小島健輔の最新論文

ブログ(アパログ2017年12月1日付)
『クリエイティブシンキングの功罪』
小島健輔 (株)小島ファッションマーケティング代表取締役

 ロジカルシンキングがコモディティ化した今日ではアートなクリエイティブシンキングが企業戦略の突破口になる・・・・と山口周という外資系コンサルタントが提じているそうだが、誰もがクリエイティブシンキングに熱中してロジカルシンキングが疎まれるこのギョーカイではそんな実感はまったく無い。クリエイティブシンキングの方がコモディティ化してカジノ状態なのだから致し方あるまい。
 マーケティングでは広く全体を鳥瞰して顧客の嗜好変化と需給バランスを定性・定量検証し続けるべきだし、マーチャンダイジングやロジスティクスもECや店舗の運営まで連続したプロセスと捉えて流体力学的にロジカルコントロールすべきだと思うが、クリエイティブシンキングを至上とするこのギョーカイでは耳を傾けてももらえない。誰もがクリエイションを主張して顧客の支持を期待するカジノ化したアート市場という側面は否定しないが、一方で大きな成功を収めているのはコモディティに徹してロジカルにコントロールしている巨大企業だという事実にも目を瞑るべきではあるまい。
 アート商品は一点ものの‘作品’から作家もの‘工芸品’、産地もの‘民芸品’まで様々で、リユース流通も多く需給バランスが読めないカジノ市場ゆえロジカルなコントロールは難しいが、それゆえ買い手が価格を決める「オークション」、天候・市況に左右される生鮮産品では「競り」というシステムが確立されている。
 アパレルの世界でも、かつては‘卸流通’という各段階がリスクを分担する垂直分業が主流を占めて「競り」的な需給調整が成り立っていたが、今日では利益もリスクも独りで背負い込んでしまう水平分業の‘SPA流通’が大勢となり、糸、生地、製品の各段階が独自に創意とリスクを担う醍醐味も薄れてしまった。SPA流通では各段階の「競り」も需給調整も成り立たず、カジノ市場の創造性が損なわれた事も衣料消費衰退の一因になったのかもしれない。
 ロジカルなコントロールが難しいアート市場では「競り」に委ねるので無い限り(それも有効な選択肢だ!)、需要を超えない過少供給に徹して商品計画から販売まで全プロセスを精緻に連携する‘スキルの環’を追求しないと消化が覚束ない。大半の実務者は自身の担当する部分最適に囚われ、全工程を繋ぐ‘スキルの環’まで視野が及ばない事が多いが、何かを変えようとすれば総てのプロセスとスキルを洗い直さねばならない。真にクリエイティブであろうとすれば、それなりの全体観を持ってロジカルシンキングするしかないのではないか。
 それが困難なら社内の業務プロセスもZARAのように「競り」に委ねる方が確実で、各段階・各個人の成果評価も明確になる。権限を集中するCMIに固執するより各々が責任を担うSMIやVMIに発想を切り替えてみるのも‘クリエイティブシンキング’ではないか!

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