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ブログ論文(アパログ2017年10月05日付)
『あの「しまむら」がEC進出?』
小島健輔 (株)小島ファッションマーケティング 代表取締役

 大手チェーンの中で唯一、ECに距離を置いてきた「しまむら」がついに来年からECを始めるそうだ。ECと言っても第一段階では店頭の‘客注システム’で取り寄せた商品を店舗で支払って受け取る方式で、第二段階でスマホやPCから予約出来るようにするが支払いと受取はやはり店舗に限定すると言う‘疑似EC’だ。ネットで発注も決済も完結して宅配するECはシステム構築の費用や運営経費が嵩むため検討段階としている。『ECを始める』とは言っても今時希有な及び腰だが、「しまむら」が今までECに手を出せなかったのには相応の理由がある。「しまむら」がECに躊躇してきた理由は以下の三点だったのではないか。
1)近隣ロードサイドの規格店舗をパート主体で運営して営業経費率が24.7%(17年2月期)と極めて低く、不動産費負担の重いテナントチェーンのようなECのコストメリットが見出せなかった。平均単価が900円弱と低いためBtoCの出荷コスト/宅配コストを吸収し難く、店舗販売より高コストになる可能性が高かった。
2)生産地で仕分けられたパッケージを店別に組み替えるクロスドッキングだけの「しまむら」のTC(トランスファーセンター)にはDCのようなピッキングヤードが存在せず、ECで受注した商品は顧客の指定するピックアップ店舗の在庫から引き当てるか近隣店舗の在庫を店間移動するしかないが、それでは店舗の消化管理精度が狂いかねない。売り切り御免の一蒔き投入ゆえ店在庫の奥行きもなく、ECの注文を想定して店在庫を積めば消化管理精度が維持出来なくなるリスクがあった。
3)経験則を積み上げた精緻なアルゴリズムによる「しまむら」の在庫コントロールシステムは支払い管理会計システムと一体化したERP型のはずで、24時間オンラインで受注を引き当てるECを始めるには膨大なシステム投資が避けられなかった。
 1)3)はともかく2)の事情は「ZARA」との共通性が指摘される。すべての商品をスペイン国内のPTC(プロセストランスファーセンター)で物流加工して仕分け、世界中の店舗に直送して一蒔きに徹する「ZARA」にはECに対応する消費地DCも在庫もピッキングヤードも存在せず、SMIで消化管理する店舗在庫をEC受注に引き当てる訳にもいかず、ECを始めるに当たっては各国各地域にEC専用のフルフィルセンターを設け、店舗在庫とは切り離して運用する方法を選択した(店舗受取は出来るが店舗在庫は引き当てない)。「ZARA」とは異なるCMIとは言え、TCでクロスドッキングして一蒔き投入に徹する「しまむら」にもピッキングヤードやストック在庫が存在せず、本格的にECを始めるなら「ZARA」のように店舗への在庫配分や物流と切り離したフルフィルセンターを各地域に設ける必要があった。
 『既存の物流体制とは切り離し店舗在庫は引き当てず、ベンダーから直接、店舗に納品させる‘客注品’取り寄せ方式でスタートする』そうだから、既存の物流体制の効率も在庫管理の精度も損なうリスクはないが、ベンダー側は「しまむら」のロット発注とは別に‘客注’向けの在庫を備蓄する必要が生じる。「しまむら」との取引は「完全買取」の現金払いゆえ廉価で良品を供給するサプライチェーンが成り立っており、ベンダーに在庫負担をさせるとなるとサプライチェーンの効率を損なうリスクがある。それを避けるべく『対象商品を絞る』としているから、ECの根幹である「品揃えの拡張」メリットはまったくなく、‘疑似EC’とは言っても‘客注品取り寄せサービス’のオンライン化でしかない。これでは『ECを始めます』ではなく『当分、ECはやりません』と宣言したようなものだ
 元より「しまむら」にとってECを始めるメリットはSNSによる拡散効果に較べれば大きくない。むしろ周囲がECを拡大して顧客の購買慣習が一変する中、防衛的な色彩が強いのではないか。「しまむら」のスプレマシー・ポイントは全国二千余の生活圏に密着した下駄履き消費拠点であり、主婦層にとってはコンビニ以上のラスト・ワンマイル拠点に違いない。それを最大限に生かすのは『最大限の品揃え拡張』であって、限られた自社商品(どころか‘客注対象品’)の受け取り利便などという矮小な次元ではない筈だ。
 「しまむら」がやるべきECは自社コンテンツという狭い了見に囚われず世の全てのEC商品(物流や受け渡しの効率を考慮すれば「しまむら」の扱い領域品目)であるべきで、下駄履きアクセス(今風ならジャージ履きアクセスか)の「しまむら」で広範なEC商品を試して受け取れるなら、それで全ての蛇口を押さえることが出来る。限られた自社商品を売るより世の全てのEC商品の蛇口となるTBPPプラットフォーマーに化ける方がはるかに賢明だと思うが如何だろうか。

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