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商業界オンライン 小島健輔が指摘
『ワールドのOPSはハイブリッド型だった』(2019年09月25日付)
小島健輔 (株)小島ファッションマーケティング代表取締役

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 ワールドとゴードン・ブラザーズ・ジャパンの合弁会社アンドブリッジがオフプライスストア「アンドブリッジ」1号店を9月14日、「にしおおみやファッションモール」に開業した。4月25日に開業したゲオクリアの「ラックラック クリアランスマーケット」に続く大手アパレルの参入で、わが国でもオフプライスストア(OPS)に火が付くのではと期待されるが、「アンドブリッジ」1号店は課題が山積だった。

オフプライスストアの2タイプ

img_a403f80dba235684bb420eb98a3793c2837424「アンドブリッジ」1号店がある、にしおおみやファッションモール

「アンドブリッジ」1号店が出店した「にしおおみやファッションモール」はしまむらが自社業態の集積に他社業態も加えて営業している日本には数少ない“ストリップモール”で、米国ではTJXやロス・ストアーズなどOPSが主力出店立地の一つとする近隣型のロケーション。しかもワールドのアウトレットストア「ネクストドア」が営業していた跡に出店したもので、ワールドはアウトレットストアとOPSを近似した業態と捉えているようだ。

 自社の売れ残り品を処分するのがアウトレットストア、他社の売れ残り品や過剰在庫を仕入れて販売するのがOPSで、前者は広域型のアウトレットモールを立地とするが、後者は2つのタイプと3つの立地が考えられる。

A)広域ブランドDS型[立地は2タイプ]

 リージョナルどころかインバウンドまでカバーする広域型はグローバルブランド集積型アウトレットモール(プレミアムアウトレット)、あるいは大都市都心部の裏通りを出店立地とするもので、著名ブランドのグローバルな調達とブランドぞろえが要。絶対的な低価格よりディスカウント率のインパクトが問われる。顧客はアウトレット感覚で宝探しするので、著名ブランドなら色やサイズが欠けていても構わず、小売店の売れ残り品でも良い。ノードストロムの「Rack」が自社百貨店の著名ブランド売れ残り品の魅力で急成長したことからもブランドDS型の性格がうかがえる。

 アウトレットモールでもローカルブランド集積型(アウトレットパーク入間など)は出店立地とせず、ニューヨークや東京など都心部の裏通りにキャリー品に特化して倉庫型の大型店を構えるケースも見られる。

B)近隣プライスライン訴求型

 生活圏の日常消費に対応するもので、米国ではストリップモールが主力立地だが、わが国では近隣型のSCやロードサイドが主力立地となるだろう。衣料スーパーより見知ったブランドがそろい、古着店よりキレイで色やサイズがそろった品揃えが魅力で、ブランドぞろえよりジャストシーズンなアイテムぞろえ、オフ率より絶対的な低価格プライスラインと色/サイズぞろえが問われる。

 小売店の売れ残り品は色やサイズが欠け個別検品も必要になるから不向きで、国内調達の「Packaway」(メーカーやOEM業者放出の色・サイズ・ロットがそろった売場未投入品)が主力となる。プライスラインとクオリティが見合っていればブランドタグを外したノーブランド品でも売れるのは、ブランドDS型とは対極の性格を現している。

広域ブランドDS型とはかけ離れている

「アンドブリッジ」1号店の売場面積は990平米。スケルトンにモルタルを吹き付けただけの天井からLEDスポットのスライドレールを吊るし、足場用と思われる鉄パイプフレームで陳列ラックを組み上げた倉庫型の店舗は見るからに低コスト。恐らくは照明や空調まで含んで4500万円ほどで収まっているのではないか。

 そんな中に所々、クラシックだったりモダンだったりさまざまな意匠の演出什器が点在しているのは皆、閉店したワールドの店舗の残滓で、殺風景になりがちな倉庫型店舗の洒落たスパイスとなっている。リユース・リサイクルのコンセプトとも合致しており、違和感は感じなかった。

 商材はゴードン・ブラザーズ・ジャパンが日本国内で調達してワールドのMDが選別した約1万点で、ウィメンズ/メンズ/キッズの衣料品が65%、服飾雑貨や生活雑貨、一部コスメなどが35%。40社の60ブランドをそろえたとするがOPSとしては絶対的にバラエティが不足しており、売れ筋が抜けてしまえばすぐに売れ足が鈍ってしまう。著名ブランド品は「HACKETT」「LANVIN」「GAS」など国内展開のライセンスブランドばかりで、調達が国内に留まっていることが分かる。 

img_937e11363d94c9da7db609e8e259592c1335126「インポートセレクト」の売場

 衣料品や服飾雑貨では「THE SHOP TK」「INDEX」「グローブ」などワールドのアウトレット品が目立つが、比率は30%程度だという。今後はバイイング比率を高めてワールド色を薄め、OPSを確立したいとしているが、立地からして自社アウトレットストアの「ネクストドア」の跡であり、アウトレットとOPSのハイブリッドストアという性格が残るのではないか。

 せっかくグローバルな調達に強いゴードン・ブラザーズと組んだのにゴードン・ブラザーズ・ジャパンの国内調達品に限られているのも中途半端で、ワールドのブランドもSC/駅ビル系に限られていることと合わせ(「UNTITLED」など百貨店ブランドは避けている)、少なくとも「広域ブランドDS型」とはかけ離れている。

近隣プライスライン訴求型にも徹せず

 グループ企業でユーズド品のセレクトショップ「RAGTAG」を展開するティンパンアレイの二次流通ノウハウも活用するとしているが、同社の調達は顧客からの買い取りが主流で著名ブランドを訴求しており、色・サイズ・低価格がそろった「Packaway」による「近隣プライスライン訴求型」とはかけ離れている。といっても著名ブランドのグローバル調達も期待できず、「広域ブランドDS型」にも使えない。

 ブランドぞろえと並んでOPSの魅力や性格を左右するのが「旬」の品揃えだが、「アンドブリッジ」立ち上がりの構成は「今期品」が20%、「前年キャリー品」が60%、前々年以前の「旧品」が20%と、これも方向性がはっきりしない。通常の二次流通品は前年以前のキャリー品ばかりで、オンシーズンの「今期品」は意図して取り組まない限り、入手が難しい。「今期品」20%はワールドの期中アウトレット品で、鮮度を求めるとワールドのアウトレットストアに寄ってしまうが、「近隣プライスライン訴求型」ならそれでも良いのではないか。

img_8b4f81d33753fdfc9666a154eda1be451113504古着屋的な色環配列をしている

 VMDも古着店に見られるアイテム集積の色環順陳列主体で、サイズ切りや価格切りのアイテム訴求も正面のブランド切り訴求もなく、プライスライン訴求やオフ率訴求のPOPも全くなく、「近隣プライスライン訴求型」とも「広域ブランドDS型」ともかけ離れている。良くも悪くもアウトレット店や古着店のVMD手法を組み合わせた「手作り」で、オフプライス業態としてのVMD体系は見えなかった。

「アンドブリッジ」1号店は大手アパレルのワールドが外資在庫処分業社のゴードン・ブラザーズと組んでOPSに進出したことは注目されるが、オフプライス業態としての戦略的方向性が曖昧で、立地も品揃えも売場のVMD運用もどっちつかずというハイブリッド性が指摘される。

売上仕入れの皮算用

 ゴードン・ブラザーズ・ジャパンとの取り組みはグローバルな著名ブランド調達に直結するものではなく肩透かしの感があったが、別のメリットがあるようだ。

 ワールドの発表によると初年度売上予算は3億円(年100万円/坪)と控えめだが、これは「しまむら」の水準とほぼ同じ。この立地では平均的な効率だ。それでいて年間8回転も在庫が回ると見ているが、それでは坪12.5万円しか在庫を置けない。「近隣プライスライン訴求型」に徹するにしても品揃えが薄過ぎるし、「広域ブランドDS型」だとこの3〜5倍を要する。

 何でそんな皮算用が成り立つのか、その秘密はワールドからの商品供給はもちろん、ゴードン・ブラザーズからの商品供給も大半が売上仕入れだからだ。ゴードン・ブラザーズの調達した在庫とワールドのアウトレット在庫からワールドのMDが選んで品揃えを組み、定期的に未消化分を引き上げて新たな品揃えを組んでいく。

 大半が売上仕入れだから、荒利が50%ということは調達原価も平均50%ということなのだろう。それで元定価の30〜70%オフで販売するのだから、平均50%オフと見ればアンドブリッジへの入り値は元定価の平均25%。ワールドがアウトレット部門に渡すレートもそんなものだろうし、ゴードン・ブラザーズの平均調達原価も10%程度だろうから、実際の消化回転はともかくウインウインの関係が成り立ちそうだ。

調達のバラエティと消化運用スキルが不足

 米国の大手OPSは世界中に調達ネットワークを張って二次流通業者のみならずメーカーや小売りチェーン、OEM商社や工場まであらゆるルートから調達しており、最大手のTJXは2万1000社と取引して今シーズンものの「Packaway」調達とメーカータイアップ調達(計画的過剰生産の横流し)で70%近いオンシーズン鮮度を訴求している。買取仕入れで年間6回転を回し、平均800坪の4300店舗で坪当たり1万6000ドルを売り上げている。

 そんな米国OPSの調達体制と比べると「アンドブリッジ」の調達体制は安易に過ぎてバラエティを欠き、売上仕入れでは消化を加速する再編集VMDやプライシングの運用スキルも育ちそうもない。日本企業に比べればトップダウンで現場の運用スキルも弱いと思われがちな米国の小売りチェーンだが、高収益企業の現場運用スキルはわが国の比ではない。TJXでも毎週のように新規投入と再編集VMD、プライシングの人海戦術が繰り返されており、それが在庫の6回転と32.8%の荒利、10.7%の営業利益を稼ぎ出している(以上、全て19年1月期)。

 小売業はITやファイナンスとは根底から事業構造が異なり、どんなにデジタル化しても現場の運用スキルがないと利益を稼げない。ゴードン・ブラザーズ・ジャパンとの合弁による売上仕入れというスキームはグッドアイデアだが、それでは稼ぐ運用スキルが育たず、OPSとして成長と収益を手にするのは難しいのではないか。

売場のレイアウトや運営人員にも課題

 売場のレイアウトも課題が多く、10時〜19時営業の300坪の大型店を総勢10人(正社員2人、パート8人、正社員換算で計7人?)で運営するのは無理があり過ぎる。

img_73ee2b55dd7a82ab71a1e5c4f6c3e48a552859「アンドブリッジ」1号店のレイアウト

      
 入ってすぐ右手にレジカウンターがあり、売場の編成は店頭から奥へ「ファッション雑貨」「生活雑貨&化粧品」、「婦人服」「紳士服」、「子供服」「靴」、「インポートセレクト」という4段配置で、3m近い背高のフィッティングブースが「婦人服」「紳士服」の後ろ側に横1列で全て奥側を向いて配置されている。

img_fe63a6f8a48654e232a6db06bd620afd1059432服飾雑貨の売場
          
img_7fc49616488997731f4fef3361b53e661221836服飾雑貨の売場
        
img_2668fe29ed1e3379be2b929e328308431102060婦人服の売場
       
img_d19a89129a57ed841aea0bd7ab8ee3c71187509子供服の売場
        
img_931e442686611bda117e452b2a1ab6711115305靴の売場
       
img_461d2e9b0dd582193cd7ac912fea8243990329後ろ向きに並ぶフィッティングブース

 島什器の陳列高も2mを軽く超えて視線は通らず、後方の靴売場も接客を要するから、常時、レジカウンター側に1人、靴売場からフィッティングブースにかけて最低2人、左右に各1人を置けば5人がミニマム保守人数で、週末の繁忙時には7〜8人を要するだろう。社員は通し勤務としても週休2日なら、入荷・品出しやフェイシング管理、週次の再編集VMD運用までは到底手が回らない。

 フィッティングとレジの配置関係を見直してミニマム保守人数を4人に抑えても、再編集VMDのスキルを確立すべくマテハン関連の人時量を積めば正社員は4人必要なはずだ。多店化して運用ノウハウが確立された後ならともかく、開発段階でこの運営人員はOPSの運営ノウハウを甘く見ているとしか思えない。あの無人運営コンビニ「Amazon Go」とて、開発段階ゆえ通常コンビニの倍以上の人員を張り付けているではないか。

 ワールドのOPS「アンドブリッジ」には解決すべき課題が山積しているが、それでも大手アパレルがOPS事業に参入したインパクトは極めて大きい。一つ一つ課題を解決して事業を軌道に乗せ、日本のOPS時代を切り開いてもらいたい。

 

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