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商業界オンライン 小島健輔からの直言
『ユニクロに迫る2つの脅威』 (2018年12月14日付)
小島健輔 (株)小島ファッションマーケティング代表取締役

ワークマンプラスの店頭

 19年8月期第一四半期(18年9〜11月)の国内ユニクロ既存店売上高(EC含む)は95.7と前年同期の108.4から失速。立ち上げの9月こそ106.0と好調だったものの10月は90.0、創業祭で挽回を仕掛けた11月も95.7と低迷を脱せないでいる。早い冷え込みに押し上げられた前期から記録的に暖かかった今期という気候変化が主要因で、防寒衣料への依存度が高いユニクロには強い逆風となったが前々年比では103.74と水準は維持しており、“ユニクロ離れ”を危惧する状況ではない。が、その兆候は確実に広がっている。

失われた価格のインパクト

 気象庁の長期予報では暖冬を予想しているから、50年ぶりの極寒だった前年からの反動は大きいと危惧されるが、問題はそこにあるのではない。ダウンやヒートテックといった防寒アイテムへの過度な依存もともかく、価格の高止まりとウエアリングの陳腐化という根本的な問題が指摘されるのだ。

 ユニクロの価格が高くなったわけではないが、過剰供給と値崩れの蔓延、タンス在庫のC2Cリユースや中古衣料流通の拡大、社会負担増による手取りの減少などで衣料品の価格感覚はジリジリと下がり続けており、ユニクロの価格はかつてのようなお手頃感を失いつつある。

 競合するカジュアルSPAの価格もユニクロと変わらなくなったし、メルカリや中古衣料店ではキャラのある衣料品が格段に安く買える。積み上がる流通在庫も新品の価格を圧迫しており、ホームセンターやディスカウントストア、ドンキやしまむらの期末店頭には三桁価格(千円未満)の衣料品があふれている。

 機能性商品とて量販店をはじめとするライバル各社が大差ない価格で販売しており、ユニクロの下を潜る商品も少なくない。ユニクロの店頭に並ぶダウンジャケットの1万2900円、1万5900円(税別)という価格にドン引きする顧客も少なくないご時世で、暖冬による消化不振もあって既に多くは値下げされている。もはや価格というより高品質で高機能という“ブランド神話”だけがユニクロの特別なポジションを保っていると言っても過言ではないだろう。

神話に疑問符を突きつけた「ワークマンプラス」

 そんなユニクロを脅かしつつあるのが作業着のワークマンが立ち上げた低価格機能性カジュアルの「ワークマンプラス」で、アウトドアユースにも耐えられる高機能な防寒アウターが3900円でそろうなど“価格破壊”のインパクトに激震が走った。

 高機能なカジュアル衣料/靴がユニクロの半値という劇的なコスパ、コンサバに過ぎるユニクロと比べれば今風のストリート感も取り込んだデザインが受け、9月5日にららぽーと立川立飛にオープンした1号店には購入客が殺到。女性客が半数を占めて男性の作業着という「ワークマン」のイメージを一新し、60坪で年商1億2000万円という予算を2.5倍の3億円に上方修正している。

 11月8日には川崎中野島に90坪の路面店(ワークマンとワークマンプラスの複合実験店)、11月22日には50坪のららぽーと富士見店を布石していずれも絶好調で、12月20日には等々力に路面店をオープンする。既存の「ワークマン」店舗にもコーナー展開を広げ、「ワークマンプラス」への業態転換も進める。初年度は有力SCに10店舗、その後は地方のSCやGMS、ロードサイドに拡げて3年で100店舗、将来は「ワークマン」と「ワークマンプラス」それぞれ1000店舗体制を目指すという壮大な計画で、今の勢いからすれば前倒しの達成も期待されよう。

 高価格なスポーツブランドやアウトドアブランドはもちろんユニクロにも少なからぬ影響が及ぶことは避けられず、高機能低価格とされてきた“ブランド神話”にも疑問符がついた。量販店各社に続いてZOZOが本格参入した機能性下着にもワークマンは強いから、ウィメンズのラインアップも加えて「ワークマンプラス」に投入すればユニクロの牙城を脅かすことになる。

 グローバル展開に注力して高コスト化し“ブランド神話”が陰るユニクロの存在意義が原点から問われる状況で、先では「ワークマンプラス」にカジュアルの革命主の座を奪われかねない。

デザインもスタイルも陳腐化

 ローカルなアメカジに発して「ギャップ」や「アバクロ」など本場のアメカジを取り込み、フリースを起点に機能性のスポーツカジュアルも取り込み、グローバル化する過程で欧米モードも取り込んでベーシックモードに変質していったユニクロだが、今日の姿は移ろいゆく日本の消費者にとってはコンサバに過ぎて陳腐化を否めない。

 ノームコアを経て“抜けた”緩い着こなしが定着して欧米的なモードスタイルと乖離し、アスレジャーなスポーツミックスとルーミーなドームカジュアルが“着た切り雀”なヤンキースタイルを蔓延させる今のウエアリングから見れば、ユニクロは一昔前のアイテムばかりで提案するスタイスルには“抜け”も“リミックス”もなく鮮度を欠いている。それでいて価格もお手頃とは言えないから、今日の消費者にとってユニクロを選択する必要は薄い。

 ユニクロも世界の一流クリエーターとコラボしたりしてトレンドを追っているが、それはグローバルなモードトレンドであって国内ローカルなライフスタイルに寄り添うウエアリングトレンドとは異質なものだ。少子高齢化の社会負担がのしかかって生活と生計に追われる大多数の国民にとってグローバルなモードトレンドは無縁なもので、自身のライフスタイルになじむ「今風に緩く抜けてイージーケアに着回せる安い衣料品」こそが求められている。それはカジュアルとかビジカジとかホームウエアとかTPOの概念を超えて身を包む生活パーツに他ならないが、今のユニクロの“カジュアル”は大きく乖離している。

 このままではスポーツウエアやユニフォーム、ワークウエアやホームウエアから発した新世代の“生活パーツカジュアルSPA”が化石化したユニクロを駆逐する日が来る。INDITEXやH&Mなど過去の幻影を追っていては時代に取り残されてしまうのではないか。

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