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商業界オンライン 小島健輔からの直言
『小島健輔が指摘「値上げで露呈した宅配便とEC物流の構造的欠陥」』 (2019年06月26日付)
小島健輔 (株)小島ファッションマーケティング代表取締役

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 ヤマト運輸が口火を切った宅配料金の値上げラッシュに倉庫作業人件費の上昇も加わって物流コストが高騰し、ECはあっという間に儲からないビジネスに転落した感がある。もはや宅配便に依存しては収益が望めず、店舗小売業者が店舗を物流拠点とするC&Cに勝機を見いだす一方、ECプラットフォーマーは物流の抜本的再構築を迫られている。

ECは物流コストとC&Cに押しつぶされる

 17年10月にヤマト運輸が口火を切った宅配料金の値上げは11月に佐川急便、翌年4月に日本郵便が追従し、法人契約の改定も18年秋口までに一巡。これまで安価な大口法人向け包括料金に依存して急成長してきたECビジネスに冷水を浴びせた。

 個人や小口法人に対する宅配便の値上げ幅は15%程度だったが、これまでの値引き幅が大きかった大口法人向け包括料金は24〜46%も跳ね上がり、倉庫作業人件費の上昇や倉庫家賃の負担増も加わって物流コストが急騰。ECプラットフォーマーやEC物流サービス事業者は出品者からの手数料や業務委託費では逆ザヤになりかねない状況に追い込まれ、出品者に対する手数料の値上げや顧客に対する送料転嫁が玉突き式に広がった。

※詳しくは5月27日配信『小島健輔が指摘 ECが儲かる時代は終わった』を参照されたい

 このコスト転嫁が急成長を続けてきたECにブレーキをかけたのは間違いない。事実、19年に入って、顧客に送料転嫁したECプラットフォーマーの伸び率はジリジリと鈍化する傾向が見られる。

 さまざまな調査に共通するEC購入者の求める必須要件は、1)送料は無料、2)速く届けて、3)実物を試したい、の3点だが、一番必須条件の「送料は無料」を『タダで届くと思うんじゃねえよ!』と切り捨ててしまえばECの魅力は一気に削がれる。

 もとより、3)はZOZOSUITをはじめとするバーチャルな試みがことごとく挫折したようにITの手練手管を駆使しても店舗小売業のリアルに敵わず、2)も店舗小売業が注文者至近店舗の在庫を引き当てれば出荷拠点の限られるEC専業者が敵うわけがない。店舗小売業が店舗までB2B一括物流して店渡ししたり、店在庫を引き当ててローカル宅配便で店から出荷すれば、遠隔地からB2C宅配物流するEC事業者はコストでも速さでも利便でも店舗小売業に歯が立たない。

 これが店舗をオムニコマースの物流拠点とするC&C(クリック&コレクト)の脅威で、もとより宅配料金が法外に高かった欧米では急ピッチで進み、ウォルマートやターゲットがアマゾンを守勢に追いやる強烈な効果を発揮している。

露呈した宅配便の構造的欠陥

 わが国でも宅配料金の値上げが契機となってEC専業者と店舗小売業の攻守が逆転し始めたが、果たして宅配便の値上げは不可避だったのだろうか。

 値上げの理由としてトラック運転手や営業ドライバーの過重労働と採用逼迫による賃金上昇が挙げられていたが、それは現在の宅配物流システムを前提としたものであって、その非効率性が露呈したと見るべきだ。言い換えるなら、システムそのものを抜本から変えてしまえば値上げの必要はなかったのではないか。

 現在の宅配物流システムは、便利に見えても根底から矛盾を抱えている。それは以下の3点に尽きよう。

1)仕分け・積み替えが避けられないハブ&スポーク物流

 宅配便の物流体系は米FedExに発したとされる「Hub&Spoke」方式であり、ハブ間物流は大型機材に便数を絞って積載効率が高まるが仕分け・積み替えの煩雑な作業が避けられず、所要時間もコストも各地を直接に結ぶ「Point to Point」方式よりかさんでしまう。

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 ヤマト運輸を例にとれば、全国7000余のセンター(集配拠点)から76のベースに毎夕、集荷して方面仕分けし、21時発でベース間を大型トラックが長距離移送する。早朝のベース到着から逆の順序で仕分けて積み替え、営業ドライバーが宅配に回るというデイサイクルだ。往復4回の仕分け・積み替え作業が必要になるから、どう見ても効率的とは言い難いが、元々が鉄道チッキに代わる全国ネットの個人間C2C小口物流から発展した経緯が背景にある。

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 航空業界でも「Hub&Spoke」方式が主流だったのは70年代から20世紀末までで、ハブ空港間を大量輸送する超大型機がもてはやされたが、燃費や直陸料など経済性が追求されるようになった今世紀では経済効率が高く乗り換えなしで所要時間も短い「Point to Point」方式が主流となり、機材需要も燃費が良くてローカル空港でも離発着が容易な中小型機に移っていった。サウスウエスト航空など欧米のLCCは「乗り換えなしでスピーディー」をうたう「Point to Point」方式がほとんどだ(アジアのLCCは両方式併用が多い)。

 そんな物流トレンドを見ても、デフレ圧力が根強いわが国で非効率な「Hub&Spoke」方式宅配便が大幅値上げしてまで国民的インフラであり続けるか、疑問を抱かざるを得ない。

2)タイムラグが避けられないデイサイクルの全国区物流

 往復4回の仕分け・積み替え作業が必要な全国区「Hub&Spoke」物流では、当然ながら仕分け・積み替えに時間を要するし、夜間のハブ(ベース)間長距離移送を前提とするからデイサイクルとならざるを得ない。

 ヤマト運輸の場合、各ベース発が21時だから地域の集配センターへの搬入は18時が限界だろう。それ以降にEC受注しても翌日の扱いになるから、顧客に届くのは近距離でも翌々日になる。それを回避すべく近年は羽田クロノゲートなど高速バイパス・ゲートウエイを設けているが、3時間程度の受け入れ延長であってデイサイクルの枠を出るものではない。

 全国区「Hub&Spoke」物流ゆえのデイサイクルは衣料品や服飾品では致命傷とはならないが、野菜や鮮魚など生鮮食品では生産者出荷翌日の店頭陳列となり、鮮度維持のハイテクを駆使しても地産地消のローカル物流に敵うわけもない。ゆえにスーパーマーケット業界では全国チェーンよりローカルチェーンの方が圧倒的に強い。

 C&Cでは店舗までのB2B一括物流と店舗からのローカル宅配出荷が活用されるが、重装備な全国区宅配業者より軽装備なローカル運送業者の方が料金も安く、デイサイクルに縛られないから届くのも速い。宅配料金の値上げに圧迫されるアマゾンなどECプラットフォーマーがローカルの運送業者や個人運送業者を組織化しているのは当然の対応だ。

3)仕分け・積み込みの自動化が困難な非コンテナ物流

 宅配のトラックを見てもベースの仕分け作業を見ても宅配荷物の形状はあまりに多様で(寸法/重量の上限はある)、仕分けや積み込みの自動化には限界があり、ハイテクを駆使しても人海戦術と現場スキルへの依存は無くならないだろう。その根本的要因はコンテナ化されていないからだ。

 国際貨物は船便/航空便ともコンテナが定着しているし、国内輸送でもB2Bはオリコンやパレットなどかなりコンテナ化されているが、C2Cから発展した宅配便はコンテナ化されておらず、仕分けも積み込みも自動化し切れないため、どこかで人手とスキルを要する。ユニクロの有明倉庫(B2C宅配出荷)でも、規格化されたオリコンが自動化の大前提となっている。

 B2CのECは仕分けも積み込みも自動化すべきで、IT制御以前に宅配パッケージの物理的な規格化を徹底するのが先決だろう。

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ZOZOもアマゾンも二重物流を抱える

 宅配物流の抱える根本的な非効率性は、実はZOZOやアマゾンFBAなど出品者の在庫を預かって出荷するECプラットフォーマーにも共通する。

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 彼らの倉庫はハブ間移送こそないものの宅配物流でいうハブに近く、出品者からのB2B移送とプラットフォーマーのB2C出荷の二重物流が指摘される。出品者の倉庫から届けられた商品を棚入れして保管し、顧客の注文に応じてピッキングして宅配出荷しているが、棚入れも保管もピッキングも本来なら不要な無駄で、出品者に宅配出荷伝票をオンラインで流して直接出荷させるドロップシッピングなら二重物流を回避できる(アマゾン出品の多くはFBAでなくドロップシッピング)。

 二重物流で生じる運送費や作業人件費、倉庫家賃ももちろんだが、最終的にデイサイクルの宅配便で出荷する以上、丸1日の遅れが発生する。日々の受注品を出品者に納品させて仕分け出荷するだけの宅配出荷委託(セミ・ドロップシッピング)ならソーターで自動仕分けして、その日のうちにスルー出荷できるはずだが(半日の遅れ)、それでも出荷待ちで棚入れしたり、人海戦術で仕分けていれば丸1日の遅れが生じてしまう(SHOPLISTの受注から3日以内配送率は55%)。

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 出品者の多くは同一商品を自社サイトも含め複数サイトに出品してドロップシッピングで効率的な販売消化を図っており、ECプラットフォーマーや物流サービス業者に在庫を預けては一元運用が妨げられ在庫効率が悪化してしまう。C&Cで店舗を物流拠点化する先進的な小売業者にとっては在庫運用と物流コスト削減、顧客利便の妨げでしかなく、在庫預かりに固執するECプラットフォーマーからは離反せざるを得ない。「ZOZO離れ」の真相はそんなところにあるのかもしれない。

 物流コストの高騰に苦しむECプラットフォーマーとしても、在庫預かりに固執すれば倉庫作業人件費も倉庫家賃もかさむから、仕分けて出荷するだけの宅配出荷委託か、フロントと決済だけで物流に関わらないドロップシッピングに移行していくのが必然だ。となれば、二重物流の仮需で急拡大している倉庫需要も先行きが危ぶまれる。

二重物流が育む仮需バブルもいずれ弾ける

 ECプラットフォーマーによる二重物流は物流倉庫需要にも波及している。不要な在庫預かりによる倉庫面積の肥大が倉庫需要のバブルをもたらしているのだ。

 11年から18年にかけて、もとよりC2C需要のベースがある宅配便取り扱い個数は32%しか伸びていないが、倉庫需要にスライドすると思われるB2C物販EC売上げは2.07倍に伸び、関東圏関西圏の物流施設賃貸供給面積はそれを大きく上回って2.52倍に伸びている。ECプラットフォーマーの倉庫を通さない自社ECやドロップシッピングもあるから、この2.07倍と2.52倍の乖離が二重物流による仮需と推察される。

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 物流コストの高騰に苦しむECプラットフォーマー、C&Cで物流コストを削減し在庫効率と顧客利便を高めたい店舗小売業者、両面から二重物流の解消が進むとすれば、この仮需は数年でしぼむことになる。

 在庫預かりによる二重物流の解消は物流倉庫の立地や建築仕様も変えるに違いない。

 首都圏の物流倉庫家賃は「東京ベイエリア」→「外環道エリア」→「国道16号エリア」→「圏央道エリア」と都心から離れるにつれ安くなり、逆に空室率は高くなるとされるが、それは地価や交通利便だけによるものではない。むしろ周辺に住宅地が迫って作業要員を確保しやすい立地が好まれるからで、棚入れもピッキングも要せず自動ソーターで仕分けてスルー出荷するだけになれば、倉庫面積がシュリンクするのはもちろん作業要員も激減するから、住宅地から離れた低家賃倉庫に需要が移る。

 同様に、好まれる建築仕様も一変する。トラックがスロープで上層階に登れてストックヤードが広く取れ、地上階から仕分け出荷する多層型から、ストックヤードを持たず自動ソーターでスルー出荷してしまう低地価立地のフラット低層型へ、物流倉庫の建築仕様も変わっていくのではないか。

 もとより物流は流体工学や治水工学と同じく、止めたり貯めたりしたら負けで、流路を広げれば滞貨や氾濫のリスクも高くなる。棚入れせず倉庫を広げず高速でスルーさせるほど効率が高くなるのは自明の理だ。EC拡大の勢いに乗って不要な倉庫投資を拡大してきたツケはいずれ清算せざるを得ない。宅配便の値上げと作業人件費の高騰がその契機となるに違いない。

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