小島健輔の最新論文

ファッション販売2004年6月号巻頭カラー
『メガストアの新時代を開いた“フラクサス”』
(株)小島ファッションマーケティング代表取締役 小島健輔

 ワールドが郊外RSC市場創造の切り札として開発したライフスタイル編集メガ・ファッションストア“フラクサス”が、3月24日開店のダイヤモンドシティ・ソレイユ(広島)、4月1日開店のダイヤモンドシティ・アルル(奈良県橿原市)と相次いで姿を現わした。
 前者は約1170坪、後者は約900坪と、これまで大手アパレルが郊外SCに出店してきたスーパーストアを格段に凌駕するメガストアであるばかりでなく、美術館を想起させるほどアートな店舗環境や多様な編集MDという点でも、画一的な店舗環境とモノテイストなMDを押し通して来た既存のスーパーストアSPA群とは次元を画するクリエイティブなものと評価される。
 ソレイユの“フラクサス”は6mにも達する天井高と広い空間をフルに活かし、NY五番街のサックス・フィフス・アベニューを思わせる円形レイアウトの中に天井まで垂直に伸びるガラスウインドを象徴的に林立させ、ヘンリ・ベンデル的アールデコ調ディスプレイ、エルメスやルイ・ヴィトンを思わせるアンティーク調ディスプレイを散りばめるという、豪華絢爛目を覆うばかりの仕上がりであった。
 このアートな店舗空間への各コーナーの配置も、OL〜キャリア〜ミセス〜ファミリー&キッズ〜カジュアル編集〜アクセサリー&雑貨と流れる合理的な外周配置の一方、レディス〜メンズ〜キッズを横断的にワープする隘路やパサージュ的回廊、秘密の中庭を思わせるプランツショッブの設定など、極めて詩的な手法がクロスされている。あたかもマルセル・プルーストの回想の旅路(「失われた時を求めて」)に迷い込んだような錯覚に囚われたのは私だけだろうか。
 企業の将来を開く弩級戦略業態とは言え、郊外RSC店舗にここまで美術的/詩的な英知を注ぎ込む必要があったのか(内装投資も嵩む)という疑問は残るが、ワールドワイドに見ても十年に一度出るか出ないかという画期的な店舗である事は間違い無い。恐らくは国際的な評価を得る事になるだろう。
 店舗環境は手放しで賞賛したいが、MD構成と陳列については「未完成」という評価を免れない。既存の百貨店展開ブランドを羅列したキャリア〜ニューミセス〜サイズセレクションはMD的にもVMD的にも芸が無いし、新規に開発したプチ・エレガンス系の“スープ”も凡庸と言うしかない。編集や陳列にもう少し美術的な手を加え、雑貨感覚の単品ブランドを開発して繋げば、もう少しは魅力が出るのではないか。
 “インデックス”“ハッシュアッシュ”“コキュ”“ミニマム”は既成業態のはめ込みだし、新設の雑貨ブランドも“マリーシュー”を除けば即戦力にはなりそうもない。“ランジェリーセレクション”や“ネイルクィック”も目を引くし、新開発のママ&キッズ業態“チッカチッカブーンブーン”も可愛いが、いずれも売上を期待するには詰めが足りない。
 メンズも既存アダルトブランドをおまけ程度に配したのみで、“フラットフォーム”の話題性だけではメンズ客は引っ張れない。生活雑貨の“ヒューゲ”は唐突な存在で売りに繋がりそうもないし、“コスメティックセレクション”も専門業態との競争力は疑わしい。エントランスのサンドウィッチ・カフェ“ピクニック アラウンド ザ ワールド”と最深部に配したパステリア“シィシィパスタ”は人気を呼びそうだが、集客が物品販売に直結するとも思えない。
 総じて散文的な構成で購買慣習を形成するストーリーを欠き、強力な核商財も不足しており、総合力を発揮出来る仕上がりではない。店舗環境はグラミー賞ものの傑作だが、MDの詰めは時間不足もあって極めて甘く、しばらくは苦戦が避けられないだろう。逆に言えば、これだけの器を立ち上げたのだから、MDを積み上げて行けば確実に顧客の支持を増やしていける。初年度は苦戦しても、次年度以降は急上昇が期待できるのではないか。6月4日に開店するダイヤモンドシティ“ルクル”(福岡糟屋)の2000坪級“フラクサス”に注目したい。

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