小島健輔の最新論文

商業界オンライン 小島健輔からの直言
『多店化するオフプライスストア』(2020年03月16日付)
小島健輔 (株)小島ファッションマーケティング代表取締役

「アンドブリッジ」が3月7日に2号店を相模原のニトリモールに開店して年内には5店舗に広げ、「ラックラック・クリアランスマーケット」も3月19日に開店する新所沢パルコ店で5店舗になる。前者は昨年9月、後者も4月に1号店を開設して間もなく、手応えを得て早くも多店化に移っている。3月24日にはドン・キホーテもオフプライスストア「オフプラ」の1号店(960平米)を名古屋郊外のMEGAドン・キホーテUNY大口店内に開設する。米国では百貨店を凌駕するまで成長したオフプライスストアが、わが国でもいよいよ離陸しつつある。

・アンドブリッジ

 ワールドとゴードン・ブラザーズ・ジャパンの合弁会社アンドブリッジが展開するオフプライスストア「アンドブリッジ」は昨年9月14日、埼玉・西大宮のにしおおみやファッションモールに1号店(300坪)を開設し、3月7日には相模原のニトリモールに2号店(150坪)を開設。今年中に5店に広げ、22年末までに30店を布陣する。東京圏郊外の16号線の外側には300〜400坪級の大型店をロードサイドやパワーセンターに、内側には150坪級のコンパクト店を商業施設に出店していく計画だ。

 開店から半年が経過した西大宮店の売上げは年間3億2000万円〜3億3000万円ペースで、レディスウエア40%、キッズウエア15%、シューズ12%、雑貨13%の比率。メンズウエアは当初の25%から30%に上がってきた。1人2.3〜3.0点の購入で客単価は5500円ほど。売場サイズを西大宮店の半分の150坪にコンパクト化して衣料品・服飾品に絞った相模原店は駅ビルブランドや百貨店ブランドを充実して客単価を6500円に上げ、西大宮店より販売効率が2割強高い2億円の売上げを見込んでいる。

 同社はSCブランドや駅ビルのお手頃ブランドを「Good」(単品正価1万円未満)、駅ビルの専門店ブランドから百貨店の平場ブランドまでを「Better」(単品正価2万円未満)、それ以上を「Best」と位置付け、毎月の品揃えをクラスとカテゴリーで枠組んでいる。西大宮店では開店当初50%を占めていた「Good」が40%に減って「Better」が35%から45%に増え、「Best」は15%で変わっていない。ワールドのブランドが30%程度を占め、同クラスの「Better」ブランドが集めやすく消費者の認知度も高いことから、今後は「Better」ブランドを主軸にしていくと見られる。

 値引き訴求はブランド正価からのオフ率表示で、中価格ブランドの「ディスカウント訴求生活圏型OPS」と位置付けられる。

・ラックラック・クリアランスマーケット

 ゲオグループの子会社ゲオクリアが展開するオフプライスストア「ラックラック・クリアランスマーケット」は昨年4月25日、横浜のコーナン港北インターに1号店(427坪)を開設して以降、大阪の八尾(221坪)、金沢の御経塚(219坪)、埼玉の本庄ビバモール(350坪)と矢継ぎ早に出店し、3月19日開店の新所沢パルコ(224坪)、4月24日開店の岸和田カンカンベイサイドモール(197坪)で6店になる。今年中に5店舗以上出店し、来年以降は10店舗以上と出店を加速する。

 開店から10カ月が経過した港北店の売上構成はレディスウエア25%、メンズウエア25%、キッズウエア12%、スポーツウエア3%、シューズと服飾品20%、ホーム関連15%で、客単価は3000〜3500円。売上げは明らかにしていないが、似たような立地の衣料スーパーと大差ないようだ。

 そろえているブランドはSCブランドや駅ビルブランドが中心で、メジャーなスポーツブランドやワークブランドはあっても百貨店ブランドから上はなく、ホリュームブランド(アンドブリッジでいう「Good」)に絞っている。150社ほどのアパレルメーカー/問屋/二次流通業者から調達しており、小売店の売れ残りは仕入れていない。値引き訴求はブランド正価からのオフ率表示で、お手頃ブランドの「ディスカウント訴求生活圏型OPS」と位置付けられる。

・タカハシ

 日本のオフプライスストアにはタカハシという先駆者がいる。東京圏西〜北部の16号線の外側に37店舗のドミナントを形成し、19年8月期で72億7560万円を売り上げている。平均163坪のウエアハウス型のローコスト店舗はスーパーマーケット型のレイアウトで選びやすく補充しやすいようアドレス管理されており、近隣商圏の顧客を捉えて2億1100万円ほどを売り上げている。

「Good」ブランドから「Better」ブランドに比重を移すアンドブリッジ、「Good」ブランド中心のラックラックに対してポピュラープライスの量販ブランドに絞っており、価格表示も◯◯%オフでなく「ワンピース980円」などプライスライン表示で分かりやすく、安心して買える。近隣顧客に生活衣料を低価格で提供する「プライスライン訴求近隣型OPS」と定義したい。

 タカハシは月々の最適品揃えを実現すべくメーカーや問屋の余剰在庫から選別仕入れしているから、放出在庫を調達するオフプライスチェーンより原価率が格段に高いが、その分、必要なシーズンアイテムがそろって購買頻度が高い。オフプライスストアというより、「流通余剰在庫から選択調達して低価格の品揃えを実現している衣料チェーン」と位置付けるべきかもしれない。

調達と販売消化の仕組み

 アンドブリッジはゴードンとワールドに月々、ブランドのクラス/アイテムで枠組んだ予算を提示して売上仕入れで調達し、2週ごとに50%→60%→70%→80%とオフ率を上げて8週で売り切る運用で7回転近く回している。タカハシは衣料チェーンとしての計画的品揃えを実現すべく量販店メーカー/問屋の余剰在庫を探して買い付け、ルート便による店間移動と売価変更で8週サイクルで売り切り6回転させている。消化仕入れと完全買取という両極ではあるが、米国のTJXが6.32回転、ロス・ストアーズは6.09回転しているから、8週サイクル消化というのが日米オフプライスストアに共通する目安だと思われる。

 アンドブリッジはコードンの買い付けたブランド放出在庫とワールドの余剰在庫、ラックラックもブランドメーカーや問屋の放出在庫、タカハシも量販店メーカー/問屋の余剰在庫を調達しており、小売店の売れ残り品は極めて例外的だ。小売店の売れ残り品は色やサイズがそろわず個別の検品も必要で扱いにくく、ロットもそろわないから多店舗へ供給できない。とはいっても人気ブランド/著名ブランドならバラ残品でも集客の目玉になり、自社百貨店の売れ残りブランドが過半を占めるノードストロム・ラックの販売効率は年間坪2万1210ドルと、米国の大手オフプライスチェーン(米国内Marmaxxは1万3486ドル/ロス・ストアーズは1万5304ドル)でも突出している。

 ちなみにアンドブリッジ大宮店の販売効率は年間坪110万円、タカハシは推定だが年間坪130万円と、類似立地のしまむら(全社平均で年間坪81.1万円)を前者は36%ほど、後者は60%ほど上回る。アウトレットモールの販売効率がRSCの5割り増しになることも、オフプライスストアの高販売効率を裏付けている。

オフプライスストアの成功条件

 オフプライスストアの魅力はブランドぞろえ、トレンド鮮度、オンシーズン品揃え、オフ率や絶対的低価格などだがタイプによって優先順が異なり、高価格ブランドほどブランドぞろえとオフ率、低価格ブランドほどオンシーズンの品揃えと絶対的低価格が求められる。

 高価格ブランド(ベターレンジ以上)は知名度があるからブランドぞろえとオフ率訴求が要となる。ブランドメーカーの統制が厳しく余剰品の放出が限られるからキャリー在庫や小売店の売れ残り在庫に依存しがちで、人気のあるブランドをそろえようとするとキャリー在庫が多くなって鮮度が落ち、小売店の売れ残り品に依存すれば色・サイズがそろわず奥行きも浅くなり、ジャストシーズンな品揃えも難しい。ゆえに多店化は望めず、ダウンタウンの裏立地やアウトレットモールに広域狙いの大型店舗を小数展開することになる。

 中価格ブランド(専門店ブランドや百貨店NB)はそこそこ知名度があるからオフ率訴求がきき、メーカー余剰品の放出も増えている。オフプライスストアの認知が進めば期中の見切り品も放出されるようになり、ブランドぞろえもトレンド鮮度も高まると期待されるが、フルプライス店のような月々のアイテムぞろえはタイアップ開発しないと限界がある。郊外の生活商圏から広域商圏まで、生活幹線の独立店やCSCから広域型パワーセンターまで、店舗サイズも数十坪のブテックタイプから150坪〜450坪級のスーパーストアタイプまでさまざまなタイプが可能で、遠からず数百店舗に広がると見られる。

 低価格ブランド(量販ブランドやSCブランド)は知名度が低いからオフ率訴求がきかず、絶対低価格のプライスライン訴求が求められる。メーカー/問屋の余剰在庫供給が潤沢で、商社やOEM業者からの未引き取り品放出もあり、色・サイズもロットもそろった調達が可能だから多店舗展開に向いている。フルプライス店に近い月々のアイテムぞろえも可能で、顧客をつかんで安定した売上げが期待できる。郊外の近隣商圏から生活商圏まで、生活道路の独立店やNSCから生活圏型パワーセンターまで、150坪〜300坪のローコスト運営スーパーストアを数百店舗展開するチェーンが複数成り立つと思われる。

※4月1日に発売される販売革新4月号では日米オフプライスストアを詳しく比較した私の論文が掲載されます。詳しくはそちらをお読みください。

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