで一貫しても基本は補充倉庫と店舗後方に在庫を積み上げる多段ダム方式であり、店舗を除けば淀みなく流れていくZARAのようなスルー方式とは根本的に異なる。

 有明の自動倉庫を見てINDITEXのDCとそっくりだという印象を受けた方もおられるようだが、INDITEXのそれは入庫前に行き先が全て決まっていて自動ソーターで高速仕分けされ出ていくだけの通過型で、棚入れするストックヤードは一切存在しない。ストックヤードへの入庫と出荷をオリコンで自動化したユニクロの有明フルフィルセンターとは根本から設計思想が違うのだ。

 INDETEXはスペイン本社周辺の通過仕分け型カテゴリー別DCから世界中の店舗に直送しており、各国には一切、店舗向けのストックヤードを持つ(棚入れする)DCを配していない。ECを展開する49カ国にはEC出荷専用のフルフィルセンターを布陣しているが、EC受注に店在庫を引き当てて店から出荷しても、EC専用フルフィルセンターから店舗在庫を補充することはないはずだ。

 

■物流はサプライチェーンを超えられない

 ユニクロがジャストインタイムな省在庫サプライチェーンを確立するには店舗物流の多段ダム方式を続けるべきではないが、ひと撒きディストリビューションのZARAのようなスルー方式ではベーシック商品の大量継続販売には対応できない。まずは棚入れを要するEC物流を切り離して自動化する一方、IoTなサプライチェーン改革で店舗物流のダム貯水量をミニマム化していくのが正解だと思われる。

 一括大量生産して多段階のダムで制御するという前世紀のサプライ概念を離脱し、最小限のフェイス在庫を短サイクルで補正生産していく省在庫型、あるいは完全無在庫の高速受注生産型のサプライチェーンを確立すれば、物流の効率化は自ずから進む。サプライチェーンの無理と無駄を残したまま強引に物流だけを効率化しても混乱を招くだけで、鶏と卵の順番は決まっているのだ。

論文バックナンバーリスト