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『しまむら、ライトオンの浮上策 私が社長ならこうする!』(2020年02月19日付)
小島健輔 (株)小島ファッションマーケティング代表取締役

 業績が低迷するしまむら、ライトオンの社長が相次いで交代する。しまむらは2月21日付で北島常好社長が代表権のない会長に退き、取締役執行役員の鈴木誠氏が5代目社長に就任する。ライトオンは3月1日付で川﨑純平代表取締役社長が取締役管理本部長に異動し、藤原祐介取締役営業本部長が現職を兼任して4代目の代表取締役社長に就任する。北島常好社長の就任は18年2月21日、川﨑純平代表取締役社長の就任は18年4月1日だったから、どちらもわずか2年での交代となる。それだけ両社の業績が追い詰められているということなのだろう。両社の新社長はどう舵取るべきか、前任者の反省に立って浮上策を直言したい。

客離れが止まらないしまむら

 ヒット商品にも恵まれた17年2月期から一転、18年2月期は9期ぶりの減収減益となって13年近く続いた野中正人社長からバトンタッチされた北島常好社長だったが、壁に当たった仕組みを抜本転換しないまま、収益本位の品揃えや調達、在庫運用などテクニカルな対策に終始して客離れが加速。19年2月期は3.4%の減収、40.2%の経常減益と業績は一段と悪化した。20年2月期第3四半期累計(19年2月21日〜11月20日)も前年同期比3.8%の減収、8.1%の営業減益と低迷が続き、20年2月期予想を売上高で5630億円から5281億円と6.2%、営業利益で347.35億円から259.00億円と25.4%、下方修正するに至り、社長交代へと追い込まれた。

 北島常好社長は商品計画や配分の精度を高め、婦人服では短サイクル調達比率を高め、低価格品も再充実するなどテクニカルな対策は講じたものの、20年2月期上半期(3〜8月)は客数が6.1%も減少して既存店売上高が6.0%減少。第3四半期(9〜11月)も客数が4.4%減少して既存店売上高が4.7%減少。12月は客数が6.2%、既存店売上高が9.0%も減少、1月も客数が8.4%も減って既存店売上高が9.9%と1割も落ち込むなど、客離れが加速している。

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同社がここまで追い込まれた要因は、以下の3点に尽きよう。

1)顧客の生計の困窮と低価格要求の先鋭化、ECやC&C、リサイクルやサブスクリプションなど購買慣習の変化、抜け感とTPOレスのウエアリング激変を見落としたか軽視した。

2)長年にわたって精度を高めてきた中央集権型のMD(品揃えと調達)やDB(配分・補給の在庫運用)の仕組み(CMI)を盲信し、テクニカルな対策に終始して個店対応への抜本転換(SMI)にもベンダー活用の需給制御(VMI)にも踏み切れなかった。

3)本社組織内で意思決定が完結する閉鎖的マネジメントに陥って店舗のパートさんや取引先の声が入らなくなり、顧客のリアルな姿も見えなくなって乖離が広がり、顧客にもその距離感が伝わって心理的にも客離れが進んだ。

 実際、しまむらの店舗に行くと、顧客と積極的にコミュニケーションしようとする空気がなく、ホスピタリティも感じられない。近隣の顧客でもあるパートさんたちも効率本位のマニュアルでがんじがらめにされて人として触れ合う温かさを抑制され、それが顧客にも伝わってしまう。そんなメンタリティも客離れにつながっているのではないか。

  • ※CMI(Central Managed Inventory):小売業者の本部が各店舗の品揃えと補給、在庫管理を行う
  •  VMI(Vendor Managed Inventory):あらかじめ定めた棚割りに基づいて納入業者に補給と在庫管理を委託する
  •  SMI(Store Managed Inventory):各店仕入れ、または本部の品揃えを店舗が選択・数入れする

自ら顧客を狭めたライトオン

 07年の1067億円をピークに業績の萎縮が続くライトオンだが、17年8月期は持ち越し在庫の処分にアスレジャー旋風によるジーンズ離れの加速も加わって既存店売上高が9.1%も落ち込み、28億4900万円の営業赤字に転落。翌18年8月期は仕入れや値引き処分の抑制などで12億200万円の営業黒字に転換したものの、売上高は4.3%減少して768億円と3期ぶりに800億円を割り込んだ。 

 川﨑純平社長が「アメカジとジーンズのセレクトショップ」を掲げてマーチャンダイジングの再構築を進めた19年8月期も既存店売上高は浮上せず、売上高は740億円を割り込んで再び21億7500万円の営業赤字に転落。20年8月期上半期(19年9月〜20年2月)は消費増税や暖冬もあって20年1月までで既存店売上高が17.1%減と大きく落ち込み、このままでは通期売上高も660億円まで落ち込んで赤字が大幅に拡大することが必至となった。

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 最大の要因は客数の減少で、17年8月期の8.3%減、18年8月期の8.9%減から19年8月期は3.7%減と下げ止まりかけていたのが20年8月期上半期は20年1月までで28.8%減と壊滅的に底割れしている。その半面で同期間の客単価は16.5%も増加しているから、NBジーンズ中心にブランド商材を強化して裾値を絞った結果と受け取れる。15年8月期は客数は0.4%増(客単価は0.2%減)、16年8月期も同7.1%増(同)と客数は減っていなかったから、17年8月期以降の商品政策が顧客を遠ざけたと思われる。

 17年8月期は、NBジーンズ中心に在庫を抱えて売上げを取る「ジーンズ量販店」商法が16年8月期で限界に達して持ち越し在庫が仕入れを圧迫。スポーツ系NBのアスレジャーアイテムなど新鮮商品を十分にそろえられないで、アスレジャーシフトする顧客が離反した。18年8月期以降は手頃な商品とのバランスにも留意したが「アメカジとジーンズ」からアスレジャーへのシフトが止まらず客数減が続き、20年8月期上半期では消費増税と暖冬も加わって壊滅的な客離れに至った。

 カジュアルの主流がジーンズとアメカジだったのは00年代までで、リーマンショックを境にファストファッションやユーロカジュアルに流れ、それも16年ごろから下火になってアスレジャーがカジュアルの主流となり、18年ごろからはアウトドア志向が強まって、19AW以降はカジュアルはもちろん通勤着までアウトドアやワークのゆる抜けたナチュラル感覚が広がっている。「アメカジとジーンズ」に固執したライトオンはそんなウエアリングの変化に置き去りにされ、顧客を失ったのが最大の敗因だと思われる。

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しまむらの起死回生策を直言!

 しまむらの敗因は顧客と現場ではなく組織を向いて、抜本的でなくテクニカルな対策に終始したことだから、生活と生計に追われる顧客の期待に応え、各店舗の個別最適を実現するMDとDBの仕組みに抜本転換すれば、業績は短期に好転するはずだ。

 具体的には以下の4点に尽きる。

1)新鮮で安価な商品を三毛作で提供し、離反した顧客に帰ってきてもらう

 シーズン前半は短サイクル生産の持ち込み企画仕入れでトレンド鮮度を競い、シーズン中盤はベンダータイアップのVMIで実需を掘り下げ、シーズン末期は捨て値買い付けのオフプライス商品で裾値需要に応える。これなら多くの顧客を引き付けることができる。

2)プチプラのコスメや化粧雑貨、プチジュエリーやスマホケースなど衣料品以外のおしゃれアイテムを広げ、集客と売上げ、利益をかさ上げする

 米国コールズ社(「米国のしまむら」といわれる大衆衣料チェーン)の利益の源泉は化粧品とジュエリーだといわれるが、しまむらはその収益ミックスに学んでいない。

3)本部が提供するカセットの選択やSKUバランスに店舗の意思が反映されるSMIの仕組み、販売期間が長く継続補給あるいは切り替え補給するカセットでは補給と追加生産を制御できるベンダーによるVMIを積極拡大する

 前者ではシーズンアイテムやデザインもの、後者では肌着や定番衣料、服飾雑貨で効果が大きいのではないか。

4)顧客が華やぐ快適な店舗環境とホスピタリティあふれる運営のC&Cサロンに転換する

 レジ前にはスタバかディーン&デルーカのような地域顧客が集えるカフェがあって、ゆったりきれいなフィッティングルームでしまむら商品のみならず取り寄せたEC商品を試したりお直ししてもらったり、しゃれたデザインのレジカウンターでは店頭購入商品の精算のみならず取り寄せたEC商品の受け取りや返品も手軽にできる。C&Cサロンと化したしまむらにはECプラットフォーマー各社が提携を競い、その手数料もともかく、EC商品のお取り寄せお試し受け取り返品で来店する顧客で客数は倍増し、しまむらの売上げも少なからず押し上げることになる。

ライトオンの起死回生策はこれだ!

 ライトオンは「アメカジとジーンズ」に固執して顧客が離反したこと、カジュアルNB業界に対するバイイングパワーをうまく使えず在庫負担に苦しんだことが敗因だから、この2点を根本から変えれば浮上は容易だ。

 具体的には以下4点に尽きる。

1)古典的な「アメカジとジーンズ」を脱し、アウトドアやアスレジャーのアイテムを今風のゆる抜けたスタイリングで店頭やネット(ECとSNS)に表現する

 ライトオンのECはシステムは秀逸だがスタッフの提案するスタイリングが古典的にすぎて魅力がなく、販売員経由やモデルコーディネイト経由のEC売上げが異常に少ない。店舗ごとの客層によって共感するスタイリングは少なからず異なるから顧客を見ている店舗スタッフの感性を活かすべきで、ボーンフリーやフリークスストアのスタイリングが参考になるだろう。

2)セレクトかPBかという両極にとらわれず、ブランドメーカーとのタイアップPBや多頻度別注で味の濃さと手軽さ、バラエティと鮮度を両立させる

 NBメーカーは年間2シーズン企画が多いが、スペックと素材背景、生産背景を活用した別注で4回あるいはそれ以上の企画頻度にすれば、在庫を積み上げることなくバラエティと鮮度を訴求できる。

3)NBメーカーとのVMIを広げる

 NBジーンズメーカーは今どき珍しく国内で完結する生産背景を残しており、半期あるいは四半期ごとに棚割りを設定してオンラインEOSで補充生産・補給する取り組みが可能と思われる。ライトオンのNBジーンズ市場における占拠率はピーク時も売上げが六掛け近くまで落ち込んだ現在も30%以上あり(NBジーンズ市場はピークの3掛けに萎縮した)、NBジーンズメーカーにVMIを要求できるバイイングパワーがあるはずだ。

4)ジーンズ&ワーク系NBのC&Cプラットフォームになる

 ライトオンのECは店頭在庫を検索して取り置けるC&Cを確立しているが、ライトオンと取引するジーンズやワークのNBはECモールに出店したり自社ECを運営していても、お取り寄せお試し受け取り返品、店出荷など全国展開の店舗網を活用したC&Cには手が届かない。ならば業界占拠率ナンバーワンのライトオンが彼らのプラットフォーマーとなってC&C機能を提供すればよい。さすればNBメーカーとの連携も深まり、販売在庫の奥行きもリスクを抱えず確保しやすくなる。しかも、ECで売っても店で売っても少なからぬ手数料がライトオンに入ってくる。 

 こんなすごい財産を持っているのに戦略的に活用せず、在庫に四苦八苦して赤字を余儀なくされているライトオンはもったいないに尽きる。2月末日付で社長を外れる川﨑純平氏こそプラットフォーマー事業を担うにふさわしい逸材ではないか。

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