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WWD 小島健輔リポート
『業績下方修正のユナイテッドアローズ この経営陣に回復は期待できるのか』
(2022年02月15日付)
小島健輔 (株)小島ファッションマーケティング代表取締役

 ユナイテッドアローズの業績回復が遅れている。2月4日には22年3月期第3四半期決算の発表と同時に通期決算業績の下方修正を発表したが、『ようやく底を打ったので、これから回復に取り組む』という経営陣のズレ過ぎた危機認識にも効果的な打開策の無さにも失望が広がった。果たして、この経営陣に業績の浮揚を期待して良いのだろうか。

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■「底打ち」しても回復は遠い

 第3四半期(10〜12月)こそ売上が前々期の93.1%、営業利益は同116.9%と回復したが、第3四半期累計(4〜12月)では売上は前々期の73.0%、営業利益は同20.7%に留まり、オミクロン株による第6波に直撃された第4四半期に期待すべくもなく、22年3月期の通期業績予想を下方修正するに至った。

 売上は74億円下げて1174億円と前期の96.5%、前々期の74.6%に、営業利益は6割下げて12億円に(前期は66億1300万円の赤字)、親会社株主帰属当期純利益はほぼ9分の1の2億円(前期は71億9700万円の損失)に大幅下方修正したが、売上の回復が遅れたことが最大の要因だ。21年通年の商業動態統計「衣服・身の回り品小売業」売上が19年比78.3、全国百貨店衣料品が同69.3だったのと大差なく、しまむらやワークマンが19年比でも大きく伸ばしているのと比べれば、無為無策のまま情況に押し流されたと酷評されても止むを得まい。

 第3四半期累計の粗利益率は51.1%と前年同期の46.9%から4.2P改善されコロナ前の水準に回復したが、販管費は49.0%と前年同期から1.7P改善されても20年3月期よりなお3.8P高く、営業利益率は前年同期の-3.8Pからは浮上したものの2.1%にとどまった。下方修正された22年3月期予想では粗利益率は49.7%と20年3月期に1.1P届かず、販管費率も48.6%と同3.4Pも高く、営業利益率は1.0%にとどまる。

コロナ前の20年3月期でさえ業績が陰って高コスト低収益に陥っていたのだから、それと比べても回復が遠いという状況は「底打ち」と言うより「底這い」に近い。10%台の営業利益率を稼いでいた13年3月期、14年3月期頃の水準を回復してこそ真に「回復」したと評価されるのではないのか。

 

■抜本改善が見えない商品財務

 ユナイテッドアローズは見込み発注の在庫を大量に抱えて売り減らしていく古典的なセレクトショップの商品財務構造を引き摺っており、多店化(同時に駅ビル依存の高コスト化でもあった)と共にオリジナル比率を高めてSPA化していっても、その体質はほとんど変わらなかった。好調な期でも棚資産回転日数が100日を切ることはなく、在庫回転は高収益だった13年3月期でも3.15回転、14年3月期でも3.17回転にとどまり、コロナ禍の21年3月期は2.79回転まで落ち込み、22年3月期はさらに減速して2.7回転を割り込むと推計される。

 比率は落ちたとは言えセレクト調達品も3〜4割を占めるから、ブランドビジネスやキャラクターSPAのように粗利益率が60%台に乗ることもなく、15年3月期以降は消化歩留まりが低下して50%強の水準に落ち込み、コロナ禍の21年3月期は45.2%と50%を大きく割った。交差比率は13年3月期でも171.4に過ぎず、20年3月期は148.8と150を割り込み、21年3月期は126.1まで落ち込んだ。22年3月期も132程度までしか回復しないと推計されるから、高付加価値なマーチャンダイジングには程遠い。

 マーチャンダイジングのキャッシュフローも遅々として、運転資金回転日数は好調期でも100日を超えて運転資金の負担が大きく、有料への切り替え点はこの辺りか?21年3月期第3四半期(4〜12月)では140日に迫って464億円強もの運転資金を要した。コロナ前の20年3月期第3四半期でも126.6日と長く、売上が大きかったゆえ548億円強も運転資金を要していた。その根本は棚資産回転のスローさで、10年3月期に150日を超えて以降、圧縮が図られ21年3月期は109日まで短縮されたが、22年3月期第3四半期は季節要因で151.3日(21年同期は143.4日、20年同期は155.5日)と長くなっている。

加えて、売上債権回転日数も館の売上金預かり制度が災いしてか20年3月期でも26.3日と大手チェーン(1〜2週間が多い)としては異例に長く、理由は不明だが21年3月期では37.0日に延び、22年3月期第3四半期では51.9日まで延びている(20年第3四半期は41.1日)。逆に買掛債務回転日数は10年3月期の68.9日から20年3月期は51.0日、21年3月期は43.1日と短縮されており、運転資金負担が大きくなっている。21年3月期第3四半期では51.3日、22年3月期第3四半期では62.2日と大きく延びているが、20年3月期第3四半期も70.0日と長かったから季節要因と推察される(それも問題だが)。

 状況に流されるばかりで商品財務のキャッシュフローをコントロールする経営意志を欠いているのではと疑いたくなるが、従来の取引関係を変えたくない(変えられない)という「慣性の法則」が働いているのかも知れない。それこそが最大の癌だと思う。

 

■収益構造の要は賃借料と人件費

 ユナイテッドアローズの収益を左右しているのが賃借料と人件費だが、人件費についてはセレクトチェーンに特有の事情が推察される。セレクトブランドに比べればオリジナルは手頃とは言えアパレルチェーンとしては高価格でドレスアイテムの比率が高いゆえ、従業員一人当たり売上はカジュアルチェーン(2000〜2400万円が大半)に比べて格段に高く、それが給与水準と収益力を担保して来た。 

一人当たり売上(単体)は14年3月期の3814.7万円から、近年の販売効率低下でコロナ前の20年3月期には3075.4万円と8掛けに落ちていたが、コロナで売上が激減した21年3月期には1967.7万円と半減し(14年の51.6%)、22年3月期も大きくは回復していないはずだ。14年3月期には15.4%だった売上対比の人件費率も20年3月期には15.9%まで上昇し、売上が激減した21年3月期には18.3%に跳ね上がり、22年3月期も17%強に着地すると見られる。3800万円という一人当たり売上が可能としていた給与水準の維持が困難になる中、雇用維持を優先して(単体正社員数は21年3月期も減らなかった)昇給や賞与が抑制され、販売現場では頑張っても報われないという鬱積感が広がっている。

コロナで加速したカジュアルシフトと低価格化に流れれば一人当たり売上は確実に下がっていくから、ますます給与水準の維持が難しくなっていく。かと言って中心顧客層の40台は住宅取得費や教育費に加えて介護保険料など社会負担が重く、現状商品単価の維持さえ苦しい。そこに押し寄せたのがコロナ禍からの回復局面で世界的に急進するコストインフレで、松崎社長は春物・秋物の2〜3割を10〜15%、冬物の一部は20%まで値上げすると発言しているが、売り手の事情を顧客に強いるのは難しく、相応の売上減少を招くと思われる。それが一人当たり売上の回復に水を差せば収益が一段と圧迫され、給与水準の維持もいよいよ危なくなる。

売上対比の賃借料率は12年3月期の12.3%が販売効率の低下とともにジリジリと上昇して20年3月期には14.3%に肥大し、コロナ禍の21年3月期は16.3%に跳ね上がった。22年3月期は16%強に着地すると見られるが、往時の12%台はもちろん14%台に戻すにも抜本的な再構築が必要だ。

販売効率が高かった時代の感覚を引きずって採算性の危うい出店を続けたことが大きいが、業態を分散させて家賃条件が高止まりし、人時運営効率も停滞したことが響いたと思われる。昨年4月5日掲載の小島健輔リポート「新経営陣はユナイテッドアローズを再建できるか」で提言したセレクト・デパートメントストアを実践していれば、賃借料率は12%台どころか10%台、人件費率も13%台が可能だったのではないか。ユナイテッドアローズの経営陣が躊躇している間にセレクト・デパートメントストアはベイクルーズが先行したが(21年11月のエスパル仙台、22年3月の名古屋パルコ、4月のららぽーと福岡)、ユナイテッドアローズはどうして動かなかったのだろうか。

 

■分配論の隘路と組織求心力の低下

 賃借料率の圧縮は大きな投資を伴う店舗資産の入れ替え統合を要するから先の課題とならざるを得ないが、人件費率の圧縮は多少の軋轢はあるにしても短期間に進めることが可能だ。一人当たり売上が低下して給与水準の維持も難しくなる中では、経営層、中間管理層、現場ワーカー層の分配論にならざるを得ず、慎重な配慮を欠けば離反者が広がって求心力が損なわれ、組織の遂行力が大きく低下しかねない。

 ユナイテッドアローズは業績が右肩上がりだった07年8月に長期アルバイト1200人を正社員に転換して以降、正社員中心の運営体制を堅持しており、コロナ禍の21年3月期末も単体従業者数は4214人と20年3月期末から32人増えている。但しアルバイトは470人から76人に激減しているから、正社員への移行が含まれるとしても8割強のカットだったことは否めない。連結従業者数は20年3月期末の4848人が21年3月期末では4641人と207人減少しているが自然減の範囲で、正社員の雇用はコロナ下も維持された。

 雇用が維持された一方で時間外勤務が抑制されたり賞与が切り下げられたりは止むを得ず、コロナ前から不満の多かった昇給の抑制は一段と厳しくなったと推察される。それが経営層、中間管理層、現場ワーカー層に共通するものなら止むを得ないと理解を得られるだろうが、20年8月の取締役6名に対する3億2421万円5775円に続き、21年8月にも取締役2名と執行役員6名に対して1億5401万8536円が割り当てられた譲渡制限付き株式報酬は達成条件があるとは言え、一般社員の神経を逆撫でかねないもので、コロナ下では見送るべきだった。

 ユナイテッドアローズの歴史を振り返れば、上場時に持株で億万長者となった創業幹部と株式を持たなかった中堅幹部との間で微妙な軋轢が生じて求心力が損なわれた時期があったが、コロナ下で一般社員が忍耐を強いられる中、経営陣はそれ以上の忍耐を示さないと組織の求心力が損なわれてしまう。

 22年3月期業績予想の下方修正に伴い、今期業績に係る取締役賞与は全額不支給とし、4月以降に確定する今期業績次第では取締役の月額報酬の減額も検討するとしているが、それだけで良いとは思えない。コロナ下に於いてルルレモン社の役員と上級管理職が経済的困窮に直面する従業員を支援する「We Stand Together基金」、協力インストラクターを支援する「アンバサダー救済基金」に私財を拠出したことを思えば、業績回復への求心力に火を付ける義挙を是非とも見せて欲しいものだ。

 

■「7つの提言」を直視せよ

 ユナイテッドアローズの業績回復は小手先の改善ではもはや困難で、高コスト化して競争力を失ったビジネスモデルを抜本から再構築する必要がある。それには昨年4月5日掲載の「新経営陣はユナイテッドアローズを再建できるか」で指摘した「新経営陣への7つの提言」を全力で実行するしかない。にもかかわらず経営陣はこの一年間、従前事業構造のまま小手先の改善に終始し、22年3月期決算予想の大幅下方修正に追い込まれた。「改善」には注力したのだろうが捗々しい結果は得られず、「改革」は手付かずだったと総括されよう。経営陣は以下の「7つの提言」をもう一度、直視してほしい。

1)『店は客のためにある』を建前にせず、組織と株主でなく現場と顧客を直視せよ。

2)「セレクト・デパートメントストア」で賃料負担を半減せよ。

3)売上金直接収納でキャッシュフローを劇的に改善せよ。

4)大型化とデジタル化による店舗運営の効率化で人時生産性を向上させ給与水準を維持せよ。

5)C&C(店在庫引き当ての店渡し/店出荷)とテザリングで顧客利便と在庫効率を飛躍的に改善せよ。

6)エッセンシャルでサステナブルな(期末に叩き売らず継続する)MDとサプライを実現せよ。

7)生産プロセスに踏み込んだDXとVMIで実質無在庫サプライを実現せよ

斜字表記は新たに書き加えたり修正した部分。

 2)4)は肥大したコスト構造を抜本的にリセットする不可欠な「革命」、3)6)7)は商品財務とキャッシュフローを劇的に改善する決定打であり、5)は在庫効率と物流コスト、顧客利便を飛躍的に改善する。

見込み調達の在庫を抱えて売り減らす旧態な事業モデルを出られず、セレクト・デパートメントストアはベイクルーズに先行され、倉庫出荷の古典的OMOで良しとする経営陣の戦略感覚には疑問符を呈さざるを得ない。ましてや現場と顧客を直視しているかどうかとなると、業績回復を焦って経営都合が先行する嫌いも否めない。事業継続に黄信号が点く正念場に追い詰められたユナイテッドアローズ経営陣には「新創業」の覚悟が問われるのではないか。

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