小島健輔の最新論文

WWDジャパン2013年9月9日号掲載
『H&M上陸から5年、ファッション市場はどう変わったか?』
(株)小島ファッションマーケティング代表取締役 小島健輔

ファストファッションに圧し潰された109世界

 9月13日で「H&M」が銀座に上陸してから丸5年になる。この5年間で「H&M」は売上を急拡大して300億円に迫り(12年11月期)、今年は450億円に迫ると見られる。その一方、日本的ファストファッションの総本山、渋谷109の売上は「H&M」の進出を契機に減少に転じ、「H&M」と「フォーエバー21」の多店化とともに釣瓶落としに急落。ピークの08年(09年3月期)の286.5億円が年々減少して13年3月期には198億円と七掛けを割り込んでしまった。衣料消費が活況を取り戻した今春以降も売上は浮上せず、このまま行けば14年3月期には188億円まで落ち込む事になる。
 渋谷に限らず全国の109館も外資ファストファッションの多店化とともに売上が落ち込んでマルキュー系アパレルの業績も陰り、10年3月のギルドコーポの身売り、11年8月のララ・プランの民事再生法申請、13年3月のローズファンファンの破産、4月のMITによるクレッジの買収、直近では中国大手靴小売の百麗国際(31.96%)と中華系ファンド(23%)による仏系ファンドからのバロックジャパン株取得など破綻や再編が相次いだ。
いったいファストファッションは日本市場の何を変え、何処へ至ろうとしているのだろうか。

マルキューブランドの敗因

 「早い、安い、トレンディ」三拍子揃ったのがファストファッションの魅力だが、日本的ファストファッションたるマルキューブランドは何故、かくも脆く外資ファストファッションに圧し潰されてしまったのだろうか。
 鮮度の高いファッションを提供するには生産の速さもともかくコレクションシーンより早い元ネタの開発が先決だが、それにはコレクションブランドに匹敵する開発体制が不可欠。そんな開発コストを数百万枚のロットで吸収して安く売るのがグローバルスケールのファストSPAなのだ。彼らに価格で対抗せんとすれば、ロットが限られるマルキューブランドは売れ筋後追いのODMに流れざるを得ず、バリューも鮮度も太刀打ち出来ない。限られた情報と体制で自社開発しても鮮度も感度も追いつかず、小ロットに開発コストが乗って法外な価格になり、到底太刀打ち出来ない。結果は見ての通りだ。
消費者は退化した?
 ファストファッションは「早い、安い、トレンディ」とは言え素材や縫製、プレス仕上げは価格相応にトレードオフされたミニマルなものだ。「H&M」上陸直後はそんなミニマルな品質を目の肥えた日本の消費者が受け入れるのか懸念されたが、OLからミッシーまで見る見る受容する顧客が広がり、「品質神話」はあっけなく崩壊してしまった。
 外資ファストファッションが日本人の品質アレルギーに免疫をつけたのか、以降は加速度的に品質許容度が低下してケータイでも平気で衣料品や靴を買うようになり、スマホブームとともにアパレルEC市場が一気に拡大して行った。品質許容度のハードルが下がった事を退化と言うべきか合理的進化と言うべきか議論の分かれるところだが、品質に拘ってコスト革新や量産対応に取り残された国内産地やアパレルには致命的ダメージとなった。

外資ファストファッションは何処まで伸びるのか

 H&M社の海外展開の経緯を見れば市場規模の大きい主要国で年商1000億円に達するのに10年以上要しているが、東日本大震災のあった11年こそ足踏んだものの日本での売上拡張ペースはどの国より勢いがあり、一店当たり売上は15億9730万円と世界平均(6億4463万円)の2.5倍近い。この勢いが続くとすれば上陸10年目の2018年には1500億円を超えてしまう。同系列の「モンキ」や「ウィークデイ」、インディテックス系の「ZARA」や「ベルシュカ」、「フォーエバー21」、新たに進出して来る業態を加えれば、ファストファッション市場は今日のセレクトショップ市場(約3300億円)に迫るのではないか。その時、マルキューアパレルや駅ビルアパレルがどうなっているかと思うと背筋が寒くなる。

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