小島健輔の最新論文

WWD 小島健輔リポート
『三陽商会とオンワードはなぜ勝ち組から転落したのか』
(2022年04月25日付)
小島健輔 (株)小島ファッションマーケティング代表取締役

 シェイクスピア作品やギリシャ詩人など世に「3大悲劇」「4大悲劇」と言われるものは枚挙にいとまがないが、我が国平成令和の大手アパレル「3大悲劇」とは20年5月に破綻したレナウン、14年SSでバーバリーを失って以降、売上が三分の一に激減した三陽商会、欧州ブランド事業や百貨店売場の撤収にコロナ禍が加わって2期で1027億円も純資産を失ったオンワードHDと言うべきだろう。週刊誌にまで散々暴かれたレナウンの転落劇はともかく、百貨店アパレルの勝ち組だったはずの三陽商会とオンワードHDの転落は表に出た要因だけでは説明がつかない。成功劇は語られることが多いが、転落劇に学ぶことも大切ではないか。

 

■勝ち組からの転落劇(売上は旧会計基準)

 三陽商会の売上はバーバリーを失う前の14年12月期には1110億円と1000億円を超え、ピークの07年12月期には1431億円に達していた。それが15年SS期でバーバリーを失って以降、釣瓶落としに急減してコロナ前[20年2月期※1]には583億円まで落ち込み、コロナ禍に直撃された21年2月期には379億円まで沈み込んだ。ピークの07年からは実に3掛け以下(26.5%)に落ち込み、22年2月期も386億円(同27.0%)とほとんど浮上していない。オンワードHDの売上は欧州事業の大半を撤退する前の20年2月期には2482億円もあったが、コロナ禍を経て直近22年2月期は1609億5000万円まで落ち込み、07年2月期の3187億円からは半分近く(※2実質50.5%)に減少している。

  企業経営の最終評価たる純資産(正確には株主資産だが)の減少はオンワードの方が劇的であり、19年2月期の1622億1000万円から21年2月期には595億1000万円と、実に2期で1027億円も減少。ピークの07年2月期の2251億4000万円からは1656億3000万円も減少して3掛け以下(26.4%)に落ち込んでいる。直近22年2月期は固定資産売却益や関係会社株式売却益を乗せて772億6000万円まで戻しているが、営業利益は10億8000万円の赤字と業績は浮上しておらず、含み資産の益出しによる。

 三陽商会の純資産は15年12月期の651億5000万円からバーバリーを失って21年2月期は334億6000万円と半分強(51.4%)に激減し、ピークだった07年12月期の665億6000万円からはほぼ半分(50.3%)に落ち込んだが、三掛け以下に落ち込んだオンワードHDほど劇的ではなかった。同じ減損でも、守りで傷ついた三陽商会より攻めで傷ついたオンワードHDの方が傷が深かった。

※1)三陽商会は18年までの12月決算から19年は20年2月末までの14ヶ月変則決算とし、20年(21年2月期)以降は2月期決算に移行したが、23年2月期から新会計基準に移行するに伴い、決算説明資料では22年2月期、21年2月期のPLを新会計基準で現すとともに、20年2月期(12ヶ月間)も仮定して同様に表している。

※2)オンワードHDは22年2月期から新会計基準に移行するに伴い、21年2月期PLの一部を新会計基準で表しているが(DATA BOOK)、売上表記は両社とも旧会計基準で統一した。

参考) 2021年4月から始まる会計年度より上場企業や大会社では新しく設けられた新収益認識基準(小売売上計上)が強制適用になるに伴い、これまで卸売上計上していたオンワードHDや三陽商会は百貨店の手数料分などが売上と粗利益、販管費に加わるが、売上原価と営業利益は変わらない。これまでも小売売上計上だったワールドより粗利益率が数%〜10%程度、低目に出ていたが、これで同じ基準で比較できるようになった。

 

■株価に見る両社の評価

 両社の経営状態は悪化してしまったが、深刻度の受け止め方や将来の回復期待は評価する視点で異なる。両社とも東証上場企業だから、まずは株価の推移を見ておこう。

 三陽商会の直近株価(4月20日終値)は861円、時価総額は109億円。年初来の高値は1月5日の908円、安値は3月8日の583円で、以降は急回復している。オンワードHDの直近(4月20日終値)株価は246円、時価総額は388億円。株価は三陽商会の三掛けに届かないが、20年2月期まで継続した自社株取得が途切れていることも影響しているのだろう。年初来の高値は1月14日の320円、安値は3月9日の223円で、移動平均は下降気味だ。

三陽商会の史上最高値は89年10月に付けた21,900円(06年1月にも13,700円)、同最安値は20年10月20日に付けた464円、オンワードHDの史上最高値は89年12月に付けた2,490円(06年1月にも2,450円)、同最安値は20年11月30日に付けた185円。ともにバブルピークに最高値を付け、コロナ禍20年の10月、11月に最安値を付けている。ピークから見れば、三陽商会の株価は4%弱、オンワードHDの株価は10%弱で、長期の投資家は報われなかったが、ボラティリティの大きさは投機的投資家には好まれたかも知れない。

4月20日の終値でPER(株価純利益倍率)が三陽商会は11.6倍、オンワードHDは19.6倍、PBR(株価純資産倍率)も三陽商会は0.31倍、オンワードHDは0.50倍だから、指標的には三陽商会の方が割安で再評価余地が大きいが、オンワードHDの方が経営陣への期待値が高いということでもある。

 

■最新決算に見る事業財務状況(新会計基準で統一)

決算数値から見る事業運営上の財務状況は、A)棚資産回転日数とB)売上債権回転日数を加えてC)買掛債務回転日数を差し引いたCCC(Cash Conversion Cycle)を期間日数で割って期間売上を掛けた「必要運転資金」、運転資金の純資産倍率、借入金の純資産倍率、商品在庫運用効率は粗利益率に棚資産回転数を掛けた「交叉比率」で見る。三陽商会もオンワードHDもCCCはプラスで運転資金を要するが、INDITEXやワールドは業績に拘らずCCCがマイナスになるよう運用しており、「回転差資金」を享受している。

最新決算における三陽商会の棚資産回転は前期から3.1日、前々期からは16.8日短縮されても149.8日と極めてスローで、在庫回転自体の効率化は残念ながら、まだまだ途上だ。交叉比率は145.0と前期から28.1P、前々期からも14.7P改善されているが絶対水準が低過ぎる。自社工場生産体制があるのに稼働率重視で計画生産を優先し、見込み生産・調達で積み上げた在庫を売り減らしていく特攻体質は変わっておらず、国内生産ラインからの無在庫オンデマンドサプライには極めて遠い。

7.0日も短縮されて19.6日となった売上債権回転を加え、15.3日も延ばした買掛債務回転を差し引いたCCCは93.7日と前期から25.4日も短縮された。それに伴って必要運転資金は127億4000万円と前期から22億3000万円、前々期からは96億4000万円も圧縮されたから、マネジメント力は格段に高まっている。

運転資金の純資産倍率も0.38と前期の0.45、前々期の0.58から大きく改善された。借入金の純資産倍率は0.20と前期の0.18より僅かに悪化したが極めて健全な水準にあり、含み益を考慮せずとも財務上のリスクは微塵も見られない。そんな余裕が三陽商会の再構築を遅らせた最大要因だと指摘すべきかも知れない。

最新決算におけるオンワードHDの棚資産回転は121.2日と三陽商会よりは速いが、前期からほとんど変わっておらず、百貨店販路の撤収と「オンワード・クローゼットストア」「クリック&トライ」などOMO戦略が在庫効率改善に結びついていない。交叉比率は粗利益率の大幅な改善で156.7と前期から24.7P改善されたが、絶対水準は極めて低い。

5.4日短縮されて30.8日となった売上債権回転を加え、前期から4.8日延ばした買掛債務回転を差し引いたCCCは69.7日と前期から10.2日も短縮された。それに伴って必要運転資金は321億5000万円と前期から81億3000万円も圧縮されている。運転資金の純資産倍率も0.42と、前期の0.68から大きく改善されて健全水準に戻った。借入金の純資産倍率も0.46と、危機的に悪化した前期の1.31から大きく改善され、前々期の0.71より健全水準に近づいた※3。

※3)オンワードHDは前期までしか新会計基準に基づくPLを開示しておらず、前々期からの比較はできなかった。

 

■業績悪化の真因は何だったのか

 両社ともまだレナウンのような危険水域には遠いが、業績の急激な悪化は同社と大差ない。百貨店の凋落やコロナ禍といった外部要因、バーバリー喪失や欧州事業の挫折など戦略的奇禍とは別に、それを回避できなかった、押し返せなかった内部要因が指摘される。

 外部要因としては百貨店の凋落が大きいが、両社ともリーマン前までは百貨店衣料品売上が減少傾向にあっても自社の売上は増加しており、オンワードの売上ピークは06年(07年2月期)、三陽商会のピークは07年(07年12月期)だった。レナウンやイトキンなど多くのライバルが売上を落とし百貨店売場を縮小する中、むしろ両社とも残存者利潤を謳歌していた。

 そんな状況が一変したのが08年のリーマンショックで、百貨店の売上が底割れし、両者の売上も急減している。百貨店衣料品売上は東日本大震災の11年を底に一時持ち直したが、14年の消費増税や高給与所得層(資産所得層ではない中間層)への増税が重なって再び減少が続き、19年10月の消費税再増税で大打撃を受けたのも束の間、コロナ禍が襲って売上が劇的に落ち込んだ。両社の売上もリーマン以降は百貨店衣料品売上にほぼスライドして落ち込んで行った。

 営業業績の結果としての純資産は売上に遅行するはずだが、両社ともコロナ禍による20年の売上の落ち込みに先行して純資産は19年に落ち込んでいる。すなわち、両者の純資産の急減はコロナ禍以前の戦略的蹉跌によるものだ。

 オンワードのそれは1)欧州ブランド事業の挫折と撤収、2)百貨店事業を見切っての撤収、によるもので、前者はラグジュアリービジネスのマネジメントスキル欠如、後者は決断の遅れが指摘される。百貨店事業撤収は以前にも部分的に行われていたため1027億円の純資産減少に占める割合は半分弱で、過半は欧州ブランド事業に関連するものと推計される。

 三陽商会のそれは1)バーバリー事業喪失、2)バーバリー事業に代わる新規事業の失敗、によるもので、前者は十分な時間があったのに根拠なき楽観で対策が遅れたこと、後者は数々の判断ミスと経営管理スキルの低さが指摘される。同社は不動産や投資有価証券など膨大な含み資産を抱えており、その益出しが主なものだけでも160億円を超えているから純資産減少の要因を仕分け難いが、バーバリー喪失による直接的損失が4割、バーバリー事業に代わる新規事業の失敗や構造改革費用(早期退職)によるものが6割だったと推計される。

 

■真の敗因は組織体質に潜んでいた

 数字に現れる具体的な要因はともかく、それをもたらした判断ミスや決断の遅れはどうして生じたのだろうか。90年代から両社に付かず離れずの外野から見て来た私には、真の敗因は経営層の組織体質にあったと思われる。

 オンワードは体育会系の男っぽい組織風土が営業力に貢献して来たが、反面で女性の活躍が難しかったり異論が通り難かったりと専制的な体質が色濃く、現実を見ない自信過剰な判断に流れる傾向が強かった。男社会の権力闘争の中では弱気な判断はリーダーシップを疑われるリスクが大きく、大胆な決断を選択せざるを得なかったと推察される。それが成算の疑わしい欧州ブランド事業への膨大な投資を許し、結果として巨額の損失をもたらした。反面、百貨店事業からの撤収に関しては早期から検討されていたにも拘らず(00年代初期から私は幾度も提言していた)、伊勢丹との資本関係もあって本音と建前の使い分けに流れて最終的な決断が遅れ、大規模撤収が欧州事業撤収と重なって巨額の損失を計上する結果(20年2月期)となった。

 以前と比べれば財務的余裕が限られてきたにも拘らず組織体質は変わらず、自信過剰な判断と大胆な事業行動が継続されているが、その結果が吉と出るか凶と出るかはもはや私にも読めない。

 

三陽商会はオンワードとは逆に女性的とも言える公家風な組織風土が強く、女性が活躍したり紳士的な行動が評価される反面、営業力や決断力が欠けていた。現実を見ないのはオンワードと大差ないが、オンワードが力を背景とした武闘派的自信過剰によるものであったのに対し、三陽商会は貴族的楽観主義(資産の裏付けと紳士待遇期待)によるものであった。それゆえ経営判断が曖昧になって決断が遅れる傾向があった。バーバリーとの契約が09年の更新時に15年(それまでは20年)に短縮された段階でリスクは読めたはずだが、裏付けのない楽観期待に流れて行動が遅れたことが悔やまれる。

知名度も実績も桁違いのマッキントッシュにバーバリーの代役を期待し、実績の乏しい若いクリエーターにブルーレーベル/ブラックレーベルの再構築を期待して大枚を投じたことも、貴族的楽観主義ゆえの愚行と指摘されても致し方あるまい。そんな貴族的楽観主義は追い詰められた今となっても、ほとんど変わっておらず、失策を繰り返すほどに三井物産への依頼心が高まり、他人任せが強まっているように見える。

貴族的経営陣は戦略の選択も現場の評価も見誤った。ラグジュアリーシフトの鍵を握っていた自社工場へのDX投資が遅れ、稼働率を優先した計画生産に流れてオンデマンドサプライから遠ざかり、ライセンスブランド期待に流れて自社商品企画や生産現場を軽視したツケは早期退職による人財流失を招いた。膨大な損失を垂れ流しても未だ資産は大きく破綻には遠いが、内部から再建する人財は既に枯渇している。三井物産の手に負えないようなら、ラグジュアリー資本による再建を期待したい。

論文バックナンバーリスト