小島健輔の最新論文

マネー現代
『アパレル販売が激変…
なぜか「客」も「店」も郊外への大移動が始まった!』
(2020年06月11日付)
小島健輔 (株)小島ファッションマーケティング代表取締役

コロナバンデミックで都心店舗の長期休業を強いられたアパレル販売は、コロナが収束しても都心集中からローカル・郊外分散に転換せざるを得ない。アフター・コロナはウィズ・コロナと同義だからワークスタイルもライフスタイルも購買慣習も一変し、ファッションも気負ったアーバンスタイルから日常生活に馴染む“普段着のお洒落”に変貌する。

「通勤」という概念がなくなると…

緊急事態宣言下でビデオ会議に慣れ、メールやチャット、転送電話などによるリモートワークでも仕事はできる事に気付けば、これまでのオフィスワークや満員電車での“痛勤”が本当に必要だったのかということになる。

通勤に要する往復の時間とコストは従業者にも会社にも負担だし、朝夕の通勤電車は“三密”が避けられないからコロナウイルスの感染リスクも残る。会社としてもリモートワークが定着すればオフィス家賃や通勤費用などコストを抑えられるし、感染者が発生してオフィスが隔離されてしまうリスクも避けられるから、それで回る分野では積極的に在宅勤務を広げていくに違いない。

そうなれば通勤帰りにターミナルの商業施設に立ち寄るという購買慣習も崩れ、代わって自宅から徒歩や自転車でも行ける距離感(車で行くことがあっても)の、普段着で行ける商業施設を利用することが多くなる。

オフィスや街角で周囲の目線に晒される機会も減り、ターミナルの繁華街や商業施設に立ち寄ることもめっきり減るから、お洒落に気を使って高いブランド商品を購入することも稀になっていく。ビジネススーツやパンプスなど、特別の機会しか着ないフォーマルみたいになり、代わりに小ぎれいな普段着カジュアルやスニーカーが生活の大部分を占めるようになる。

気負わない普段着を買うなら生活圏の商業施設で十分だし、そんなニューノーマルの中で“普段着のお洒落”という新しい楽しみ方も芽生えていくのではないか。

都心店から「人」と「店」が去っていく

これまでアパレル店舗が都心の百貨店や駅ビルに集中していたのは、多くのブランドが揃って集客力も販売効率も高かったからだが、ウイズ・コロナで“三密”回避が求められて客数が制限され、かつてのような高い販売効率は望めなくなる。

顧客にしても、感染リスクの高い繁華街に出かけるのは避けたいから、なるべくECや生活圏の店舗を選択することになる。

多くのブランドを見比べられる都心店のメリットも、ウェブルーミング(事前にECやSNSで見比べて出かける店を選択し、商品も取り置いてもらう購買行動)が定着した今日では絶対的魅力ではなくなった。ECからC&C(クリック&コレクト)で近所の店舗に取り寄せれば試したり受け取ったりできるし、交通費と時間をかけ感染リスクまで負って出かける必要はない。

結果として都心店舗の販売効率が落ちる一方で生活圏店舗の販売効率が上昇し、都心店舗は高い家賃(百貨店は歩率という売上手数料)に見合わなくなる。

「生活圏店舗」へのシフト

緊急事態宣言による長期休業で破綻の瀬戸際を見たアパレル業界は、売上金回収の遅い百貨店や売上金預り型の商業施設を嫌うようになる。

路面の独立店舗なら日銭が入るが、月の前半の売上から固定家賃を差し引いて月末に、月の後半の売上から変動家賃と共益費用を差し引いて翌月半ばにテナントに振り込む売上金預り型の商業施設では平均22.5日、入金が遅れるし、月度に売上を締め歩率手数料を差し引いて取引先に振り込む消化仕入れの百貨店では平均45日、入金が遅れる。

都心の駅ビルやファッションビル、郊外でも広域型の大型SCは売上金預り型だが、パワーセンターやストリップモールなど、平屋の店舗が駐車場を囲んで並ぶような生活圏の商業施設ではテナントが個別に売上金を管理する施設も多く、そんな施設は家賃も管理費も格段に安い。商業施設のLCC(格安航空会社)なのだ。

独立店舗なら都心でも郊外でも日銭が入るし管理費も共益費も不要だが、その分、独自に集客し様々な管理も自らおこなわなければならない。

管理業務は外部委託すれば済むが、中途半端な知名度だと集客に苦労するから、集客が見込めるパワーセンターなど生活圏のLCC型商業施設が望ましい。

アパレル会社が「日銭確保」する方法

ファッション性が強く、生活圏にシフトできないアパレルには、もう一つの手がある。突出したブランド力があれば、売上金預り型の商業施設でも直接収納を主張できるからだ。

米国の商業施設ではテナントの売上金を一定期間、デベが預かって家賃などを精算するシステムはデフォルトでなく、米国のアパレルチェーンのクレジット債権を除く売上債権回収期間は1〜2週間が大勢だ。ビクトリアズシークレットやバス&ボディワークスを展開するL.ブランズ社は売上債権回転日数が8.7日にすぎないし、ギャップやオールドネイビーを展開するギャップ社も15.7日に収まっており、コロナ休業に際しては家賃の支払いをストップするという強硬手段も行使している。

我が国では商業施設の売上金預り制度はデフォルトだと思われているが、ファーストリテイリングの売上債権回転日数は米国アパレルチェーンと大差なく、大手チェーンや外資系チェーンは商業施設内店舗でも売上金を直接収納していると推察される。

それができれば理想だが、大多数のアパレルチェーンはそんな強気には出られないから、お洒落の普段着化と相まってアパレル販売の主戦場は生活圏に移り、価格も一段と手頃になっていくだろう。

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