小島健輔の最新論文

販売革新2012年12月号掲載
『日米GMSに見る衣料分野の課題と解決策』
(株)小島ファッションマーケティング代表取締役 小島健輔

衣料部門が足を引っ張るGMS

 12年上半期(3〜8月)のイオンリテール(単体)の既存店前年比は98.5、営業利益率は0.4%、同イトーヨーカ堂(単体)の既存店前年比は95.7、営業利益率は0.1%と低迷の度を深めている。業績の足を引っ張っているのが衣料部門で、長期的に見ても衣料部門の凋落が業績を低迷させて来たのは明らかだ。
 93年2月期当時のジャスコは営業利益率3.3%で衣料品は全売上の29.0%を占めていたが、直近上半期では衣料品シェアは20.1%に落ち、同じくイトーヨーカ堂は営業利益率5.6%を誇り衣料品は36.7%を占めて稼ぎ頭だったが、直近上半期では22.7%(同一基準では20.3%)まで落ち込んでいる。日本チェーンストア協会の統計を見ても、92年には25.6%を占めていた衣料品シェアは年々低下して10年には10.5%まで落ち込んでいる。
 中でも衣料品の低迷による業績の落ち込みが著しいのがイトーヨーカ堂で、衣料品売上は93年2月期の4466億円が12年2月期には半分強の2401億円に減少し、合併効果があったとは言え同期間に2295億円から3909億円に拡大したイオンリテールに逆転されている。イトーヨーカ堂の06年2月期から12年2月期の業績推移を見ても、衣料品売上前年比は総営業収入前年比を下回り続けており、この間だけでも衣料品売上シェアは24.9%から20.3%に落ちている。93年3月期までは稼ぎ頭だったイトーヨーカ堂衣料部門をここまで凋落させた要因は果たしてなんだったのだろうか。

データ過信の業革が招いたイトーヨーカ堂の自滅

 イトーヨーカ堂衣料部門の売上ピークは96年2月期の4568億円だったが、衣料品の売上シェアは92年2月期の37.0%以降、ジリジリと低下して99年2月期には34.0%まで低下。00年2月期以降は「しまむら」に続く「ユニクロ」のメジャー化に圧され、衣料品売上は坂を転げるように落ちて行った。00年以降は「しまむら」や「ユニクロ」に売上が流れたと推察されるが、93〜99年の茹で蛙的衰退はイトーヨーカ堂内部に要因があったと思われる。
 量販店衣料部門を圧し潰した元凶は「しまむら」「ユニクロ」だと言われるが、93年当時は「ユニクロ」はまだ90店舗/年商250億円(93年8月期)のローカルチェーンに過ぎず、「しまむら」とて228店舗で888億円(93年2月期)を売り上げ、ようやく全国展開に乗り出したばかりで、衣料品だけで4500億円も売り上げる巨大なイトーヨーカ堂を脅かす勢いは到底なかった。にも拘らずイトーヨーカ堂の衣料部門が凋落し始めた要因は内部に求められる。
 当時、イトーヨーカ堂の衣料部門はライバル他社に較べて販売効率も商品回転も突出しており、販売進行に応じて毎週のように在庫を編集陳列して消化を促進する現場の運営技術も突出していた。それが92年に鈴木敏文氏が社長に就任して以降、売場の運用を軽視してPOSデータで売れ筋に絞り込む「業革」を押し進めた結果、品揃えが細って次の売れ筋が生まれず、顧客のカバー率も低下して客数が減少し、品揃えと客数と売上が縮小スパイラルに陥り、見る間に勢いを失って行った。以降、「しまむら」や「ユニクロ」の圧迫に加えてモール戦略に出遅れた事も響き、06〜07年の伊勢丹出身の藤巻幸夫を取締役衣料事業部長に招いての百貨店志向など何度か梃入れを図ったがいずれも空振りに終わり、近年は系列専門店に移管する部門もあって売場の縮小が加速している。

業態戦略の蛇行がモール効果を打ち消したイオンリテール

 イオンリテールの場合は度重なる部門分類の変更で衣料品シェアの推移が明確でないが、イトーヨーカ堂のような自滅行為がなかった事に加え、モール戦略で商圏を拡張した効果もあって90年代の凋落は顕著ではなく、むしろ00年代に入っての「しまむら」や「ユニクロ」による浸食が大きかった。加えて、モール戦略の成果である商圏と客層の拡大をGMSの業態戦略が蛇行して取り込めず、衣料部門の衰退を招いた事が指摘される。
 イオンはデフレ局面に対応して01年以降、エブリデイ・ロープライスを標榜してスーパーセンター型店舗戦略を押し進め、衣料品フロアもSM型の集中レジ方式に切り替えて低価格政策に徹したが、これはモール戦略による商圏と客層の拡大効果を打ち消してしまう嫌いがあった。ところが景気が上向いた06年以降は一転してPBショップ群を中核としたアップスケールなイオンスタイルストアに切り替え、接客を重視したショップ展開でPBの拡販を狙ったが、販売効率が低位に留まって運営コストが肥大し、大幅な修正後退を余儀なくされた。さらに10年秋からは平場部門を専門店化してグループ専門店とモール的に複合するというGMS解体・専門店複合化戦略に踏み出しているが、戦略を裏付ける専門店運営技術の欠如とモールと較べての魅力の格差で販売効率が低位に留まるリスクが指摘される。
 このGMS解体・専門店複合化戦略は00年12月にモンゴメリーワードを破綻に追い込み、近年はJCペニー前経営陣の改革を行き詰まらせる結果となったが、今、全米流通業が注目するロン・ジョンソンCEOによるJCペニーの‘革命’は果たして成功するのだろうか。

JCペニーのハイブリッド革命は成功するか

 前経営陣のラルフ・ローレンやリズ・クレイボーンなど有力アパレルとコラボした独占PBによるブランドショップ複合化戦略が販売消化体制が伴わず365日、毎日バーゲン状態に陥って行き詰まり、アップルストアを成功させた立役者たるロン・ジョンソンを全米業界最高額の年俸でCEOに招聘したJCペニーの‘革命’が流通業界のみならず全米の注目を集めている。
 ロン・ジョンソンの革命は、スティーブ・ジョブズの「Simple is best」の理念をベースにIT&ウェブビジネスの発想とテクノロジーを導入して店舗小売業を一変させようという「ハイブリッド戦略」に他ならない。独占PBを中核に「セフォラ」や「ジョー・フレッシュ」まで導入するメインストリート戦略やEDLP戦略の成否はともかく、ICタグを全面導入してのレジレス化やAR技術を駆使したプレゼンテーションやO2Oだけでも十分に注目される「ハイブリッド戦略」だ。
 しかし、「セフォラ」や「ジョー・フレッシュ」など魅力的なコンテンツが加わると言っても独占PB主体のメインストリート戦略はストアをイン・モールと化すGMS解体・複合専門店化戦略であり、前経営陣が行き詰まったと同じ隘路が待ち受けている。それは日本のモールと同様、キーテナント内インショップの客数と販売効率がモール面とは格段に落ちる事、AVソフトやアプリケーションソフトなど在庫が存在しないデジタルコンテンツで成り立ったアップルの在庫レスなベンダーマネジメントが買取制度のアパレル分野では成り立たず、売場で陳列訴求し再編集して売り切って行く在庫運用技術の壁が前経営陣同様に立ちはだかるからだ。ハイブリッドなAR技術を駆使しても販売消化が格段に進む訳ではないから、前経営陣同様、365日バーゲン状態に陥るリスクを否めない。
 その指摘はイトーヨーカ堂にもイオンリテールにも共通するもので、如何に突出した戦略やハイテクを駆使しても在庫の販売消化という壁は避けられず、陳列訴求と再編集運用、キックオフからマークダウン訴求に至る売価変更というアナログな運用技術が問われる。イトーヨーカ堂の例を持ち出すまでもなく、これらを軽視しては店舗小売業は成り立たない。如何にIT技術を活用しウェブとのハイブリッドを押し進めても、アナログな現場運用技術を欠いては戦略は水泡に帰してしまう。GMSに限らず、すべての小売業にとって生命線たる技術体系とは何か、原点に帰って戦略を再構築すべきではないか。

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