小島健輔の最新論文

繊研新聞2022年6月3日付掲載
『ダム型サプライから倉庫レスのOMOと下剋上のVMIへ』
小島健輔 (株)小島ファッションマーケティング代表取締役

「ZARA」(INDITEX)、「H&M」、「ユニクロ」(ファーストリテイリング)の最新決算ではINDITEXの背中が遠くなり、H&Mもユニクロもビジネスモデルの限界が露呈した。H&Mは経営効率の悪化が止まらなくなり、ユニクロはサプライヤーへのコスト転嫁が限界に近づいているが、その全ての元凶は在庫を抱えて売り減らすという古典的なダム型サプライSPAモデルにある。

 

■多段階ダム型サプライの限界

 前世紀に確立された古典的SPAモデルは、1)低コストな遠隔地で計画生産した在庫を生産地倉庫に積み上げ、2)販売期直前に消費地倉庫に移して補給分を棚入れし、3)初期投入分はスルーで自動仕分けして店舗に送り、4)高稼働品は消費地倉庫から補充し、低稼働品は売価変更などで売り減らす、というものだった。生産地倉庫、消費地倉庫に加え、近年はEC倉庫にまで在庫を積む「多段階ダム型サプライ」は需給ギャップが避けられず、在庫効率の低下が収益を圧迫している。

  ユニクロやGAPが古典的SPAモデルを出ないにしてもファストファッションのH&Mも実態は大差なく、ZARAだけが部分的ながらオンデマンド・サプライを確立しており、在庫効率の格差(後述)に如実に現れている。グローバルSPAの在庫効率(粗利益率×在庫回転=交叉比率)はリーマン前がピークで、以降は効率が低下して収益を圧迫し、コロナ禍からの回復も鈍い。

複数買い割引やクーポン発行、キックオフやセールなどの値引き訴求、再編集陳列や店間移動などの在庫運用をアルゴリズムやAIを駆使して精度アップしても作り溜めた在庫と需要の一致は困難で、衣料消費が冷え込んで需給の乖離が広がる中では値引きロスや残品が肥大して粗利益を圧迫。コストインフレの加速で原価率の切り下げも販管費の抑制も難しく、「多段階ダム型サプライ」は限界に近づいている。

直近決算ではH&Mもファーストリテイリングも売上は回復しているが在庫効率の回復は鈍く、H&Mの在庫回転は2.52回、ファーストリテイリングも2.68回にとどまり、交叉比率はどちらも130台と低迷している。一部を近隣欧州の工場でDXファスト生産しているインディテックスこそ3.9回転と4回転に迫り交叉比率も220を超えるが、最盛期の効率(06年は4.76回転で交叉比率268だった)には遠い。ZARAも欧州の“地産地消”に限ればオンデマンドに近いサプライを実現しているのかも知れないが(後述)、アジアなど遠隔地で生産してグローバル展開し“地産地消”から離れるほど在庫効率の悪化は避けられない。コロナ禍からの消費の回復やロシアのウクライナ侵攻による物流の混乱と物流費の高騰もそれに輪をかけている。

我が国では問屋や商社が多段階ダムの一翼を担って来たが、急激なコストインフレと物流の混乱で負担が限界に達しており、サプライチェーンは破綻寸前だ。支え切れない流通在庫はいずれ二次流通に放出され、リユース・リサイクルされても古着として輸出されても最後は廃棄物となって環境負荷になる。サステナビリテイという視点からも、過剰在庫の元凶たるダム型サプライは過去に葬るべきだろう。

 

■OMOの究極は倉庫レスの店在庫出荷・店渡し

 近年のECの急拡大は売上には貢献しても、在庫効率はむしろ悪化する傾向が見られる。EC向け倉庫在庫が肥大して店舗在庫を圧迫するばかりか在庫が分散して一元運用から遠退き、在庫効率が悪化してしまうのだ。ECはロングテールな旧在庫も抱えるから店舗在庫より回転が遅くなりがちで、モールに在庫を預けるとデータ連携しても物理的な移動は難しくなる。

自社EC在庫なら店舗向け在庫と同一施設(ラインは分かれる)で一元管理する手はあるが、ECモール出品在庫はモール側の倉庫に預けてしまうとデータ連携しても移動に時間を要し、顧客の受け取り利便を考えると例外的運用にとどまる。自社EC在庫もユニクロの有明自動化倉庫のように店舗向け在庫と分離してしまえば物理的な一元運用は難しくなるし、ECモール出品在庫もモールに預けずドロップシッピング※で自社倉庫から顧客に直接出荷すれば一元運用できる。

オンデマンドなサプライを仕組んでも、途中で倉庫に積めば(棚入れすれば)在庫は停滞するし倉庫の賃料や運営費用も嵩む。ファッションECのプロで出荷倉庫運営の仕組みも確立しているはずのZOZOでさえ、倉庫運営(経費科目「物流関連費」)に取扱高の3.7%(前期は4.0%)、宅配外注費(経費科目「荷造運賃」)に同6.8%も要している(22年3月期)。

消費者向けのECでは非効率な棚入れとピッキングが避けられず倉庫運営費が嵩み在庫も寝てしまうから、実サンプルや3Dバーチャルサンプルで受注を先行し、仕上がった生産品を棚入れせずにスルーで仕分け出荷する比率を高めるべきだ。D2Cでは工場出荷が大原則で、仕上がり品を倉庫に棚入れすることなく顧客別に仕分けて即日出荷するのが正解だ。

多店舗展開の小売系SPAでは、出荷倉庫にEC向け商品を積むと在庫も寝るし物流費(倉庫運営費も宅配外注費も)も嵩むから、出荷倉庫に積まずエリア毎のOMO※マーケティングに基づいて店舗在庫を積み増し、店在庫引き当ての店出荷と店渡し(BOPIS)に徹するのがベストだ。さすれば顧客はより早く(最短で注文の30分後から)受け取れるし、負担の大きい物流費を劇的に圧縮し、完璧な一元化で在庫効率も格段に高まるが(テザリング※の併用が要)、豊富な在庫と受け取り客の来店で店舗販売が伸びるメリットも大きい。

逸早く決断したのがINDITEXで19年6月に着手して21年末までに完了し(今や同社はどの市場でも店舗向けもEC向けも倉庫を持たない)、22年1月期のオンライン売上は75億ユーロ(EC比率27.0%)に達して24年には30%への到達を見込み、店舗の坪売上もコロナ前の前々期を5.1%上回った。その一方、EC専用自動化倉庫に固執して店舗在庫引き当てに遅れを取った国内ユニクロの21年8月期のEC比率は15.1%にとどまり、店舗の坪売上も前々期を12.4%下回った。ワークマンも20年5月のECシステム・リプレースで店在庫引き当てのBOPIS(最短で注文の3時間後から)を導入し、EC注文者の65%以上が利用しているが倉庫出荷もまだ併用しており、27年3月期までに倉庫出荷の全廃(全て店在庫の店渡し)を目指すとしている。

※OMO(Online Merges with Offline)…ネットと店舗の垣根を超えた連携を意味し、ウェブルーミングから店取り置き、EC注文品の店受け取りや店出荷で顧客利便と在庫効率を高め物流コストを抑制するリテール戦略。

※ドロップシッピング・・・モール事業者に在庫を預けず、受注した宅配伝票をモール事業者から受信して出品者が自社倉庫から顧客に直送する方式。受注や決済はモール事業者に依存しても倉庫運用と宅配出荷は出品者が自ら行うから、出品手数料率も10ポイント前後安くなる。

※BOPIS・・・Buy Online Pick-up In Storeの略で、ネットで注文したり取り寄せて店舗で試したり受け取る購入方法。英国ではClick&Collectと言う。

※テザリング…店舗間で在庫を融通して在庫効率を高めるローカル・ディストリビューション手法で、修理加工の集約やC&Cの店出荷と連携される。

 

■VMIという真逆の選択と下剋上

 SPAと言っても何もかも自社で遂行するわけではなく、生産地倉庫在庫はもちろん国内倉庫在庫まで商社などのサプライヤーが管理運用しているケースが多く(18年8月期第1四半期までのユニクロ)、補給はサプライヤーに任せると割り切ってVMI※に徹するケース(しまむらや「ワークマン」)もある。VMIもしまむらのような慣習的取引から「ワークマン」のようなDX装備の製販同盟へ進化しつつあり、究極は販売と生産が時差なく連携するJIT(ジャスト・イン・タイム)なオンデマンド・サプライに至る。

 インフレ型のラグジュアリービジネスでは在庫は増値していくから値下げして処分するより持ち越すという選択もあるが、デフレ型の低価格ビジネスでは在庫は減値していくからシーズン中の処分が必要で(減値しない“鉄板”定番もある)、売価変更が収益を圧迫するだけでなく、顧客の値引き待ちを誘発して正価販売を難しくしてしまう。在庫の最適化は必須の課題だが、抱えた在庫を売り減らす在庫運用では限界があり、生産段階と連携して需給一致のオンデマンド・サプライを図る必要がある。その一方の解答がVMIなのだ(もう一方は工場出荷の越境D2Cや地産地消D2C)。 

VMIなら、小売業者は倉庫に補給在庫を抱えず欠品しないだけの店頭在庫を積み、データ連携したサプライヤーが高精度なアルゴリズムやAIで消化予測して短サイクルに補給用倉庫在庫と補充生産をコントロールするから、欠品や余剰在庫の発生は格段に抑制される。3D・CGでバーチャル化が急進するECなら無在庫販売も可能で、越境D2CのSHEINのような爆発的急成長も望める。

VMIを担うのは生産工程と物流工程をコントロールできる専門商社やOEM事業者、企画問屋であり、これまで専制的にリーダーシップをとってきた小売系SPAはイコールパートナーやフランチャイジーに後退する。私は小売系SPAのご無理を支えてきた専門商社やOEM事業者、企画問屋がDX武装して下剋上すると見ているが、その要となるのが生産ラインへのDX設備投資だ。

※VMI(Vendor Managed Inventory)・・・あらかじめ定めた陳列棚割と販売計画に基づいてベンダーに在庫管理と補給・補充生産を委任する取引形態。同一商品を継続補給する「台帳型サプライ」が一般的だが、アクセサリーやベルトなど服飾雑貨やデザイン衣料では類似アイテムをリレー供給する「トコロテン型サプライ」も多い。NBサプライヤーも多い在来型の「ワークマン」はVMI型だが、PB主体の「ワークマンプラス」は在庫リスクを抱えるSPA型にシフトしている。

 

■生産工程の抜本的効率化と産地再生

遠い海外生産地でシーズンの遥か前から作り溜め、生産地倉庫/消費地倉庫/EC出荷倉庫/店舗と何段階ものダムを経て消費者に届けるダム型サプライの壮大な無駄を知れば知るほど、SPAという前世紀のアナログなビジネスモデルに限界を感じざるを得ない。DX多頻度小ロット高速反復生産(自動ブレーキに似ている)で生産地から世界の顧客に郵便小包で(ここが肝!)直接出荷する実質無在庫販売の越境D2Cが確立され、SHEINに続いて次々と生産地発DX武装D2Cアパレルが台頭する中、非効率な店舗網やEC倉庫に縛られた高コスト運営で行き詰まっていくアナログ世代の小売系SPAにもはや成長は望めない。

店舗や倉庫に投資するより生産設備に投資して生産の効率と速度を革命すれば、生産地出荷D2Cという無在庫・高収益ビジネスモデルが容易に成立する。最先端のCAD/CAM機器、工程別に特化したデジタルミシンとガイドパーツやゲージ別編機、洗い加工やプレス仕上げの設備を一貫すれば設備投資は嵩むが生産効率が飛躍的に高まり、稼働率さえ維持できれば国内で日本人を正規雇用しても採算がとれる。そんな一貫生産工場が産地のハブ機能を担えば、長年の産地衰退で生産工程が分断・欠落して広域化してしまった工程間物流も一気に短縮され、広州や東大門並みの高速オンデマンド生産が実現する。

DX武装一貫生産工場は産地の中核となって“地産地消”の国内供給はもちろん、国際交換局※が近いなら越境D2Cで世界のマーケットを攻めることも可能だ。INDITEXのラ・コルーニア本社生産基地は染色整理からCAD企画とマーキング・CAM裁断、裏地・付属配備の生産仕掛かり工程、プレス成形と物流加工の仕上げ工程を一貫して近域縫製工場のハブ機能を担っており、今世紀初頭にはDX武装を完了していたから、近隣欧州域生産分(全商品の13%程度と推計)についてはJIT(ジャスト・イン・タイム)生産とブランドメーカー的品質管理が成立している。そんなDX武装生産ハブが確立されれば、我が国のアパレル産地も国際競争力を回復できるのではないか。

その障害となっているのが生産機器の高額化と生産性の低さで、行政の助成金を利用しても設備投資と償却の負担は大きい。高価な専用ミシンを工程別に複数ライン揃えるには数千万円以上を要するが自動化できるわけではないし(TSS※で運用を効率化しても労働集約は変わらない)、最新のホールガーメント編機は一台1400万円もするが一枚編むのに小一時間もかかる。生産機器メーカーの技術革新はもちろんだが、服の構造から生産工程を抜本革新するような発想転換や“クリエイション”※が必要なのかもしれない。

※国際交換局・・・国際郵便物の発着窓口・通関対応業務を担う郵便局で、国内には空港や港湾に近接する東京都江東区、川崎市川崎区、愛知県常滑市、大阪府泉南市、福岡市東区、沖縄県那覇市の6箇所しかなく、国内のアパレル産地とは離れている。広州、深圳、香港の三カ所の国際交換局が近接して使い易い広州産地とは出荷環境に格差がある。

※TSS(トヨタ・ソーイング・システム)・・・一枚流しの複数工程分担リレー生産方式で、立ちミシン方式とも言う。

※ホールガーメントニットやテーラリングスーツからアクティブスーツへの縫製工程簡略化もその一例だ。

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