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商業界オンライン 小島健輔からの直言
『チェーンストアを終わらせる「ショールームストア革命」の衝撃』 (2018年02月15日付)
小島健輔 (株)小島ファッションマーケティング代表取締役

 ECが小売りの主流となるといっても、店舗販売が駆逐されるとは限らない。むしろECと店舗が互いの機能を補完して利便を高めるという“ES(EC&STORE)一体化”が問われているのではないか。カニバリ覚悟でECを急拡大して日米で大量閉店を招いているアパレル・服飾分野などオムニチャネルを根本から錯覚して自滅のわなにはまっている。

 “ES一体化”とは店舗をお試し・受け渡しのオムニチャネル利便拠点として活用するのみならず、ECのプラットフォーム(ECフロント/ID決済/EC物流)を活用して店舗販売を「販物分離」し、物理的制約から解き放して品揃えを無限に拡張し、マテハン労働と店舗物流を消滅させ、顧客の購買労働を最少化して利便を最大化するニューリテイルへの最終革命だ。ならばECが消費の主役となっても店舗が消えることはない。オムニチャネルなES一体業態の姿は3段階の「ショールームストア」に他ならない。

[Step1]品揃え拡張型ショールームストア

 ECのデジタルカタログで店舗の品揃えを拡張し、スペック情報やスタイリング提案、購入者レビューや在庫検索で購買選択を支援し、宅配や店舗受け取りで利便を高めるものだ。GUの「ファッションデジタルストア」はECフロント活用の販促的購買選択支援に留まるが、青山商事の「デジタル・ラボ」は商業施設の小型店の品揃えをロードサイドの大型店並みに拡張するのみならず、宅配やテザリングを活用して店舗物流を最小限に抑えるという極めて現実的なメリットが注目される。

 品揃え拡張や顧客利便だけでなく、店舗の在庫や家賃、店舗への物流費や店内マテハンなど運営コストの圧縮効果も大きく、自社ECを手掛けている店舗小売業なら容易に実現できて効果が大きいビジネスモデルだ。

[Step2]サンプル陳列型ショールームストア

 全店統一のサンプル陳列に徹して在庫を持たず、お試し・受け取りのショールームストアとするもので、ECの商品紹介や購入者レビューによる購買選択支援、宅配も店受け取りも選べるのは「品揃え拡張型」と同様だが、物流は原則EC軸(店受け取りもEC物流)で店舗物流によるテザリングは行わない。米国ではウォルマートが買収したメンズカジュアルの「BONOBOS」や眼鏡の「ワービーパーカー」、国内では工場ブランド衣料の「ファクトリエ」などEC事業者のショールームストアがこのタイプで店舗小売業からの進化は限られるが、丸井のオリジナル靴業態「フィットスタジオ」はサンプル陳列に徹して宅配と店受け取りに限定した(店頭サンプル持ち帰り不可)典型的なショールームストアだ。

 シーズンを通して販売する商品ならサンプル搬入を除いて店舗物流も店内ストックも店内マテハン作業もほぼゼロにできる画期的なビジネスモデルだが、ファストファッションなど品揃えが流動的で販売期間が短い商品には向かない。

[Step3]デジタルカタログ型ショールームストア

 ECのデジタルカタログだけで一切のサンプルを置かないデジタル・ショールームストアで、商品選択から購入者レビュー、在庫検索、発注、受取方法指定まで全てECで完結し、宅配または指定店舗で受け取るというもの。英国の「Argos」など1970年代のカタログショールームからデジタル進化したビジネスモデルだが、EC事業者が手掛けてもおかしくない。「Argos」ではサンプルは置かないが主力商品の販売在庫をバックヤードにストックしており、在庫が在れば持ち帰ることもできる。ECでの決済に加えて店頭受け取り時支払いも選べるが、決済済みの方が簡単迅速に受け取れる。

 ショールームストアは本来、無在庫流通という“超流通革命”を狙ったもので「Argos」のように各店舗に販売在庫を抱えては抜本的効率化は望めない。カタログショールームの残滓を引きずっての進化であり、新たに進出する事業者は「サンプル陳列型」か「デジタルカタログ型」に割り切って販売在庫を抱えないビジネスモデルを構築すべきだ。

 ES一体の無在庫流通は、“販物一体流通”ゆえ、膨大なコストと労働とロスの負担、複雑で非効率なロジスティクスと組織運営を強いてきた前世紀のチェーンストア流通を終焉させる“超流通革命”なのだと会得してほしい。20世紀が終わってもう20年近くが過ぎようとしているのだ。

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