小島健輔の最新論文

ブログ(アパログ2018年04月13日付)
『ガラパゴス化するアパレル市場に向き合おう』
小島健輔 (株)小島ファッションマーケティング代表取締役

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 テキスタイル業界ではもう来春夏の展示会が始まっているが、そこでは二つの大きな変化が感じられる。ひとつは合繊系機能素材一辺倒から綿系ナチュラル素材への回帰、ひとつはグローバルトレンドからローカルトレンドへの回帰だ。

 

 振り子は逆転する 
 ファッショントレンドは振り子のようなもので、片方向に振れ切った瞬間に逆方向に急転する。経験則的には3年サイクルだが、大きなトレンドになると倍の6年サイクルになるようだ。ノームコア〜アスレジャーという緩くて楽チンな機能素材合わせの潮流は今年で6年目になるが、それがピークを打つのと同時に爽やかな空気感のゆるナチュラルな方向へと急激に振り戻し始めている。
 実需で盛り上る合繊系機能素材のコーナーが酷く陳腐に見え、替わって肌離れがよく爽やかな綿系やキュプラ系の素材が目を惹いた。比率で言えば前者が8割、後者が2割ほどだが、6月の商談会の頃には今春夏の店頭の手応えが反映して6対4か、もしかすると5対5ぐらいまで変るかも知れない。

 

 欧米中と日本では売れる素材が異なる
 有力テキスタイルコンバーターは欧米や中国への輸出を伸ばしているが、そこでの売れ筋素材は国内では売れそうもないウエットなものばかりだ。こんなテレトロして肌離れの悪い素材は国内では不人気だが、欧米や中国では人気だと言う。
 中国は欧米志向が強く、我が国よりボディコンシャスでウエットなラインが好まれるのは何故なのだろう。まさかチャイナドレスの装い感覚を継承しているわけではあるまいが(我が国のゆるレイヤード感覚は明らかにキモノの着流し感覚を継承している)、我が国とて80年代末のバブル期にはボディコンスタイルが席巻したのだから、バブリーな経済発展に沸く近年の中国がボディコンシャスなのも時代の勢いなのかも知れない。

 

 ガラパゴス化する日本市場
 欧米や中国とは売れる素材が異なるのなら、ファッショントレンドも我が国は欧米や中国とは異なるはずで実際、ボディコンシャスでウエットあるいはセクシーなブランドは不人気だし、ゆるいストリートスポーツやゆるナチュラルなレイヤードのブランドが伸びている。
 街行く人々を見ても世代やライフスタイルで多様化しており、欧米のエスニック多様化を思わせるほどだが、ボディコンシャスな服装は滅多に見かけない。これが上海やシンガポールとなると、バブル期を彷彿させるほど大胆にボディラインを晒す女性が珍しくない。
 景気は回復していると言われても、我が国の雰囲気は斜陽の倦怠を否めず、人々はそれぞれ自分らしい装いに心地よさを求めて多様化し、マーケットは急速にローカル化している。そんな我が国でグローバルトレンドを振り撒く外資SPAが勢いを失ったのは必然だった。
 にも拘らず、ギョーカイは欧米のコレクションシーンばかり見て目の前の顧客を見つめようとはしない。ガラパゴスに多様化する我が国アパレル市場では、グローバルトレンドよりエスニックマーケティングがビジネスの成否を分ける。そんなあたりまえの真実にギョーカイはなぜ向き合おうとしないのだろうか。
※添付したイラストは3月末店頭の最新スタイリングを当社スタッフがフォーカスしたもの。SPACレポートでは毎月、タイプ別のスタイリング変化を50体以上のイラストで報告している。当社HPでも毎月、そのハイライトを紹介している。

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