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『小島健輔が絶句「アパレル業界、いよいよ在庫もブランドも
「大量投げ売り」が始まった…!」』
(2020年09月17日付)
小島健輔 (株)小島ファッションマーケティング代表取締役

需要に倍する過剰供給にコロナ禍の売上激減が加わって在庫が溢れ、叩き売り状態になっているアパレル業界だが、いよいよ在庫どころかブランドや事業まで叩き売りになって来た。

面子も建前も捨ててなりふり構わず換金に走るアパレル業界は末期的症状を呈している。

あのレナウンの「主力事業」はたったの11億円…

5月15日に民事再生法を申請して破綻したレナウンは買い手が見つからないままブランド事業単位の切り売りに追い込まれ、「アクアスキュータム」「ダーバン」「スタジオバイダーバン」は小泉グループのオッジ・インターナショナルに、「シンプルライフ」「エレメントオブシンプルライフ」は同じ小泉グループの小泉アパレルに譲渡されたが、9月9日の債権者説明会でその売却価格が明らかにされた。前者は10億円、後者は1億円、計たったの11億円だった。

80年代にはダーバンやレナウンルックなどグループ51社の合計売上が4000億円に達して、当時世界最大のアパレルメーカーに上り詰め、90年12月期には2317億6500万円を売り上げて国内アパレル首位だったレナウンも、直近の19年12月期には売上が502億6200万円まで萎み、80億円の営業損失を計上して手持ち現金が33億2000万円まで細り、コロナ禍による売上の急減で資金繰りがつかなくなって破綻した。

19年12月期では「アクアスキュータム」は49億4900万円、「ダーバン」は43億5200万円、「シンプルライフ」は24億8500万円、「エレメントオブシンプルライフ」は52億3800万円を売り上げていたが、7月末時点の清算価値は「アクアスキュータム」が5億8500万円、「ダーバン」は8800万円、「シンプルライフ」と「エレメントオブシンプルライフ」を合わせて2700万円だったから、合計11億円という譲渡価格もやむを得なかった。

リーマンショック前まではアパレル事業はまだ投資価値があると思われ、「のれん代」を上乗せした法外価格で事業買収が盛んに行われていたが、それらの大半は上手くいかず「1円」とか「1ドル」での投げ売り的事業譲渡に追い込まれ、かつて高値で買収した側は数十億円、数百億円の特別損失を計上するケースが相次いだ。

そんな大失策に懲りていたところにコロナ危機が襲ったのだから、「1円」じゃなく「11億円」の値がついただけでも御の字だったのではないか。

持ち越し品を叩き売り

ブランド事業が投げ売りになるぐらいだから、売れ残り在庫の処分はなりふり構わぬ投げ売り状態になっている。三井不動産が9月14日に開業した今秋最大の郊外大型SC「ららぽーと愛知東郷」では、ちょっとしたサプライズがあった。2Fのメインストリート区画に、ワールドが自社ブランド処分アウトレットストアの「NEXTDOOR」を500平米級の大型店舗で出店したのだ。

「ららぽーと愛知東郷」は名古屋の都心から電車で45分の郊外立地とは言え、店舗面積6万3900平米と周辺では突出した規模で、「コーチ」や「ラルフローレン」も出店しているアップスケールな広域大型SCだから、アウトレットストアが出店するのは相当に違和感がある。

予定していたテナントがキャンセルになって急遽、代替に導入したと推察されるが、ワールドの主力百貨店ブランド「アンタイトル」や「インディヴィ」を持ち越し品とは言え6〜7割引で叩き売っているのだから、同じブランドを扱っている名古屋都心部の百貨店は激怒しているに違いない。

ワールドは8月29日に浅草ROX、9月5日にはイオンモールKYOTOにオフプライスストアの「アンドブリッジ」を百貨店・駅ビルブランド主体の都心型で出店しているが、ワールドのブランドもかなりの比率を占めている。「ららぽーと愛知東郷」の「NEXTDOOR」は内装も陳列も「アンドブリッジ」そのもので、ワールドはオフプライスストアもアウトレットストアも一体の戦略と捉えているようだ。

都心商業施設や近郊大型SCで自社ブランドを叩き売ってはプロパー販売への影響は避けられず、ワールドは百貨店ブランドから撤退するつもりなのかとさえ訝られる。

コロナ禍の直撃を受けて4〜6月期の棚資産回転が前年同期の89日から182日に伸び、買掛債務の回転日数(支払いサイト)を前年同期の133日から199日に引き伸ばしており、背に腹はかえられず在庫処分を急いでいるのだろうが、後先考えない短絡的アクションは顧客や取引先の信頼を損ねてブランドビジネスの将来を閉ざしてしまう。こんな乱暴なやり方で良いのだろうか。

銀座のど真ん中でアウトレット…!?

「アンドブリッジ」の都心商業施設出店や「NEXTDOOR」の郊外大型SC出店に驚いたのも束の間、サザビーリーグ傘下の「エストネーション」銀座旗艦店がアウトレット&オフプライスの「エストネーションセントラル」にリニューアルすると聞いては絶句するしかない。

「エストネーション」銀座店は「ユニクロTOKYO」(旧プランタン銀座)の目と鼻の先の銀座二丁目の並木通りに面する地下1階〜地上3階の4層2225平米の大型旗艦店だが、WWD.Japanの伝えるところではその1Fを「エストネーションセントラル」に切り替えて10月2日にオープンし、来年21年の2月には全フロアを「エストネーションセントラル」にしてしまうという。

「エストネーション」の持ち越し品に加え、サザビーリーグでアウトレット店を持たない「SAZABY」「CAMPER」「HOUSE OF LOTUS」や「エストネーション」の仕入れ先の放出品も結集するからオフプライスストアでもあり、顧客から買い取ったハイブランドの中古品も販売する。

建前としては「エストネーション」の会員顧客に限定するが、その場で入会することもできるから、正面切った大型アウトレットストアに他ならない。

 

いま起きていること

「エストネーション」は現在、駅ビルやファッションビルに10店舗のフルプライス店、三井アウトレットパークに2店舗のアウトレット店を展開しているが、路面の旗艦店は銀座店だけだ。その旗艦店を全館、アウトレットにしてしまうのだから、相当に追い詰められている。

駅ビルやファッションビル内の店舗をアウトレット化するのは困難ゆえ、館の規制に縛られない路面の旗艦店をアウトレット化するのだろうが、それでは事業撤退の宣言に近いと見られても仕方がない。

数多のブランドが集中する銀座ゆえクレームを入れて来るブランドも少なくないが、『プロパー店と変わらない丁寧な陳列と接客で理解を得たい』と退任する総理大臣のような言い訳をしている。本音は昨年秋の消費増税と暖冬、今春のコロナ禍による2ヶ月近い休業で適正の倍も積み上がった在庫の処分で、背に腹は変えられなくなったのだと推察される。

『銀座のど真ん中でアウトレット』には実は前例がある。それも「エストネーション」と同じ並木通りの4丁目にあった「リステア東京」で、09年4月から10年5月の期間限定とはいえ、やはりフルプライス店からアウトレット店に転換している。

リステアは15年4月にトゥモローランドの傘下に入ったが、17年にも表参道で「221リステア」の跡にアウトレットの「裏リステア」を開設している。

アパレル業界の「惨劇」

セレクトショップはシーズンの半年前のコレクションで発注する個性的なブランド品を主力とするから、トレンドの変化や景気の後退で大量に在庫を残すことがある。

それはリステアもエストネーションもユナイテッドアローズも大同小異で、セレクトショップはコロナ危機で大量の在庫を抱え換金を急いでいる。そんな業界事情が『銀座のど真ん中でアウトレット』という惨劇を招いた。

こんなことを続けていては誰ももう「正価」では購入してくれなくなる。需給もお値打ちも顧客のお財布も無視して強気の無理押しを続けた果てとはいえ、在庫もブランドも事業も叩き売るアパレル業界に再び朝日が差し込む日は来るのだろうか。

 

 

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