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マネー現代
『百貨店と駅ビル、なぜか「コロナ感染者」がいなくならない「本当のワケ」』
(2021年05月18日付)
小島健輔 (株)小島ファッションマーケティング代表取締役

コロナ禍の百貨店「どこまでが生活必需品」か…?

日本百貨店協会は緊急事態宣言の延長にともない、東京都など4都道府県に『顧客の要望、従業員の雇用不安、取引先の業績悪化』を挙げて『感染防止対策を徹底した上で、可能な限り営業する売場を広げたい』という要望書を提出。各都道府県の要請も鑑みながら12日以降、「生活必需品」を独自に解釈して営業する売場を拡大している。

休業要請の継続を正式決定した東京都でも、百貨店各社がこれまでの食品や化粧品、洋品雑貨、一部レストランに加え、家具・家庭用品や身の回り品全般、衣料品の売場を次々と開けている。

高島屋は12日から都内4店舗で営業時間を最大1時間30分延長するとともに営業する売場をリビング用品や衣料品まで広げ、宝飾品や美術品、玩具、ゴルフ用品などを除く大半の売場が営業している。

西武百貨店も14日から池袋本店と渋谷店で高島屋同様、衣料品や服飾雑貨、インテリアやラグジュアリーブランド(宝飾を除く)まで営業を広げている。

三越伊勢丹も都内4店で15日から衣料品の販売を再開するという。

「協力金の積み上げ」も“焼け石に水”…

医療崩壊状態に陥って連日、多数の死者が出ている関西でも、神戸や京都の大丸は平日、全館営業する。高島屋は大阪市内店舗は食品に加えて化粧品や婦人雑貨などに営業を広げるが他部門は休業を継続し、京都の2店舗は平日、全館営業する。

阪急阪神百貨店の大阪市内店舗は食品に加えて化粧品や婦人雑貨に営業を広げるが、他部門は休業を継続する。

各社とも長期の休業で損失が拡大しており、出店する取引先も売上が消えて在庫が積み上がり経営が危ぶまれるところも出てきている。背に腹は変えられない切羽詰まった状況で、「生活必需品」という曖昧な枠を見直し、「食」が生活必需なら「住」も「衣」も同様だと解釈して営業の再開に踏み切る百貨店が広がりそうだ。

それは駅ビルやファッションビルとて同様で、ほぼ全館営業する商業施設がなし崩しに広がる気配だが、「感染拡大を抑え込むべくの人流抑制」という休業要請の目的が「生活必需品」論議にすり替えられて良いのだろうか

 

「生活必需品」を独自に解釈して営業領域を広げるに至ったのは、緊急事態宣言が何度も繰り返され延長され、百貨店や商業施設、出店する事業者の経営が追い詰められたからで、休業に対する補償(協力金)は焼け石に水だった。

三度目の緊急事態宣言では床面積1000平米を超える商業施設に休業が要請されたが、休業に応じた施設に対する協力金は一施設あたり日額20万円、テナント一店あたり日額2万円と、失う売上や経費を補うにはあまりに遠かった。

緊急事態宣言が5月末まで延長されることになり、業界の要望もあって協力金が見直され、商業施設に対しては休業面積1000平米毎に日額20万円、テナントに対しては休業面積100平米毎に日額2万円と拡充されたが、それでも損失を補うには遠い。

都心の商業施設の販売効率から推察すれば協力金で補填されるのは失った売上の3〜4%で、百貨店では歩率賃料の1割弱、駅ビルなどでは家賃の2割強ほどしかカバーできない。「生活必需品」を独自に解釈して営業領域を広げるしか突破口がなかったと思われる。

無意味な「生活必需品」論争

どこまでが「生活必需品」かという論争は定義が曖昧で、立場によって様々な解釈が可能だ。食料品が「生活必需品」なら日用雑貨や下着・靴下なども「生活必需品」と言えるし、身を包む衣料品も「生活必需品」と言えなくもない。

フランスではロックダウンでランジェリーショップが長期の休業を強いられ、『下着も生活必需品と認めよ』という「Action culottee」抗議活動でジャン・カステックス首相にTバックなど大量の下着類が送りつけられている。『大型スーパーの下着売場は営業しているのにランジェリーショップはなぜ休業なのか』という指摘ももっともだ。

同じカテゴリーでも、大衆的な低価格品と奢侈的な高級品で線引きしようという考え方もあるだろう。日用の手頃な下着類は「生活必需品」でも高級ランジェリーは「奢侈品」であって「生活必需品」ではないとも言えるが、お金持ちにとっては高級ランジェリーが日用の「生活必需品」なのかも知れないし、百貨店の高級食品も同じような論理で「生活必需品」と位置付けられている。

もとより政府や自治体の休業要請は「感染拡大を抑え込むべくの人流抑制」が目的であり、「生活必需品」かどうかという線引きは意味がない。「生活必需品」たる食料品売場でも混雑して三密が避けられないなら営業すべきではないし、奢侈なブランド品売場でも客数が少なく感染防止が徹底されるなら休業を強いる意味はない。

人流抑制が目的なら鉄道や地下鉄など交通機関の運行を制限して乗客数も規制するのが先決だし、商業施設や商店も入店客数規制と感染防止対策の徹底が問われるべきで、業種やカテゴリーによる休業規制は本末転倒という指摘を免れない。

では百貨店など商業施設の入店客規制と感染防止対策が徹底されているかというと、「コロナ慣れ」と言われても仕方のない杜撰さが蔓延しているのが実態だ。

百貨店や駅ビルは『一層の感染対策を徹底する』としているが、入店客を完全に制限できるわけでもなく、週末や夕刻は混雑しているのが現実だ。店頭こそ一定の感染対策が行われていても、後方の感染対策が完全とはいえない状況もある。

百貨店、駅ビルから「感染者」が出るワケ

伊勢丹新宿本店など連日のように感染者が報告されているが、コロナ禍が始まってから5月13日までで従業員から122人の感染者が出ており、今年になってからも44人の感染が報告されている。

同店は感染者が発生する度、発生した売場を清掃・消毒して翌日から営業しているが、これほど繰り返されるようでは全館休業して後方まで徹底して滅菌し、従業員には定期的にPCR検査を義務付けるべきかもしれない。

都心の駅ビルは一部テナントを除いて営業しており、夕刻は若い人でごった返している。5月に入って伊勢丹新宿本店で9人の感染者が出ている間に新宿のルミネとルミネエストでは6人の感染者が出ているから、感染リスクは大差ないと思われる。

このような感染者の発生頻度を見る限り、百貨店も駅ビルも安全とは言い難い。そんな状態で事実上の全館営業に踏み切って良いものか疑問が残る。

休業や営業時間短縮より入店客規制が必要だ

休業要請の目的が「感染拡大を抑え込むべくの人流抑制」なら、休業や営業時間短縮より入店客規制が肝要ではないか。

都心部の商業施設に休業を強いれば周辺部の商業施設が混雑するだけで、感染機会を周辺に広げてしまう。営業時間を短縮すれば限られた時間に来店客が集中し、返って三密状態を作り出してしまう。ならば入店客規制を厳密に行って三密を避け、サーモグラフィーによる検温とマスク着用の励行を徹底するべきだ。

下手に入店規制すれば店頭周辺に行列が出来て三密が発生するから、最近の飲食店のようにアプリで混雑状況を知らせ、入店予約する仕組みを作れば回避できるのではないか。ならば来店客が分散するよう、休業や営業時間短縮を求めるべきではあるまい。

感染対策という目的が行政と商業施設の間ですれ違っては、商業者に過剰な犠牲を強い、感染対策の実効も得られない。本来の目的を直視して冷静な議論とすり合わせを急ぐべきではないか。

 

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