小島健輔の最新論文

販売革新2007年5月号掲載
GMS衣料部門の再建策を探る
後編
『GMS衣料部門の生き残り条件』
(株)小島ファッションマーケティング代表取締役 小島健輔

 前編ではGMS核不要論の高まりと核抜きの必然性、GMS衣料部門のバリューの低さとバラエティの喪失を指摘した。では、どうしたらGMS衣料部門は生き残る事が出来るのだろうか。SSMに匹敵する生存必然性を得るには、SSMと離れて独自に生存できるソフトライン業態を確立する以外に道はない。それはPDSへの抜本的変態か編集型衣料服飾総合店への進化と考えられる。

PDSに変態してSCに残る

 独立したソフトライン業態たるGMS衣料部門が大型SCで生き残るには、モールのアパレル専門店に匹敵する販売効率が必須条件。それには個々のMDが彼等に遜色ない魅力を持ち、かつ彼等の集積に匹敵するバラエティと客層の巾がある事が求められる。
 個々のMDの魅力を訴求するには薄味で手前勝手なPBでは力不足で、メジャーマーケットで人気が証明されたNBの企画ソフトで組まれたNPBを中核とする必要が在る。バラエティを訴求するには、強力なNPB売場を中核に、ベンダー企画カセットの編集売場や魅力的なNBショップ群で補完する必要が在る。幅広い客層を確実にカバーするには、各世代のライフスタイルや好みのテイストを熟慮し、世代別/テイスト別に精密なブロック構成を組まなければならない。この3点を満たすべく、NPBブロックとベンダー企画カセットの編集ブロック、NBのコーナー編集ブロックからなる世代別/テイスト別ブロック群、NBショップ群で緻密に構成したソフトライン大型店をPDS(PROMOTIONAL DEPARTMENTSTORE)と定義したい。
 米国では一応PDSに脱皮したと言われる「JCペニー」も、日本の大型SC市場ではMDが薄味で構成が単純過ぎ、アパレル専門店並みの販売効率は遠く望めない。日本の大型SC市場で成立するには、「ターゲット」のようなNPB仕掛けから「ノードストロム」のような編集売場まで複合した密度の高い『多重調達手法ミックスのソフトライン大型店』が求められるのではないか。それなら、個別売場の魅力と総合的なバラエティが両立し、アパレル専門店に遜色ない販売効率も望めるはずだ。
 モールの専門店から巨大化した「フラクサス」を近い姿と考える業界人がいるかも知れないが、それは違う。「フラクサス」は自社PBをショップ単位に複合編集してセレクト雑貨などを加えたもので、自社の百貨店NBは部分的な展開に留まる。見た目の演出力はともかく、販売効率はGMS衣料部門並みに低いのが実情だ。自社の百貨店NBを総投入したとしてもモール市場では価格帯が高過ぎ、販売効率は望むべくもないだろう。
 強力な集客力と販売効率を得るには、人気が実証されたNBの企画ソフトを活かしたお手頃価格のNPB群が不可欠で、「フラクサス」はその点で決定的に外している。数百坪のストアなら自社PB複合展開でも効率が出せるが、超千坪級の大型店では強力なNPBのバラエティを中核としない限り販売効率は望めないのではないか。キメ細かくニーズを拾って販売効率を高めるには、ベンダー企画カセットの編集売場やNBショップも欠かせない。限られた調達手法による粗っぽい構成では、高密度/高販売効率の大型店は望むべくもないのだ。

PDSとして生き残る調達と運用

 PDSとして生き残る第一条件は、多様な調達手法を活用した緻密な売場構成だ。
 NPB開発においてはNB企画側と仕様開発力のあるOEMアパレルをチームに組み、月度にMDを組んで短射程(8〜12週程度)調達し2週サイクルで投入する。シーズンや季節単位の企画供与では鮮度と回転が望めないから、直近の販売動向を反映した短サイクルMDが求められる。
 各NPBをコーナーに組んでターゲット別のブロックを構成し、同ターゲットのベンダー企画カセット編集ブロック、NBのコーナー編集ブロックと隣接して展開する。各NPBはVPやフォーカルウォールでルックを打ち出すが平場展開に留め、販売動向に即して各ブランドのラック数を可変運用する。
 消化仕入れのNBはショップ展開するパワーブランドとコーナー編集するブランド群に分け、後者はターゲット毎のNPBブロックに隣接して展開し、NPB売場同様に可変運用する。ベンダー企画カセット編集ブロックではカセット単位の編集を基本とするが、シーズン後半ではその解体再編集も行って消化を促進する。
 第二の条件は、緻密な店間移動と何がなんでも売り切って行く在庫編集運用だ。店間移動ではエリア内のルーチンな移動プロセスが要で、それを前提とした店舗布陣が求められる(先行店舗/通常店舗/期末集約店舗)。エリア内移動の後はエリア間移動による最終消化が必要で、再配分の物流体制が求められる。
 在庫編集運用は買取商品を対象としたもので、単品カセット編集に始まってルック編集/テイスト編集/カラー編集、それらの統合的運用たるシーズン強制シフトまで、多様な状況対応が消化を確実に促進する。まったくの無運用とフル運用を比較すれば、プロパー消化率で15ポイント以上の差が付くのではないか。
 本部指示もともかく現場の運用技術が不可欠で、在庫整理要員然としたGMS衣料売場のそれとは次元を画した運営体制が求められる。専門店に近いスキルと人員配置、運営人件費、それに見合った販売効率と消化率というバランスを想定すべきであろう。

編集型衣料服飾総合店への進化

 PDSへの抜本変態は非現実的という企業には、巨大「しまむら」あるいは「コールズ」的な編集型衣料服飾総合店への進化という選択もある。モール型SCでの展開は難しくなるが、中小型SCやフリースタンディングなら出店チャンスも多い。
 調達手法ミックスはベンダー企画カセットの編集平場を中核に買取NBのミニコーナー編集平場が加わる程度と、PDSより格段に単純。NPBの必然性は薄いが、NBのスローな企画サイクルを多頻度投入で補完するにはお手軽OEM調達のPBが不可欠で、NBのミニコーナー編集平場に組み込む展開が考えられる。「コールズ」的に絞り込んだNBをフォーカスする手法(実質的なNPB)もインパクトがあるのではないか。
 調達手法ミックスが単純なだけにベンダー企画カセットの編集平場が重要で、ターゲット毎にブロックを分けて緻密なカバーリングを組み、旬のルック/アイテムをカセット単位にテイスト編集して短サイクルに運用する体制が求められる。
 量販アパレルや企画提案型OEMアパレルと組んだカセットは8週程度の短射程で月度あるいは2週サイクルに調達し、ルック/アイテムを重点的に絞り込んで売れ筋要件を次サイクルの調達に反映していく。最近の「しまむら」や「ポイント」に近い調達手法で、調達ロットと坪在庫をミニマムに押さえて高鮮度に回す事が肝要だ。
 PDSと較べれば調達手法ミックスや運用が単純なだけに人員の配置やスキル、運営コストも低く抑えられるが、販売効率もひと回りは低くなる。「しまむら」的に低販売効率/低コストがバランスする事業構造で、多店舗運営/ディストリビューションの精度が問われる事になる。

組織体質再生が条件

 どちらを選択するにせよ、開発・調達のスピードと現場の情況対応運用力が不可欠で、これまでのGMS衣料部門とは組織体質が大きく異なる。本部が各店舗を指揮するというより各店舗の運営を本部がサポートするという逆ピラミッド型の組織体質に変えていく必要があろう。すべてが売場を起点に回って行く業務プロセスに組み直し、そのプロセスとスピードのマネジメントが利益を生んでいくビジネスモデルを構築しない限り、PDSも編集型衣料服飾総合店も絵に描いた餅になってしまう。北朝鮮型の統制組織ではマーケットに敏感な組織体質は築きようがないのだ。

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