小島健輔の最新論文

ファッション販売2003年3月号掲載
『勝ち組バブル出店の清算』
(株)小島ファッションマーケティング代表取締役 小島健輔

勝ち組大量出店にブレーキ

 「ユニクロ」に続いて「マクドナルド」「スターバックス」「コムサ・イズム」と、勝ち組の大量出店にブレーキがかかっている。先行して大幅な既存店前年割れに陥った「ユニクロ」に続き、これまで破竹の勢いで大量出店してきた勝ち組が既存店前年割れに陥り、出店ペースを抑制せざるを得なくなっているのだ。
 「マクドナルド」「スターバックス」は外食産業が9年連続して前年を割り続けて既存店売上が22.2%も落ち込む中、前者は93年末の1,041店から2002年末には3,890店と9年間で2849店も増加。後者も2001年、2002年と100店超の出店を重ね、2002年11月末には424店に達している。
 過激な出店攻勢と価格破壊でライバルを蹴散らし、2001年度時点で国内ハンバーガー市場の68.1%を握った日本マクドナルドだが、既存店売上は2001年10月以降、水面下で推移。2002年2月〜7月は2ケタ減と最悪の状態に陥り、2002年6月中間決算は13.9%の減収、80.5%の経常減益と暗転してしまった。
 スターバックスコーヒージャパンの既存店売上も2001年8月以降、マイナスが続き、上半期トータルでは14%も減少。2002年9月中間決算は出店を継続して21.5%の増収を確保したが36.6%の経常減益に陥り、通期では5億円の当期純損失となる見込みだ。
 日本マクドナルドは2003年は大量出店から一転して176店の閉鎖を予定し、2002年12月決算で閉店に伴う49億3100万円の特別損失を先行計上。スターバックスコーヒージャパンも出店の大幅縮小を余儀無くされている。
 出店バブルの清算を迫られているのは彼等だけではない。2001年10月から大幅な既存店二桁減に転落した「ユニクロ」は既存店売上の28.6%減が直撃し、2002年8月期の売上高は前期比18.4%減の3,416億円、経常利益は同47%減の547億円と大幅減収減益となった。
 98年以降の5期間で276店から570店と店舗数を倍増させ、ピーク時の2001年8月期には4,186億円と98年から5.58倍にも売上が急増。国内アパレル専門店売上の4.65%という限界的な占拠率に達していた。本来の郊外生活圏ポジションであれば2002年8月末時点の570店(FC含む)はまだ飽和点に遠いが、都心進出でブーム化した極端な販売効率の冷却は避けられなかった。郊外生活圏店舗はまだまだ出店可能だが、ブーム期の販売効率を前提に出店してしまった都心店や大型SC店の清算は今後の収益性に重くのしかかるはずだ。
 それは、同期間に147店から285店に増加した「コムサ・イズム」とて同様だ。店舗数の伸びは二倍に及ばないが、この間に平均面積も平均売上も倍増しているから、実質は店舗数が4倍になったに等しい。「ユニクロ」ほど急激な拡大ではなくMDの拡充も伴っていたが、出店立地が郊外大型SCに集中していた事が飽和感を強めてしまった。そのリスクを回避すべく都心立地の「コムサストア」に売場増加を分散しているが、郊外と都心が相乗して飽和感を高める懸念は否めない。

大型SC開発ラッシュ後の立地多様化

 好調な勢いに乗って大量出店を重ねたのは彼等だけではない。大型SC開発ラッシュに乗って大量出店してきた他の勝ち組の中にも、既存店の売上減少に直面するケースが少なからず見られる。郊外型SCではファミリーキャラクター系、ターミナル型SCではトレンディミックス系のSPA業態にそれが目立つ。
 92年から大型店出店空白期間入り直前の2001年1月末までの9年1月間にオープンしたSCは総計1,026SC、総面積は1,660万平米にも及ぶ。2002年末時点の全国2,653SCの総面積は3,870万平米に達しているが、92年以降に開設されたSCだけで1,802万平米と約46.6%を占めている。新設SCの多くは郊外立地であり、全SC数に占める郊外SCのシェアは90年末の37.9%から2001年末には49.9%まで上昇した。
 景気低迷下の売場面積急増は当然、販売効率の低下をもたらした。91年から2001年の10年間にSC面積は82.5%も増加して、坪販売効率は28.5%も低下している(日本SC協会)。その中でも勝ち組は既存店売上を伸ばしてきたが、モールの同質化と大量出店による飽和感、景気の底割れが重なって前年割れが目立ち始めたのだ。
 出店立地は既に大型SC開発ラッシュ後の分散化へと動いている。郊外ではコミュニティの交流と良質な生活消費の場としてのライフスタイルセンター、あるいは手軽で効率的な近隣消費の場としてのコンビニエンスセンター、都市ではターミナルの多様なSCから個性的な裏通り、そしてコンビニ銀座まで、出店立地は急速に多様化しているのだ。
 特定のSCタイプに集中してステレオタイプな出店を続けていては飽和感は避けられないし、立地の多様化にも取り残されてしまう。多様な立地に対応できる柔軟な品揃えと精度の高い個店対応という新たな局面へと、専門店やSPAのチェーン展開は変容を求められているのではないか。

高くつく出店バブルの清算

 勢いに乗っての出店は二つのリスクを抱えがちだ。ひとつは過剰な自信から過大な売上を見込んでしまう事で、人気が冷めれば損益分岐点を大きく割り込むような物件にも手を出してしまう。もうひとつは頂点の高い販売効率を前提に強気の出店条件を押し切ってしまう事で、人気が冷めて販売効率が低下すればシビアな条件改定要求が待ち受けている。
 人気商売の性格が強いラグジュアリーブランドでは、絶頂期に12%だった百貨店の歩率が凋落すれば24%と倍になってしまうようなケースがざらにある。百貨店側からすれば、販売効率が半分になったのだから歩率を倍にしないと同じ坪家賃が得られない訳だから、当然と言えば当然だ。これと同じようなケースが勝ち組の出店条件にも見られるのだ。
 絶頂期の「ユニクロ」は12%どころか、「ギャップ」に張って共益費や販促費込みで8%といった超強気の条件をデベロッパーに強いていたが、販売効率がピークの六掛け程度まで下落して五掛けまでの下落が見込まれている現状での条件改定は15%が下限とならざるを得ない。大幅な販売効率低下の割りには収益の低下は小さく見込まれているが、家賃条件の改定サイクルが来れば不動産費の圧迫で収益力は一段と低下するだろう。
 家賃改定サイクルはファッションビルや駅ビルでは2〜3年と短いが量販店系SCでは5〜6年という長期のケースもあり、販売効率低下による不動産費上昇は改定サイクルの組み合わせによって表面化する速度が異なる。遅かれ早かれその時が来て、改定条件を呑むか退店するかの選択を迫られる事になる。
 最終的な清算にはさらに絶望的な費用がかかる。退店には少なからぬ除却損が発生するし、デベロッパーによってはペナルティ条項を適用される。その多くは『後継テナント入居までの保証金返還据え置き』程度のものだが、中には『保証金の減額返還』『残存基幹家賃の一定額徴収』というシビアなケースもある。
 ナショナルチェーン専門店はバブル期の大量出店の清算に10年近くを要したが、当時は保証金の『出店後10年据え置き、11年目から10年均等返還』が常識で退店しても保証金が戻らず、その財務的負担で動きが取れなくなったという側面がある。今日では保証金の絶対水準が当時の四掛け以下になり、施設によっては敷金だけで済む契約も増えて来たから、かつてのような悲惨な事態とはならないが、それでも財務的負担は小さくない。 

拡大を自制する勇気が必要

 近年の勝ち組の多くも、結局はかつてのナショナルチェーンと大差ない轍を踏みつつある。勢いに乗っての大量出店が何時の頃からか実力と乖離したバブルに変質していくのに、経営陣はなかなか気付かないばかりか、既存店売上が減少に転じても、それを穴埋めするために大量出店を継続するケースさえ見られる。それが傷を大きく広げ、成長力の回復を遅らせてしまう悲劇を幾度となく見て来た。
 『あの時、ブレーキをかければよかった』と後悔しても、覆水は盆に返らない。多業態化するのか既存店を再強化するのか、いずれにせよ大量出店を見直すべき時点はあったはずだが、勢いに乗る者は警告に耳を貸しはしない。壁に激突して始めて警告の意味を理解するというのが、残念ながら実態なのだ。
 米国においてはリミテッド社が大量出店と多業態化の果てにスピンアウトとリストラの長いトンネルに入らざるを得なかったし、ギャップ社にしても「ギャップ」と「オールドネイビー」の大量出店とポジション交錯の果てに2002年上期までの5半期間も低迷し、世界最大のSPA企業を築きあげた偉大なCEO、ミラード・ドレクスラー氏の退任を招くはめになった。
 勢いの絶頂においてマーケットや内部の変調を察知して拡大を自制する勇気こそ、経営者に欠くべからざる資質なのではないか。勝ち組の変調を眼前にして、明日は我が身と冷静になる事も必要なのだ。 

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