小島健輔の最新論文

販売革新2006年9月号掲載
『失敗しない秋冬衣料のMDストーリー』
(株)小島ファッションマーケティング代表取締役 小島健輔

 ようやく秋冬商戦が立ち上がったが、気紛れな消費者と天候に振り回されて右往左往するのが毎年の実情だ。プレ・コレやクルーズの拡大といった世界的なコレクションシーズンの変化と温暖化などによって秋冬期は年々、短くなってきており、過去に捉われないMD展開の構築が求められている。主力となる婦人服部門について、MD展開のポイントからコート商戦の運用まで骨組みを提示しておきたい。

秋冬商戦の流れを展望する

 今夏は6〜7月がぐずついて盛夏物がダブつき、梅雨明け遅れで盛夏物が盛り上がらないまま消費者の関心は晩夏・初秋物に移った。元々、夏物はGW明けから立ち上がって6月いっぱいプロパー展開し、7月1日頃からバーゲンになる(欧米もほぼ共通)。6月も後半からはバーゲン待ちの買い控えが避けられないからプロパー販売期間はせいぜい6週間しかなく、結局は過半をバーゲン処理せざるを得ない。そこで、目先の効く企業は夏物を最小限に抑え、バーゲンと並行して値頃企画を展開したり晩夏物に山をかける事になる。
 最近は秋色・夏素材の晩夏物(御盆から値下げして8月中に売り切る)、秋トレンドの初秋物(9月いっぱいプロパーで売って体育の日の連休に値下げして売り切る)を仕掛け、秋を飛ばして一気に冬物に移るストーリーが主流となりつつある。欧州市場では晩夏・初秋はなく、夏物バーゲンの後はバカンスシーズンの開店休業期間を経て8月末から一気にウールコートまで秋冬物が立ち上がる。米国市場ではやや夏物バーゲンが早く、7月後半にはバック・トウ・スクール(晩夏物に相当)が立ち上がる。これが9月第一月曜日のレイバーデイ前の週末からセールになり、休み明けから秋冬物が一気に立ち上がる。
 秋色の紡毛ウール/ボンディング/キルティング中核の冬物は春色の獣毛混/キルティングの梅春物が11月始めに立ち上がると一気に陳腐化するから、これもプロパー販売期間は11月前半までの6〜7週程度と見なければならない。その後はパステルやモノトーン中心の防寒アウターに春色のネック物ニット/カットソーをコントラストする梅春物が主役となる。ゆえに冬物の仕込みを抑えて切り上げも早め、梅春物を明確に構築して11月第2週には立ち上げる。梅春物のコートは年明けにもう一山あるから、12月中旬に二次投入を行う必要がある。
 11月末にはクルーズ(クリスマス休暇向けのリゾートウエア)も立ち上がるが、ブリッジ以上の高級品に限定される。日本市場では12月末の初春物(多少の防寒性もある肉厚の春物)の立ち上がりをもって梅春物のプロパー展開が終わり、年明けのバーゲンに突入する事になる。
 旧来の常識とは少し異なるかも知れないが、これが最新情勢を反映したプロパー消化重視のストーリーだ。月指数も若干、前倒しに修正し、プロパー販売期間から逆算して仕込み額を算出すればよい。

トレンドとアイテムの展開

 ヤング系ではモダン・ブリティッシュや80’Sディスコモード、70’Sレトロスクール、フォークロア、OL系では60’Sスインギン・ロンドンや70’Sモダン・エレガンス、80’Sマスキュリン、インペリアル・ロマンティック、ミッシーではネオクチュール&ロマンティック、70’Sモダン・エレガンスやインペリアルモード、フェミニンスポーツが確実なトレンド。今シーズンはコレクションブランドの多くが最初から全ラインを打ち出す傾向が強く、期初から各テーマが市場に出揃ってしまい、季節性で強弱しながら並走する展開になりそう。短射程でトレンド変化を訴求するMD手法は苦しいのではないか。 
 有望アイテムは、ヤング系ではジップブルゾンやダウンベスト、ミドリフ丈のアウターやボレロ、サスペンダーパンツ/スカートやジャンパースカート、チェックのミニスカ(ヒラミニやプリーツミニ)、スキニーデニムやタイツ、ニットのケープ&ポンチョやアウターなど。OL系〜ミッシー系ではニューボリュームなショートジャケットやウエストマーク・ジャケット、インペリアルジャケット/ブルゾン、ハイウエストなタイトスカートやボリュームスカート、スキニーパンツ/レギンス/ワイドパンツ、ガウチョパンツ、パフスリーブ/ボータイのブラウス、ジャージ・ドレスやニット・ドレスなど。どの客層でもタートル/ポロネックなどのスポーティなジャージ・トップスがパワーアイテムとして継続しそう。
 防寒アウターの前半では綿トレンチコートやショート丈ダウンブルゾン、ニットコート、後半ではロング丈ダウンコートやウールのロング丈Wブレストコート(ツイードやメルトン)、ウールの胸下切り替えAラインコートなどが有望。どのコートでも取り外しのファーが付くタイプを忘れてはいけない。コート軸の有望ルックを客層別にイラストに示しておいたので、参考にして欲しい。
 MD展開手法としては、アウターやボトムではディティール展開や素材替え展開、トップスやドレスではディティール展開や柄替え展開がほとんどだから、計画的素材手当てが不可欠(いまさら遅いが)。加工展開は極端に後退するから、過去数年の主流だった流通素材活用の短射程後加工MDは威力を発揮しようがない。カラー展開もダウンブルゾンやカットソートップスの一部に限られる(来春夏ではニュートラ大復活でカラー展開が急増するが)。

コート商戦の見せ方/くくり方

 コートというとシングルラックに詰め込むパワーアイテム展開を立ち上げから期末処理まで通すストアも多いが、これでは展開段階に適した販売訴求は出来ない。立ち上げから処分まで、1)ルックで見せる→2)アイテムを訴求する→3)類似アイテムをまとめる→4)素材でまとめる、といった見せ方シフト/再編集が必要なのだ。

 1)ルックで見せる
 立ち上げ時はトレンチコート/ダウンコート/Wブレスト・ロングコートなどのアイテム別に定形ルックを組み、ニットやボトムなどお相手アイテムの売場にランウェイラック・ディスプレイを仕掛ける。分散配置にはなるが、旬のアイテムとコーディネイト訴求して次の購買に繋げるサイクルと位置付けられる。
 2)アイテムを訴求する
 実売期に入るとカジュアルコート/ウールコートとまとめ、各アイテムをラック別にパワーアイテム訴求する。この段階では前サイクルとは逆に、主に衿ものニット/カットを元番地から持ち出し、各コートアイテム毎にひとつの品番に絞ったインナーを補色対比で組み込んでカラー配列する(フォ・カマイユ対比や明暗対比も可)。組み込むのはマフラーやストールでも良いが、対比を組んでのカラー展開は不可欠だ。
 3)類似アイテムをまとめる
 売り切りサイクルに入ると消化が進んだ類似アイテムをまとめ、前サイクルと同様にインナー組み込みでカラー配列訴求する。色切れも進むから、品番をばらしてカラー順に配列すれば、ちょっと見には前サイクルと同じように色が揃って見えるはずだ。  4)素材でまとめる
 処分が進むと色切れが激しくなり、.類似素材アイテムをまとめてカラー配列する。この段階になると素材がばらけてインナーを差し込むと乱雑になるから、コート単独でのカラー配列に切り替える。残量がわずかになれば、初春の新鮮インナーを差し込んでコントラストをつける‘カンフル差し’という消化促進方も使える。

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 このような再編集手法/陳列手法はコートに限るものではなく、各シーズンのパワーアイテムに共通するものだ。但し、インナー組み込みでは素材対比とカラー対比を組まないと効果が限られるし、コート単独でのカラー配列も色環表が頭に入っていないと上手く組めない。素材対比もカラー対比もシーズンやトレンドで変わって行くから、旬の情報が不可欠である事は言うまでもない。カラーや素材の基本研修に加え、日頃からファッション誌にはまめに目を通しておく事だ。

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