小島健輔の最新論文

繊研新聞2021年12月22日付掲載
『衣料品の供給と消費・廃棄・リサイクルの真実
サステナブルな無在庫販売を目指せ』
小島健輔 (株)小島ファッションマーケティング代表取締役

 化石燃料生産国陣営と先進消費国(自然再生エネルギー)陣営の壮大な謀略戦がサステナブルの奔流となってファッション産業も突き動かす中、グリーンウォッシュ紛いの個別最適が横行しているが、環境に負担をかけないサステナブルを実現するには商品企画から生産、物流、流通・販売、リユース・リサイクルのPL(商品ライフサイクル)循環総体の再構築が不可欠だ。それには供給と消費、廃棄とリユース・リサイクルの実態を直視する必要がある。環境省が21年4月に公表した「ファッションと環境」調査結果をベースに独自の推計を加えて検証してみた。

 

■衣料品の供給と消費の実態

 日本繊維輸入組合によれば、20年は前年から10.4%減少した輸入量34億9900万点に国内生産量8179万点を加え輸出量803万点を差し引いた35億7280万点が国内に供給されたという。このうちアパレル(下着・靴下などを除く外衣)は輸入量22億3300万点、国内生産量5041万点、輸出量500万点ほどと推計されるから、アパレル製品の国内供給量は22億7800万点ほどだった。同様な集計で19年は25億2700万点ほどだったから、コロナ禍の20年はほぼ9掛けに減少したことになる。

 家計調査によれば20年のアパレル支出は6万2064円と20.2%、購入点数は21.18点と14.0%減少したから購入単価は7.2%低下し、単純に世帯数を掛けると総購入数量は13.2%減の12億1970万点となるから、10億5800万点(国内供給量の46.5%)が売れ残った計算になる。家計調査は一万世帯を対象としたもので実勢との乖離があるとしても、4割強が売れ残ったことは間違いないだろう。

 

■どれほどの衣類が売れ残ったのか

 環境省の「ファッションと環境」調査では、20年の雑貨を除く衣類国内新規供給量は海外から79.9万トン(繊維輸入組合集計は94.7万トン)、国内から2.0万トン、計81.9万トン(繊維輸入組合集計では96.7万トン)で、古着も含めて72.2万トン(26億6400万点相当)が家庭(消費者)に購入されたとしているから、少なくとも新規供給量の11.84%/9.7万トン(繊維輸入組合集計では25.2%/24.4万トン)が売れ残ったことになる。衣類供給数量の97.9%を占める輸入衣類の平均重量は271グラムだったから、3億5800万点(同9億点強)ほどに相当する。

実質の供給量は「新規」ではない持ち越し在庫(環境省推計で前年分の6.5%/6.9万トン/2億5400万点)、輸入古着(6270トン/2110万点)や国内リユース古着(10.6万トン/3億9100万点)が加わるから、年間で100.03万トン(繊維輸入組合集計ベースでは114.73万トン)、36億9100万点(同42億3400万点)にも及ぶ。ならば売れ残り量も27万8300トン(同42万5300万トン)、10億2700万点(同15億6900万点)と膨大な量に膨れ上がる。消費者の購入量にはBUYMAやSHEINなど輸入統計には出てこない越境EC(20年で推計2700億円ほどか)も含まれるから、売れ残り量はさらに膨らむ。

環境省の推計(雑貨を除外)と繊維輸入組合の集計をベースとした計算には少なからぬ乖離があるが、新規調達品と持ち越し品に輸入と国内リユースの古着まで合わせた衣類総供給量の27.8%〜37.1%ほどが毎年、売れ残って様々な形で後年の新品市場を圧迫していることは間違いない。持ち越し在庫や越境EC商品、古着も競合して過剰供給の新品を圧迫している現実を直視するべきだろう。

 

■消費者が放出した衣類は何処へ行くのか

消費者が購入してタンスから放出した衣類、事業者が放出した衣類の行方についても、環境省の「ファッションと環境」調査では大胆に推計している。

過去に購入した商品も含めて20年には家庭から75.1万トン、事業所(衣料品業界と思われる)から3.6万トン、他0.2トン、計78.9万トンが放出され、うち15.4万トンが古着としてリユースされ、12.3万トンが繊維原料などにリサイクルされ、51.2万トンが廃棄された。廃棄されたうち焼却されたのは48.4万トン、産業廃棄物となったのが1.4万トンで、2.4万トンが再資源化され、1.9万トンが廃プラとして再利用されたというが計算が合わず、焼却されたはずの48.4万トンから回収されてリサイクル・リユースされた衣類も少なからずあると推察される。

古着としてリユースされた15.4万トンに輸入古着0.63万トンを加え、輸出に回った古着4.4万トンを差し引いた11.23万トン(4億1400万点相当)が国内市場に供給された古着と受け取れるが、故繊維事業者が回収したウエス類6.6万トンを合わせても古着として輸出された22万7300トンには11万トン足りず、故繊維事業者が廃棄物から古着やウエスとして回収した少なからぬ量が集計から漏れていると思われる。放出衣類は何年もかけ国内のみならずグローバルにも循環しているから、国内と年度で切って集計する困難さが伺える。

 

■売れ残った衣料品の行方は

マスメディアは「売れ残り=廃棄」と短絡的に報道しがちだが、大半は来期に持ち越したり卸業者や商社に返品したり引き取りを伸ばしたり(コロナ禍では引き取り拒否も頻発した)、一部は二次流通業者に放出され、廃棄に回るのは何年も持ち越して販売しても残り、品質が劣化して商品にならなくなったものに限られる。環境省の「ファッションと環境」調査は統計とアンケート集計の両面から売れ残り商品の行方も追求している。 

統計では消費者に販売されなかった売れ残り品9.7万トン(新規供給量の11.84%)のうち、在庫として持ち越したのが5.8万トン(同7.08%)、廃棄したのが0.2万トン、事業者へ販売したのが3.6万トン(同4.40%)。アンケート集計では売れ残り率が13.61%(11.15万トン/4億1130万点)で、そのうち持ち越したのが6.25%(5.12万トン/1億8890万点)、アウトレットに回したのが3.16%(2.59万トン/9550万点)、卸や商社などに返品したのが3.59%(2.94万トン/1億850万点)で、処分業者に放出したのは0.09%(740トン/270万点)、廃棄したのが0.27%(2210トン/820万点)、その他が0.25%だったとしている。この回答の精度はわからないが当社の調査や他の推計データと整合する点が多く、処分業者放出の0.09%は低すぎるとしても、全体の信頼度は高いと思われる。

卸や商社などに返品された中から処分業者に放出されたものも含めると3倍程度あると推察すれば、処分業者に放出された総量は0.27%(2210トン/820万点)ほどになる。古着の供給量が11.23万トン(4億1400万点相当)だから、オフプライス品の供給量はその2%ほど、アウトレット品に対しても8.5%ほどと推察される。放出量が少なく安定せず適品も限られるから(適品なら放出せず持ち越す)、オフプライス品だけで通年営業するのは難しいのが現実だ。

 

■生計の窮乏と選択利便

 衣料品が慢性的な過剰供給状態にあることは流通のロスやコストを肥大させて新規供給品を割高にし、不要な保管や物流、最終的に大量の廃棄をもたらして環境に負荷をかける一方、国内事業者や海外越境EC事業者の新規供給品だけでなく持ち越し品や古着まで、時空を超えた選択肢を消費者に提供している。過剰供給はサステナブルに反するし、国内事業者の新規供給品を割高にしてしまうが、消費者は越境EC品やオフプライス品、過去の様々な古着から好みとお値打ちで比較選択する機会に恵まれている。

 長年にわたって経済が停滞して所得が減少し(平均給与は00年から20年で6.5%減)、少子高齢化と不効率な行政で国民負担率が肥大して(00年36.0%→20年44.6%→21年46.0%)実質消費支出力の減少が止まらず(00年から20年で19.0%減)、生計が貧窮してエンゲル係数が上昇し(00年23.3%→20年27.5%)、被服・履物支出の切り詰め(00年5.1%→20年3.2%)を余儀なくされる中、割高な国内事業者の新規供給品から低価格な越境EC品やオフプライス品、格段に低価格でお値打ちな古着に消費者の選択が流れるのも必然だろう。

 国内事業者が新規供給を抑制しても、積み上がった持ち越し流通在庫と消費者のタンス在庫の解消には何年もかかるし(流通在庫十年分、タンス在庫百年分という呉服ほどではないが)、越境EC品や国内リユース品のみならず世界から流れ込む古着の増大も食い止める術はない。途上国のように国内衣料産業を保護すべく古着の輸入を制限したり、越境EC品への課税を強化するなど政治的な対策しかないが、自由貿易と市場開放を推進する我が国の立場では難しい。ならば、国内衣料事業者はどうすれば良いのだろうか。

 

■商品ライフサイクル管理で売れ残りを最小化する

 どうしたら過剰在庫や売れ残を抑制できるか。業界では様々な在庫管理システムや処分方法が活用されているが、いずれも調達した在庫のやり繰りであって、調達自体の最適化・オンデマンド化に踏み込んでいるわけではない。

在庫を最適化するには、商品計画段階、商品調達段階、販路仕分け段階、配分・補給段階、偏在補正段階、消化促進段階、値引き消化段階、二次販売段階、リユース・リサイクル段階、の各段階ごとに仕組みとスキルが必要で、これらPL(商品ライフサイクル)循環行程全体がスムースに流れるようビジネスモデルを仕組むのが理想だ。それにはDXやAIなどハイテク仕掛けも必要だが、何よりPL循環のロジックが突破口で、調達・生産より販売が先行する仕組みを築けば究極の無在庫販売が成立する。

PL各段階の仕組みとスキルは消化と利益に直結する重要な運用技術で、もっと注力されるべきだが長文になるので別の機会に譲り、本稿では無在庫販売を実現するPLロジックを提示したい。

 

■無在庫販売へのアプローチ

 無在庫販売を実現するロジックは極めて単純で、販売・受注を先行し、調達・生産を後にすれば成立する。それでは顧客がついて来ないとお思いだろうが、ソーシャルバイヤーによる越境ECでは受注してから仕入れるのが一般的だし、ランドセルでは半年以上前に受注して計画生産するのが慣行化している(当然に在庫リスク無しの定価販売)。マクアケなどの通販型クラウドファンディングでは受注を取りまとめてから生産するケースが大半だから、顧客への納品は何週間、時には何ヶ月も先になる。

 ランドセルの場合は様々な事情から自然成立したもので(続く保証はない)、通常は技術的に突出するか業界カルテルを仕掛けないと成立しない。通販型クラウドファンディングは市場導入期のテストマーケティングとして行うものだから、継続的に無在庫販売するのは難しい。

アパレル業界で定着しているのがシーズンアイテムなどの予約販売で、ECでは日常化している。実品サンプルによる店頭予約やささげデータによるEC受注が一般的で、計画生産を先行して受注動向を追加生産に反映するケースが多いと思われるが、生産納期が短ければ実質無在庫販売も可能だし、リアルな3D・CGサンプルでEC受注を先行すれば容易に無在庫販売が成立する。すでに実現されている無在庫販売へのアプローチを幾つか例示しておこう。

 

1)DX仕掛け短納期PO

元より無在庫販売のPO(パターンオーダー)では往時から職人の技と労力による短納期が試みられていたが、中国Red Collar社がDXによるCAD・CAM生産で採寸から1週間納期を実現したのを契機に短納期POが広がって日本にも波及し、既製服からPOへの移行が加速した。POでは製品は無在庫でも素材在庫の負担が大きく(年に1回転しない)、テーラーメイドの生産仕様では納期短縮もコスト圧縮も限界があった。その壁を越えるのが「既製服」のPO化で、二様のアプローチが見られる。

 

2)量産既製服の二段階サプライ擬似PO

既製服を低コストに量産しながら擬似PO受注でパーソナル対応しているのがユニクロの「ジャストサイズ」(セットアップ企画)で、2000サイズから選択しても最速で翌日に届く。これは大ロットの計画生産と小ロットのサイズバランス補正生産(おそらく週サイクル)の二段階サプライに拠るもので、出荷倉庫に全サイズの在庫を揃えて補充生産するマジックだ。この方式だと需給を近づけて欠品を回避することはできるが、計画生産の在庫負担がなくなる訳ではない。

 

3)既製服のチューニング受注生産PO

既製服の生産仕様をPO化したのが三菱商事ファッションが手がける「THE ME」で、百貨店NBクラスの既製ビジネスクローズ(メンズ/ウィメンズ)を一着づつ受注生産している。ショールームで3D採寸の上、サイズサンプルを試着してフィットの好みなどをヒアリングし、サイズ別パターンをチューニングして生産するもので(裏地、ポケットの位置や形も選べるが素材は選べない)、顧客はジャストなフィットが得られるが、納期は10日〜14日かかる。

既製品のような製品在庫もPOのような素材バラエティ在庫も必要とせず、既製服として設定した素材ストックだけで済むが、生産パターンのチューニングからマーキングまでオートCADで高速処理しても縫製手順へは踏み込めておらず、納期短縮とコスト圧縮の課題が残る。

 

4)DX小ロット高速反復生産

 12月1日の本紙寄稿で中韓越境ECファストアパレルの無在庫販売ビジネスモデルを詳説したので簡易にまとめるが、AIの販売数量推移予測に基づき、3D生産仕様データベースを活用して小ロットの高速CADCAM生産を短サイクルに反復すれば、在庫リスクは数日分〜一週分に圧縮できる。これに国際郵便小包配送時差を利用したタイムマシンマジックを加えれば無在庫販売が成立するが、それがなくても数日分〜一週分に圧縮できれば十分だろう。

 

 無在庫販売の仕掛けが継続的に回るには販売と生産が時差なくデジタルに連携する必要があるが、海外遠隔地での委託生産に依存するリードタイムの長い調達体制ではDX装備しても遠く及ばない。ましてやサプライチェーンが垂直分業で分断され、各段階でリスクとコストの交渉が必須の調達体制では、高価なPLMシステムを導入しても永遠に到達できない。オンデマンド生産で時差なく需給を一致させない限り無在庫販売は困難で、根本から調達・生産と流通・販売のビジネス感覚を切り替える必要がある。

見込み調達・生産で在庫を抱えるビジネス感覚から解放されれば無限の可能性が広がる。生産・発送地にビジネスの立ち位置を変えれば容易に実現するのではなかろうか。

論文バックナンバーリスト