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ブログ論文(アパログ2017年11月1日付)
『やっぱり「蟹工船」だった!』
小島健輔 (株)小島ファッションマーケティング代表取締役

 横田増生さんから届いた新著「ユニクロ潜入一年」を一晩で通読した。最高裁まで争われたスラップ訴訟の辛酸を経ての新著だけに柳井正氏という専制的経営者への批判が通底していたが、私には販売する商品を悉く店舗に運んで積み上げる‘チェーンストア’という前世紀の非人間的流通システムの実態を赤裸々に描いた現代の「蟹工船」と読み取れた。
 賑わった週末の閉店後、終電間際まで延々と顧客の崩した陳列を畳み直し続ける無意味な(生産性の無い)労働、数百のパッキンを危なっかしい台車で搬入してストック室に積み上げる重労働を伴う粗雑な店内物流、その重なり合ったパッキンから1日に何度と無く顧客の求める一点を探し続ける気の遠くなるような在庫探し、毎日のように新商品が入荷する度に既存商品の陳列を組み直して新規商品の棚を空ける空虚な陳列作業、・・・・・これが我が国最大最強のSPA企業の実態なのかと目を疑うような有様がこれでもかと綴られている。
 そこで働く店舗労働者は‘時給泥棒’と言わんばかりの高圧的な管理下で一分一秒でも速い作業を要求され、会社の都合で繁忙時には長時間の労働シフトを組まれる一方、売上が低迷すると‘経営危機’と脅されて勤務時間を圧縮される。そんな労働が生産性に繋がる有意義なものならともかく、私には前世紀の旧態な店舗運営ゆえの‘無駄働き’に見える。
 ハイテク進化で無人運営のコンビニが現実化する今日、百年一日の人海戦術運営のまま巨大化した「ユニクロ」というアナクロな存在はもはや悲劇でさえある。日本でも今から34年も遡る83年に西友が当時の最新技術を駆使した「メカトロスーパー」(能見台店)で店舗運営の効率化にチャレンジした事を思うと「ユニクロ」の化石化した店舗運営は‘人為的放置’としか思えない。
 これは柳井正という経営者の人格的問題ではなく、進化の止まったリテラシーの為せる災いだと思う。それが「ユニクロ」という船団で労働する人々の幸福を阻害しているとしたら、リテラシーの壁を破る‘革命’が必要なのではないか。
 百年も前に確立されたチェーンストアという労働集約的多店舗運営の古いリテラシーが「運動の第三法則(作用・反作用)」に背を向けた‘セルフサービス’という神話の存続を許し、あたかも顧客が購買労働(陳列棚からピッキングしてレジまで運び持ち帰る物流労働)を負担するだけ販売労働が軽減されるがごとき錯覚で経営される小売業を存続させて来たが、購買労働の負担を嫌って顧客が圧倒的利便のECに流れ、物流センターのような店舗労働(品出し・棚入れ・棚整理・補充・在庫探し)と購買労働が対で等しい負担である事が露呈した今日、もはや抜本的‘革命’が避けられない。
 顧客のためにも店舗労働者のためにも、「ユニクロ」のみならず総てのチェーンストアは‘物流’という呪縛を断ち切って‘商物分離’の販売システムへ変貌を急ぐべきだ。たとえITで無人化しても‘物流’が伴う限り人海戦術の店舗労働はなくならない。ショールームストアやデジタルカタログストアがその回答であり、店舗とECが連帯する‘真のオムニチャネル化’でもある。
 店舗が‘物流センター’のままでは現実の物流センターやフードサービス店のように外国人労働力に依存するしかなくなってしまう。チェーンストアが「蟹工船」のままでは日本人が働く職場ではなくなってしまうのも時間の問題だ。
 

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