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商業界オンライン 小島健輔からの直言
『百貨店が育てる裏流通』 (2018年12月28日付)
小島健輔 (株)小島ファッションマーケティング代表取締役

img_f0a7ccee5ed4187a8237286d26825ed7846558わが国百貨店はなぜ、米国百貨店のように本音で突っ走ろうとしないのか(写真はノードストローム・ラック)

 

 昨シーズンの厳冬とは一転しての暖冬であふれる防寒衣料を売り切るべく、アパレル業界と百貨店業界は年初と1月下旬の2段階でセールを仕掛ける。夏も似たような2段階セールを仕掛けて一定の成果があったと説明されているが、言葉通りには受け取れない。

建前と現実のギャップ

 夏の2段階セールでは、6月末に統一した第1弾は前年から前倒しになった百貨店もあって盛り上がったが、7月末の第2弾は他の商業施設でセールが一巡した後手に回り、売り手のアパレルは在庫を抱えて待ち切れず、顧客も購入予算を残して待ち切れず、期待値に届かなかった百貨店が多かった。

 過剰供給と値引き販売が定着してEC先行で年々、実質的なセール時期が前倒しされ、高級ブランドとて百貨店の期末セールを待つことなく早々と顧客限定のシークレットセールを始める昨今、需給の実態を無視して無理やりセール時期を後倒ししても顧客もアパレル業者も付いて来ず、ほとんどの商業施設でセールが一巡した後から2段階目のセールを盛り上げるのは無理がある。ましてや、2段階のセールのはざまにコートをプロパーで売ろうと図るのは売り手都合の幻想というしかない。

 売れ残り在庫が少ない人気ブランドはセールを急ぐ必要がないが、そんな人気ブランドほど次シーズン商品への切り替えも早く、セールを遅らせるといったん立ち上げた次シーズン商品を引き上げてセール商品を搬入し、セール後に次シーズン商品を再搬入するという二度手間を覚悟しなければならない。それも閉店後の夜間作業とならざるを得ないから労務負担も重い。セールを仕切る百貨店側はそんな修羅場には付き合わないから、アパレル業者の負担など見えていないのだろう。

 セールが先行するECや商業施設に商品を回さず、百貨店のセールまで虎の子の商品を倉庫に積んで待つのも業績の苦しいアパレル業者にはつらい。在庫が倉庫にあってもECでセール販売し、受注に倉庫在庫を引き当てて売り減らしているのが現実だ。「ギルト」などフラッシュセールサイトも同様な仕組みで、在庫を売場や倉庫から移動することなくECで販売し、受注してから移動して顧客に出荷している。そんな“仮想セール会場”に二股三股をかけて倉庫に積んでいるのだから、第2弾セール向けの商品が確保されているとは言い難い。

裏流通が肥大する必然

 ブランドメーカーや販売代理店、SPA事業者など正規の販売者が在庫を売り切れず二次流通市場に放出する量が増えているが、建前が現実と乖離する百貨店流通もその要因となっている。

 放出量が増えている根本要因は過剰供給と販売不振だが、業績の低迷で全額減損になる焼却処分の費用を負担できなくなり、多少なりとも換金できる二次流通業者への売却が増えているのが現実だ。小売業者とて売れ残りリスクの大きなオリジナル商品にばかり依存する状況ではなく、そうかといって正規仕入れ商品では利幅も回転も望めず、二次流通商品の調達を増やしている。百貨店とて、催事用に二次流通業者から仕入れたり催事に参加させたりするのが例外ではなくなっている。

 売り手も買い手も広がる二次流通市場だが、建前が現実と乖離した百貨店流通が二次流通への商品流出を慢性的に招いているという指摘は免れない。

 わが国の百貨店は1984年頃を境に委託仕入れが主流となり始め、2000年7月のそごう倒産を契機に販売時点まで商品の所有権が百貨店に移転しない消化仕入れに切り替わって行ったという事情がある。百貨店は限られた売場で売上歩合を最大化すべく、売れる商品、新鮮な商品だけを置くことをアパレル業者に要求するから、売れ残った商品や動きの鈍い商品は引き揚げて新商品に入れ替えざるを得ない。

 かつては引き揚げた商品を期末セールまで倉庫に寝かせ、百貨店のセールに合わせて売場に戻すという非効率なことをやっていた。近年の販売低迷でそんな余裕もなくなり、ECで販売したりアウトレットで処分するようになったが、それでも売り切れない過剰在庫が二次流通に放出されている。物理的な限界のないECではロングテールな販売が可能で、店頭より小幅な値引きやクーポンで処分が進むが、在庫が積み上がってしまうと二次流通業者への放出で換金せざるを得なくなる。

 実現売上げに歩合課金する消化仕入れという百貨店流通の仕組みが慢性的な過剰在庫を生み、衣料品市場の縮小と過剰供給でアパレル業者が抱える在庫が積み上がり、百貨店という非効率で成長性も欠く販売チャネルを維持できなくなってきた。百貨店チャネルからの撤収を断行したりECにシフトして撤収を進めるアパレル業者も増えており、建前を強いて納入業社を振り回す殿様商売を続けられる状況ではなくなっている。

米国百貨店は本音で突っ走る

 米国の大手百貨店はエクスクルーシブなセントラルバイイングでロット買取して店間移動と値引きで売り切る体制を確立しており、個店帳合と消化仕入れのわが国百貨店とは根本から実態が異なるが、それでも二次流通市場には放出商品があふれ、オフプライス流通が衣料・服飾流通の15%(金額ベース)も占め、百貨店売上げの4割を超えている。

 買い取りとはいってもキャンセルや未引き取りもあるし、見込み生産を受注が下回れば流通在庫が発生する。かつてはオンシーズン中のオフプライス販売はご法度だったが、近年は百貨店の立ち上げから4週間経てばオフプライス販売可能という『4Wルール』がまかり通るようになり、はなから受注量以上に生産してオンシーズンにOPS(オフプライスストア)に流すアパレル事業者が増えている。買い取りとはいっても「プロモーション」(わが国でいう歩積みに近い)という値引きロス分担が重く、売れなければ難癖をつけた支払いの延期や値引き要求もないわけではなく、百貨店との取引より大手OPSチェーンとの取引の方が手間いらずで支払いが確実だ。

 エクスクルーシブという建前に縛られて大きな在庫リスクを抱える正規仕入れより、二次流通にあふれるブランド商材を低コストに適時調達する方が遥かに儲かることが分かるにつれ、米国の大手百貨店は競ってOPSに参入し多店化を急いでいる。

 先行するノードストロームはプロパー店の123店に対してOPSの「ノードストローム・ラック」を243店も展開して全社売上高の32.7%を占め、サックスもプロパー店の46店に対してOPSの「オフ・フィフス」を133店も展開しており、出遅れたメイシーズとてOPSの「バックステージ」を52店布陣してプロパー百貨店内にも導入しつつある。OPSは販売効率も伸び率も利益率もプロパー店舗より格段に高く、米国百貨店はECとOPSに注力せざるを得ないのが現実だ。

 わが国百貨店はここまで追い詰められても(インバウンドの棚ぼたに潤って勘違いしているが)建前ばかりで、米国百貨店のように本音で突っ走ろうとはしていない。その意味ではECもOPSも大差ないのではないか。二次流通の発生源を担いながらも二次流通のビジネスチャンスに目をつむるわが国百貨店のスタンスは建前と言うしかない。

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写真はノードストローム・ラック

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