小島健輔の最新論文

販売革新2007年1月号掲載
『量販店衣料部門の抱える三つの課題・・・・ここに格差の要因がある』
(株)小島ファッションマーケティング代表取締役 小島健輔

 昨春来のイオンスタイルストアとIYのPB戦略は衣料部門総体の活性化には繋がったものの、鳴り物入りでスタートしたPB群そのものは期待ほどの成果を出せず、早くもNBインショップ拡充に走っている。両者のPB戦略に限らず量販店衣料部門の永年の試行錯誤を振り返って見ると、真の活性化には三つの課題を克服しなければならない事が指摘される。一つは大型店としての品揃えの幅広さと個別競争力の両立、一つは鮮度とバリューを両立させる開発・調達、一つは予定のMD展開を強制実現していく在庫運用体制に他ならない。
 一つ目は量販店衣料部門独自の課題だが残り二つはモールの専門店との格差が大きく、大型SCでモールの専門店と張り合って売上を確保して行くには避けて通れない課題と言えよう。

品揃えの幅広さと個別競争力の両立

 大型店、とりわけ大型SCの核店舗として幅広い顧客を取り込むには品揃えの幅広さが不可欠。それには1)ベンダータイアップ企画調達の平場、2)ベンダーブランドのコーナーミックス、3)NBのインショップ、などを適確に組み合わせて様々な顧客が好む商品を揃える必要がある。客層別に好みのテイストや仕上げ面、求めるバリューと許容出来る価格帯がデリケートに異なるからだ。しかし、そのいずれも個々のユニット/ブランドを取り上げればライバル店舗と大差なく、値入れも限られるのが欠点だ。。
 その壁を超えるものとして期待されたのが自社開発のPB群だが、差別化と高値入れは狙えるものの、拡大し過ぎれば前述の三つを圧迫して品揃えの幅広さを損なってしまう。イオンスタイルストアもIY衣料部門もこの弊害が露骨に出ていた。その反省もあって、NBインショップやベンダーブランドのコーナーミックスを再拡大する方向に動いているのではないか。。
 1)ベンダータイアップ企画調達の平場や2)ベンダーブランドのコーナーミックスは80年代から見られる古典的手法だが、選択と組み合わせさえ上手ければ今日でも十分に競争力はある。最近の蘇ったサティやイズミを見ていると、PB売場が肥大化したイオンスタイルストアやIYより余程、バラエティ感があって買いでがある。差別化と高値入れのPBも確かに魅力だが、顧客に対する最適な品揃えを求めれば、四つの調達手法を柔軟に組み合わせるバランス感覚が求められるのではないか。。
 モールの専門店群との競合を考えても、アパーポピュラーのベーシックPBショップ、アパーポピュラー〜ロワーモデレートのベンダータイアップ企画調達平場、ロワーモデレートのベンダーブランド・コーナーミックス、ロワーモデレートの差別化PBショップ、アパーモデレートのNBインショップがバランスよく構成されるべきであろう。アパーモデレートの差別化PBショップも一部で開発されているが、モールの同クラス専門店に匹敵するブランド力/商品力/運営力がないと価格が通らず、名の通ったNPBでないと離陸は困難と思われる。

鮮度とバリューを両立させる開発・調達

 一般に、鮮度を訴求する短射程の調達手法ではロットが小さくなり、その分、コストが上がって値入れが薄くなるか価格競争力が弱くなる。反面、高回転・高消化率で値入れの目減りも少なく、高い交叉比率と速いキャッシュフローが実現される事が多い。現実に、多くのターミナル立地SPAチェーンがこの方法で高い収益を手に入れている。ターミナルの「セシルマクビー」や109系SPAブランド、ターミナルから郊外SCまで多業態を展開するポイントなどはその好例だ。量販店でもヤングカジュアルの事業部や子会社では近似した鮮度追求型調達手法を採るケースが見られる。鮮度がバリューを左右するカジュアルマーケットでは定石的手法ではないか。
 逆に、コストを追求する長射程の調達手法ではロットが大きくなり、その分、コストが下がって値入れも厚くなり価格競争力が高まる。反面、低回転・低消化率になりがちで値入れの目減りも大きく、交叉比率は意外に低くキャッシュフローも遅くなる。この手法で突出したバリューを実現すれば「ユニクロ」のように独走体制を確立できるが、低回転・低消化率で値入れを食い潰せばバリューも維持できず、競争から脱落してしまう。
 企画決定から店頭までを射程距離(仕様開発期間/サンプル修正期間を含む)とすれば、8週までを短射程、12週までを中射程、それ以上を長射程と分けられる。量販店衣料部門の調達手法はPBに限らずベンダータイアップ企画調達もコストを追求するゆえに長射程気味で、鮮度と回転は望み難いのが実情だ。カジュアルなSPAチェーンでは109系小規模チェーンの2週からナショナルチェーンの8週まで巾はあるものの皆、短射程で鮮度を追求している。ドレスアイテム主軸SPAブランドの多くは8週から12週射程で、鮮度とともに完成度も追求している。
 量販店衣料部門の販売ロットは大手カジュアルチェーンと大差ないはずで、短サイクル中小ロット調達に徹すれば量販店でも鮮度と高回転・高消化率を望めるはずだ。それはベンダータイアップ企画調達でもOEM調達でも同様だと思うのだが。
 調達の射程距離短縮は政策意志の問題で、値入れとロットさえ圧縮すれば量販店でも実現可能なはず。それを妨げているのは「ユニクロ」の呪縛と次に指摘する在庫運用体制の欠落なのではないか。

MD展開を強制実現していく在庫運用体制

 どのような調達手法を活用したとしても、予定通りに店頭在庫が回転していかないとMD展開が詰まって仕掛かり在庫が渋滞し、消化率・回転率は悪化してしまう。高鮮度・高回転を狙って短射程調達を仕掛けても、在庫が回転していかなければ目論みは崩れてしまう。店頭在庫が予定通り回転していくよう強制的に在庫運用する体制がないと、マーチャンダイジングは完結しないのだ。
 在庫運用体制は大きく1)再編集運用、2)店舗間/後方との移動、3)マークダウンの三つから成る。三者は連動したもので、店舗間/後方との移動を行った上で再編集し、必要ならマークダウンを行うという手順を取る。この時、重要なのがエリア毎の店舗布陣で、SPAチェーンの多くはエリア毎に先行店/標準店/処分店といったように販売ピークの異なる店舗を組み合わせ、計画的に店間移動集約を行った上でマークダウンしている。
 ちなみにSPA企業のアンケートによれば、店頭/店舗ストック/物流センターの何処に在庫を置いてもトータル在庫の回転には大差なく、ほとんどの業態が6回転前後に留まっている。目的は店頭在庫の計画通りの回転であり、そのために後方ストックが在るというのが現実なのだ。この壁を超えるには109的自転車操業か生産ラインからの工業的QR(トヨタやデル、インディテックスの方式)しかない。
 再編集運用は量販店の場合、大きく1)カセット統合/再編とバラ残処理、2)アイテム訴求/ルック訴求の再編、3)シーズン強制シフト、などから成る。専門店やブランドビジネスでは、これに加えてテイスト/カラーのグルーピング再編、MD構造再編、カラーストーリー再編などのブランディングにも関わる技術が必要だが、量販店の場合は前述した3項をマスターすれば在庫回転目的は達成されるのではないか。
 現在、再編集技術水準がもっとも高いのはIYで1)と3)はお手本にしてもいいくらいだが、経営陣がこの現場技術のポテンシャルを正しく評価しているとは言い難い。イオンはこの技術体系を運営コストに見合わないものと軽視しているが、PB大作戦ではこの稚拙さが足を引っ張った事は否めない。
 再編集運用を中核とした在庫運用を実行すると売場の運営人件費や物流コストが多少嵩むが、それによって圧縮されるマークダウン・ロスとの比較の問題で、ロワーモデレート以上の価格帯なら確実にロス圧縮がコスト上昇を上回る。ゆえに、モールの専門店チェーンでは在庫運用を緻密に行う事がビジネスモデルの一角に定着しているのだ。アパーポピュラー以下の価格帯でも、しまむらに見るように仕組みの精度によっては十二分にペイしている。

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 マーチャンダイジングとは開発・調達とMD展開・在庫運用が一貫して回っていくもので、その回転がビジネスモデルとなる。どちらかだけを仕掛けてもビジネスは回らないのだ。こんな当たり前の事が量販店衣料部門では十分に理解されておらず、モールの専門店チェーンとの効率格差を生んでいる。そこに問題の本質があるのではないか。

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