小島健輔の最新論文

商業界オンライン 小島健輔からの直言
『コロナウイルスが招くカタルシスに負けるな』(2020年03月13日付)
小島健輔 (株)小島ファッションマーケティング代表取締役

 コロナウイルスの流行が世界に広がってパンデミック寸前の様相を呈しているが、いずれ収束しても消費やライフスタイルをエシカル&ミニマルに変えてしまうカタルシスになるかもしれない。美しきエシカル消費は文明を崩壊させるリスクがある。

オリンピックは中止それとも延期?

 コロナウイルスの蔓延で人の動きや交流が縮み、生産や流通も遅滞して消費が縮み、投資も縮んで経済の失速を招いているが、いずれ流行が収束すれば平常に回復するし、先送りされていた消費やレジャー、イベントも勢いを取り戻す。問題はその時期がいつかということと、元に戻らないものもあるということだ。

 国内についてはパンデミックが抑止され4月中には収束してGW以降は平常に戻ると思われるが、海外ではどこかで収まってもどこかで広がるから収束は長引き、東京オリンピックは開催中止、よくても1年か2年延期される。来日観光客の回復は来年になるが元の勢いは戻らず、インバウンド消費も年内は冷え込んだままで、その後も急速な回復は期待できない。

 昨年12月25日に公開した『小島健輔が予見する2020年のアパレル流通』でも東京オリンピックの中止に言及したが、このまま強行すれば収束しかかったパンデミックを再燃させかねないから、現段階でも中止あるいは延期は確実と見るべきだ。強行しても動員数は予定を大きく下回るから、日本経済への打撃は中止と大差ない。パンデミックは世界的な問題だから、ロンドンなど他都市で開催するのも非現実的で、1年ないしは2年の延期となる公算が高い。

インバウンド消費はもう戻らない

 オリンピックが中止あるいは延期となれば、パンデミックが収束しても来日観光客数は当分回復せず、かつてのようなインバウンド消費はもう戻らない。落ち着けば観光需要は徐々に回復するだろうが、コロナウイルスや貿易戦争で打撃を受けた中国経済の回復には時間を要するから、高級ブランドや化粧品の“爆買い”はもはや期待できない。

 コロナウイルス騒動がなくても来日観光客消費はモノからコトへ転じつつあったし、中国政府の代理購入規制も厳しくなってソーシャルバイヤーはネットでも販売が難しくなり、化粧品メーカーは中国での販路拡大を急いでいる。パンデミックが収束する頃には販路も広がり、ドラッグストアや百貨店での化粧品の“爆買い”は戻らないだろう。経済の失速や株価の下落で中国の富裕層も打撃を受けたから、高級ブランド消費もしばらくは冷え込むのではないか。

 もとより棚ぼたのインバウンド需要を当て込むのはリスクが大きく、百貨店は業績の悪化が止まらなくなり、都心部のドラッグストアも反動が避けられない。

エシカル消費は文明を滅ぼす

 パンデミックの危機は去っても、コロナウイルス騒動は人々のライフスタイルや消費意識に少なからぬ影響を及ぼすカタルシスになるかもしれない。

 感染の恐怖に懲りて日常の衛生管理に気を使い、不要な濃厚接触を避けるようになり、オンラインでの業務や交流にシフトするから、在宅勤務が広がってオフィス需要が頭打ち、外食を避けて内食や中食が増えるから飲食産業も萎縮し、なるべく街にも店舗に出向かずECで購入するから、人前に出ることが減って服装のカジュアル化が加速し、お洒落にお金をかける人も一段と減ってしまう。

 フォーマルやドレスを着る機会も減るからレンタルで済ます人が多くなり、新作・新品にこだわる人も減ってシーズン遅れのオフプライス品やリユース品で済ますのが普通になり、新作・新品を定価で売るファッションビジネスは今まで以上に萎縮していく。環境に無駄な負荷をかけないエシカル消費がいつの間にか実現してしまうが、果たしてそれで良いのだろうか。

 エシカルな消費行動が広がれば経済規模が縮小し、それが雇用や所得を脅かして縮小均衡のスパイラルが止まらなくなる。考えてみれば当たり前の話なのだが、なんだか美しい理想を追うような雰囲気に乗せられて皆、エシカルを志向しなくては、というのが今のトレンドになっている。

 コロナウイルスの流行を契機にエシカルな消費に慣れ、もう無駄の多い消費生活に戻れなくなるとしたら、消費に支えられた現代文明は破綻してしまう。エシカルは美しいのかもしれないが、それでは産業革命以前に逆戻りするしかない。萎縮した消費と経済規模では今日の人口は養えないから、本当に文明が崩壊してしまう。無駄な消費をあおるのも必要だったと後悔しても、もう手遅れになる。コロナウイルスが収束したら業界競って消費をあおり、精進落としの無駄遣いを盛り上げるべきではないか。

論文バックナンバーリスト