小島健輔の最新論文

販売革新2008年9月号掲載
短期連載「チェーンストア衣料のVMD」
第2回『初期カセット編成/棚割設計』
(株)小島ファッションマーケティング代表取締役 小島健輔

元番地と出前

 初期投入するカセットはまず、全体編成の何処に位置付けられるか明確にしなければならない。どのブロックのどの位置、すなわちアドレス(元番地)を指定する必要が在る。シーンやテイスト、カテゴリーの所属を指定する訳だが、単純にナンバリングするのではなく編成ツリーの階梯位置が解るコードを設定したい。。
 元番地は初期投入時はもちろん補給投入時の位置指定に不可欠で、そこからルック打ち出しなどに出前される事になる(出前展開が終わった残品は元番地に回収する)。日本では通常、出前は一ケ所に限定されるが、米国では複数のルックやカラーグループに多重露出させる手法も見られる。意図して積み込んだ商品など多重露出出前で販売機会を増やすのは当然の策で、是非試して欲しい。。
 補給が切れてフェイスが空いてくるか販売不振でカセットが解体再編されるとアドレスが統合され、消化が進行してバラ残になったり処分店に抜き上げられるとアドレスが空いて次サイクルのカセットが投入される。投入/抜き上げと編集が同時でないとフェイスが空いたり不足したりするし陳列作業人時も読めないから、毎週の曜日と時間を定めて運用しなければならない。当然ながら、集約処分店の編集は抜き上げ商品が店着する曜日にずれる。

初期カセットの棚割は統一する

 初期カセットの棚割はフェイスの標準化を優先して陳列量で傾斜配分に対応するのが定石で、カセットの品番/色/サイズの構成と配置は統一してSKU別の陳列量で高効率店と低効率店のギャップに対応する。傾斜配分では直近の店別/カテゴリー別消化回転速度に比例して配分するが極端な格差になりがちで、SKU陳列量の下限を定めて低効率店の最低フェイスを確保し、上限を定めて高効率店の陳列量限界に対応する。
 同一ラックに陳列量だけ替えて対応するのが一般的だが、小型店ではSKUを重ねてハーフラックを設定する事もある。大型店には通常、出前を増やして対応するが、棚陳列では陳列のインパクトを意図して倍寸ラック(山数を倍にする)を設定する事がある。この点、「ユニクロ」の店舗規模別対応は極めて教科書的で参考になる。
 棚陳列では山数/SKU配置を同一にして積む枚数を変え、ハンガー陳列ではSKU順を同一にして詰め込む枚数を変えるが、物理的な限界があるから高効率店では後方に一部をストックする事になる。加えて高効率店には補給頻度で対応し、低効率店の未消化在庫は期限を定めて高効率店や集約処分店に移動するのが定石だ。

台帳型と心太型

 きちんと棚割を組むのは一定期間補給してフェイスを維持する‘台帳型’(SKU配置と陳列形状が規定される)のカセットであり、同一商品を補給せず類似商品を追い掛け投入して行く場合は運用し易い‘心太型’(陳列形状のみ規定しSKU配置は規定しない)に組む。山数が規定される畳み陳列だけではアナログな運用は困難だから、ハンギングだけで組むかハンギングと畳みを組み合わせ、陳列の形状と階梯順だけを指定する。
 定番商品を除けば心太型が主流で、台帳型も補給が切れて売り崩れていけば心太型に組み直す事になるから、心太型の陳列形状/階梯順指定のマニュアル化が不可欠だ。フェイシングパターン表を作ってマニュアルに入れておけば、ナンバーだけで陳列形状を指示出来る(什器規格の統一が前提)。見た目の洗練性は色順や色組みで左右されるから、マニュアルには色環表を添付すべきと思われる。

コーディネイトカセットの棚割

 棚割におけるSKU配置はコーディネイトカセットではウェアリングの構造に、単品カセットではMD展開軸に従い、どちらも購買階梯順(お客様が購買選択を進める順番)に組む。
 ウェアリングの構造は1)セットアップ、2)定形コーディネイト、3)マルチ・コーディネイトの3種しかなく、チェーンのMDはほとんど定形コーディネイトに限られる。 セットアップは同一素材による上(中)下組みだが、異素材組みによるクロス・セットアップ(無地×柄/柄×柄/セットアップ×BSなど)、同一糸ニット/ジャージの多アイテム展開によるコンポーネンツなどのバリエーションがある。セットアップは上下または左右にルック組みするが品番でまとめると壁感が出るので、色/サイズ毎に分けてルック組みし各々にインナーを差して軽く見せる。上下組みでは中棚を差してインナーを挟むのも効果的だ。クロス・セットアップは上下でも左右でも色組みで分けてルックを組み、無地×柄/柄×異柄と交互になるよう配置する。コンポーネンツは原則、シングルハンガーにカラ−別に組み、ルック回転(隣同士がコーディネイト)になるようアイテムを並べる。
 様々な素材やアイテムの組み合わせによるマルチ・コーディネイトはセレクトショップを除いては初期カセットに組まれる事は稀で、チェーンではコーディネイトカセットの末期統合フェイス(残品ラック)に結果的として生じるに留まる。テイストや素材のリミックスが複雑でルック組みにも最新のセンスが必要だから、通常の棚割指示はほぼ不可能。起点となる色と色環表の回転方向だけ指示して売場スタッフがルック回転に組むしかなく、現場のセンスに頼らざるを得ない。繊細な運用マニュアルと日頃の修練が不可欠だから、多店舗展開のチェーンには向いていない。  定形コーディネイトは同じアイテム合わせを素材や柄、ディティールでバリエーション展開するもので、影絵にすれば皆、同じに見える。‘チュニック×ショートパンツ’とか‘コンパクトブルゾン×半端丈ワークパンツ’など、その好例だ。同じルックを素材や柄、ディティールを替えて追っかけられるので、109から量販チェーンまで広範に活用されている。
 定形コーディネイトは上下に2段組みしてバラエティを見せるか、シングルハンガーやT字でルック組みするのが基本。初期は品番順や色組みを指定しても追っかけて行くと崩れていくから、途中で色順指定に替えるか色組みでグルーピングする事になる。定形コーディネイトは棚什器に畳みで展開する事も可能で、上(中)下とアイテムを配してルックを組む。SKU配置を指定して補給しフェイスを維持する事もできるが、ボトムだけ補給してフェイスを維持しトップスは回転させるといった組み方もできる。複数のルックを縦横に組み、ルービックキューブのように回してクロス表現する手法もセレクトショップでは目に付く。
 定形コーディネイトの究極がモノ・ルックで、同一デザインのアイテムをルックに組んで柄や色、サイズだけ替えて展開する。品番別に並べると単調に過ぎるから必ずルックに組み、同じルックを柄や色を回して変化をつけて並べる。多サイズ展開のミセス商品などではモノ・ルックのサイズ別回転陳列も効果的だ。「マクスマーラ」などでは実際に活用されているので、是非一見して欲しい。

単品カセットの棚割

 単品カセットの棚割を決めるのはMDの展開軸と購買階梯だ。デザイン/ディティール展開なら品番、カラー展開なら色、柄展開なら柄が第一階梯となり、“品番⇒色⇒サイズ”“色⇒品番⇒サイズ”といったように購買選択を進める順に配して行く。MD設計と陳列階梯が合致しないと訴求効果が損なわれるし購買選択も上手く進まないから、よく考えてフェイスを組まなければならない。
 ハンガー陳列では量の限界はあるものの階梯順に並べて行けばよいが、棚陳列では第一階梯の展開数が山数を決めるから、デジタル(規格)什器を前提とするならフェイスにはまる数に企画を組む必要がある。デザインが第一階梯なら品番数の倍数で山数が決まるが、色を第一階梯にすると色数×品番数になって山数が多くなり過ぎるから(一山に複数品番を積む事を回避するため)、複数色を一山にグルーピングして山数を抑える。ハンギングでも畳みでも色配置を色環順に指定し、グルーピングする時は暖色/寒色/モノトーンの三分類か類似色相でまとめたい。
 最近は陳列も上手くなった「ユニクロ」だが、何故か色配置の順には混乱が見られる。色環順は陳列の基本であり、VMDに関わる者は皆、色環表を常備したい。

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