小島健輔の最新論文

ファッション販売2001年11月号
『台頭する新世代専門店の本質』
(株)小島ファッションマーケティング代表取締役 小島健輔

消費者クリエイションの時代が求める新世代専門店

 「ユニクロ」の勢いもようやく下火になり、大型SC開設ラッシュの終焉とともにSPAの氾濫も一段落した今、SPAの効率至上MDを真っ向から否定する新世代専門店が台頭している。
 90年代後半は中国製品の急増とともにデフレと同質化が進み、SPAがマーケットの主役となったが、その一方で効率優先のSPA型MDのバラエティと変化、コントラストの欠落を補うかのようにセレクトショップも勢力を拡大して来た。新世紀に入って大型SC開設ラッシュも終焉し、SPAの金太郎飴式チェーン展開と効率優先で絞り込んだMDの同質化が嫌われるに至って、もっと顧客にレスポンスする手作り感覚の新世代専門店が希求されるようになって来たのだ。
 新世代専門店の多くは調達手法面ではセレクトショップかSPAとのハイブリッド型であり、90年代の技術革新の上に新鮮なテイスト・ミックスと提供方法を加えて台頭している。これまでのブランドショップやSPAのようにコンセプチュアルに客層を限定せず、顧客の編集力との柔軟な双方向性があり、品揃えと提供方法に何処か手作りっぽい魅力があるのが特徴だ。ゆえにSPAのような金太郎飴型の展開ではなく、同一業態でも店舗ごとの客層の違いで品揃えが微妙に異なっている。
 80年代がクリエイター発信の時代、90年代がSPAの汎用パーツとセレクト商品をコントラストする消費者編集の時代とすれば、00年代はセレクト商品からリメイク&カスタマイズ商品、ヴィンテージや古着まで自在にミックスする消費者クリエイションの時代と考えるべきだ。新世代専門店はこのようなマーケットの要求に応えるもので、セレクト的な調達手法ミックスと双方向的なテイスト・ミックス、宝探し感覚の提供方法等、効率至上のSPAとは一転して人の手の温もりを感じさせる店が多い。

複合化する調達手法

 新世代専門店を調達手法のオリジンで分類すれば、1)セレクト系、2)生鮮品揃え系、3)生鮮SPA系、4)古着系に分けられるが、セレクト系のバリエーションが一番豊富だ。
  セレクト系はアイテム・インの味わいが濃い海外コレクションからのセレクトが基本だが、国内コレクションやセレクト向きの濃い味単品メーカーからのセレクト、リメイクを含むオリジナルやヴィンテージ等の調達手法が大なり小なり組み合わされるケースが多い。
 既成の大手セレクトショップではオリジナル商品がベーシックになりがちだったが、新世代タイプではリメイク等のテクが多用されることもあって、「シェル」や「WR」のようにオリジナルの味付けがセレクト商品やヴィンテージと大差ない店が増えている。ゆえに、既成のセレクトショップのようにオリジナル比率の拡大が味を薄めてしまうとも限らず、これまでは成り立たないと言われたようなバランスの店も出て来ている。漠然とした印象だが、調達手法が様々にミックスされた店ほどコントラストが強く、宝探し感覚も高まるようだ。
 生鮮品揃え系はカジュアル専門店から出て来たもので、現物卸的な単サイクル企画アパレルを国内はもちろん、パリのサンチェやロスのカリフォルニアマート、NYのソーホーまで回って集荷し、グローバルに変化していくカジュアルの鮮度を追求している。その調達サイクルはコレクションベースのセレクトショップの比ではなく、年間6回を基本にピークを控えては週サイクルまで跳ね上がる。
 海外セレクト中心の店にはグローバル生鮮型セレクトショップと言ってあげたい店もないでもないが、国内比率が高いと単味単品ばかりになってトレンド追いの品揃え店と大差なくなってしまう。東大門式の別注やクイックオリジナルも加えて次の生鮮SPA系とのハイブリッドになっている店も見られるが、単味単品のアイテム・オンから離脱出来てはいない。このグループには今の所、新世代専門店と言い切れるだけの店が見られないのは残念だ。
 生鮮SPA系にはオゾック・プロセス式QRアパレルSPAと109系の東大門式インスタントSPAの両方のルーツがあるが、どちらもアイテム・オンの単味商品からの離脱が課題だった。新世代タイプではアイテム・インの効いたリメイク商品、ヴィンテージ雑貨や古着を加え、セレクトショップ的なコントラストや宝探し感覚を強調する店も出始めている。メーカー系SPAをルーツとする「フォーエバーラブ」はセレクトとリメイクを加えて濃い味コントラストを出しているし、エゴイストの「デュラス」もヴィンテージ雑貨や毛色の異なるスポーツブランドを加えてその方向を志向している。
 古着系は元々、古着のセレクトショップみたいな物で、セレクトの眼力はもちろん、顧客の編集能力を刺激する提供方法がセレクトショップ以上に問われるし、宝探し感覚も強い。「SOL」や「エクスペディションモード」のようにリメイクのオリジナルを加えたりヴィンテージ商品を訴求する店も多く、新世代専門店進化のソースとなっている。
 新世代専門店にはこのように様々なルーツがあるものの、調達手法はそれぞれの良いところを取り入れて交錯する傾向に在り、「イニシアル1−12」のようにルーツがなんだか解らないほどミックスされた店も登場して来た。総じて店側の効率よりも客側の編集嗜好や宝探し感覚を追求するのが新世代専門店に共通するスタンスで、調達手法も味付け(アイテム・イン)もますますハイブリッド化していくと思われる。
 この流れに対抗するようにブランドショップがセレクト商品やヴィンテージ雑貨等を加える動きが拡がっているが、一方的な発信で金太郎飴になりがちなブランドショップが顧客にレスポンスするには必要な改善であろう。多少はコストが上がるにしても、コントラストを強調して品揃えの魅力を高め、ちょっぴり宝探し感覚を加えて顧客の支持を得ることができるなら、選択の余地はないはずだ。ブランドショップも大なり小なりハイブリッド化していく事になる。

提供方法も手作り感覚へ

 SPAの多くがデジタルなレイアウトと什器システム、精緻に設計された棚割りで効率的な購買を訴求しているのに対し、新世代専門店ではアナログなレイアウトと不統一な什器システム、故意にゴチャつかせた陳列で宝探し感覚を訴求する店も多い。チェーン化を狙う店でも、什器システムを統一して中核商品の棚割りはきちんと組んでいても、スポットや打ち出しの什器はランダムにし、陳列も故意にゴチャつかせるケースが見られる。
 最も異なるのが照明で、SPAの多くがクールな高ケルビンの面照明を基本に高ルーメンなフォーカル照明を加えて緊張感のある空間を創っているのに対し、新世代専門店の多くはウォームな点照明を基本にミニハロゲン程度の中ルーメンなフォーカル照明に押さえ、和みのある空間を創っている。クールに効率的に済ませるという購買行動と和んでゆっくり探すという購買行動の違いで、店舗空間の緊張感がまったく対照的だ。
 販売トークやスタッフ・アクションのリズムも、これまでの画一化されたSPAのそれとはまったく異なる。『コンニチワ』の大合唱で面を作ってしまうSPAの挨拶とは対照的に、面を作らないで流してくれる感じが多い。挨拶の言葉もタイミングもバラバラだが自然で、意図して統率したSPAの堅さが煙たい人には心地よい。売る側を超えた編集クリエィション力を持った客層に対処するなら、こっちのほうが自然なのではないか。
 フィッティングからチェックアウトのプロセスも、如何にもマニュアル的なSPAのそれとは異なり、顧客のこだわりが何処に在るのかを汲み取ってパースン・ツー・パースンの対応をしてくれる店もある。一部のセレクトショップに見られるような知識の押し売り的対応もこの手の客はむかつくだろうから、定型化せずに自然に対応するのがベストだろう。マニュアル化しない分、人が人に熱意を持って教えなければならないが、そのテンションが顧客に伝わり、店の活力が保たれるのではないか。
 このように見ると、新世代専門店は店都合の効率や標準化に距離を置き、顧客やスタッフとの自然な交流を志向しているように見える。それは悉くチェーン・マネジメントに相反するが、1ダースを上限と考えるなら欠点より利点の方が大きい。そもそも新世代専門店は20世紀的効率至上主義へのアンチ・テーゼとして登場してきたものであり、そのスタンスとスケールを守って小さく輝き続けることに存在価値がある。チェーン専門店にしても、チェーン化と引き換えに失った顧客へのレスポンスや組織の人的活力を取り戻す何かを、彼等から見つけるべきではないか。

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