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商業界オンライン 小島健輔からの直言
『アマゾンジャパンが協力金を要請した理由』 (2018年03月05日付)
小島健輔 (株)小島ファッションマーケティング代表取締役

 アマゾンジャパンが同社のECサイトで販売する商品の仕入れ先に販売額の1〜5%の「協力金」を要請し、配送代行サービス(FBA)の手数料も値上げすると報道されたが、宅配料金の大幅値上げを受けてのやむを得ない措置という理解や独占禁止法への抵触という懸念もともかく、『ECよ、お前も物流の呪縛を逃れられないのか』という失望を禁じ得なかった。

 そもそも「販物一体」流通たる店舗販売が売る側も買う側も物流労働負担を避けられず、在庫が多店舗に分散して非効率な運営を強いられるのに対し、ECは「販物分離」ゆえ売る側も買う側も販売段階の物流労働負担が無く(その代わりDCと宅配に集中する)、在庫も分散せず機会ロスが避けられる“バラ色の流通革命”と期待されたが、ECがメジャー化し物流が逼迫するにつれ、コストが高騰し在庫も分散するという壁に当たっている。

アマゾンの商品販売には3つのタイプがある

 ECはフロント/決済/B2C物流に分けて考える必要があり、アマゾンのビジネスも例外ではない。アマゾンの商品販売には(1)直販事業、(2)FBA[フルフィル・バイ・アマゾン/在庫保管と配送代行]を伴わないマーケットプレイス事業、(3)FBAを伴うマーケットプレイス事業の3タイプがあり、直販事業では全プロセス、FBAを伴うマーケットプレイス事業ではほぼ全プロセス(個別に代行業務を規定)、FBAを伴わないマーケットプレイス事業ではフロントと決済をアマゾンが担う(在庫保管と配送は担わない)。最初に協力金要請が表面化したのはアマゾンが仕入れて販売する直販事業で、4割という宅配料金の値上げやDC運営人件費の高騰が直撃したゆえのコスト転嫁と受け取れる。それはFBAを伴うマーケットプレイス事業とて同様だから、4月24日から出店者の手数料率も改定(値上げ)される。

 今回要請されている協力金は販売額の1〜5%、食品や日用品は一律2%、FBAの手数料値上げは1〜2割と伝えられているが、果たしてこの負担は妥当なのだろうか。

物流費がアマゾンの経営を圧迫している

 アマゾンジャパンは決算を公開していないので、米国本社の決算と国内の業界情報から推計することになる。アマゾンの2017年12月期決算売上高1778.66億ドルにはAWS(クラウドサーバー)事業他が含まれ、商品販売(直販事業)は1141.52億ドル、サードパーティ収入(マーケットプレイス事業の手数料)が318.81億ドルだから、アマゾンジャパンのサードパーティ事業の平均的手数料率から逆算すれば商品販売総額は2842億ドル(30兆円強)と推計される。ウォルマートの4860億ドルに対してアマゾンは1780億ドルと売上げではまだ3分の1強という見方もあるようだが、実勢は6掛けに迫っているのだ。

 総シッピングコストが217億ドルだから、商品販売総額対比物流費負担率は12.2%にかさんでいる。同様な計算で2014年12月期は9.5%、2015年12月期は10.6%、2016年12月期は11.8%、そして今期の12%台乗りと年ごとにアップしており、物流費がアマゾンの経営を圧迫しているのは明らかだ。 

 在庫の偏在によるスケール・デメリットが調達のスケール・メリットを相殺してしまうチェーンストアと異なり、ECでは取扱量の拡大とともにスケール・メリットが加速度的に高まるが、摘み取り型のピッキングでは効率化に限界があり、宅配外注費のスケール・ディスカウントが壁に当たるとコストプッシュに耐えられなくなる。アマゾンのスケールとテクノロジーをして物流費のコストプッシュを吸収できないという現実は、ECビジネスにとって「物流」が不可分一体であるべきかどうか原点から考え直す必要を提議している。

 それはともかく、宅配料金の4割アップが販売額対比でどの程度のコストアップになるか。日米EC事業者の物流コストには倍以上の差があり、2017年3月期のスタートトゥデイの取り扱い総額対比物流費負担率が4.2%に収まっていることを考えれば、同社より宅配コスト負担のかさむアマゾンジャパンの物流費負担は2〜3ポイントのコストアップだと推察される。直販事業での販売額対比1〜5%という協力金要請、FBAでの1〜2割(販売額対比で1.5〜3.0%)という手数料値上げはコストアップに見合うやむを得ない範囲と思われる。

「物流分離のマーケットプレイス型」への移行は必然か

 原点に戻れば、ECプラットフォームの魅力はフロントの集客力・販売力であってバックヤード(物流)ではない。今後、わが国の宅配料金も米国並みまではともかく上昇が避けられないし、ピッキングプロセス(摘み取り型)を伴う限り、B2C出荷の効率化は困難を極める。英国のように店舗や専門受け渡し所(TBPP)を宅配に代わる主流にしていくか、一部のD2Cベンチャーで成り立っている受注先行のスルー出荷(棚入れとピッキングが不要)を図っていくかだが、最も確実で手早い対応はフロントと決済に特化して物流負荷を切り離すことではないか。

 ECモール事業者にとって物流に投資が偏ればフロントを支えるシステム革新に遅れをとりかねないし、物流コストの高騰が収益を圧迫するリスクも大きいから、「フルフィル型」より「マーケットプレイス型」の方が戦略的に有利だ。出店者にとっても手数料率の負担が軽く在庫が分散しないメリットは大きく、物流コストの高騰を契機にECモールの主流は現在の「フルフィル型」から「マーケットプレイス型」に移行して行くのが必然と思われる。

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