小島健輔の最新論文

ファッション販売2001年12月号
『無印良品の復活は何時か』
(株)小島ファッションマーケティング代表取締役 小島健輔

初の最終赤字に転落

 良品計画の2001年8月期連結中間決算は、51%もの売場面積拡大にも係わらず584.9億円と1.2%の増収に留まった。2000年4月以降、水面下で推移してきた直営既存店の売上は前中間期よりさらに悪化して18.6%も減少し、坪販売効率は35%も急落してしまった。
 過去二年に直営既存店の買上客数は14.6%(坪当たりでは31.0%)も減少。客離れに客単価ダウン(前中間期比8.1%)が加わり、月坪効率は99年上半期の31.7万円から17.5万円と、わずか二年で45%近くも低下している。
 今中間期では直営店シェアが8.3ポイント上昇したにもかかわらず、販売効率低下と見切りロス肥大で粗利益率は39.5%と3.2ポイント低下し、逆に営業経費率は35.4%と5.5ポイントも上昇。営業利益高は65.5%、経常利益高も64.0%も減少し、営業利益率は4.4%と前中間期から8.6ポイント、経常利益率は4.6%と8.3ポイントも急落してしまった。
 これに衣料品の在庫処分38億3000万円、英仏子会社のリストラ関連損失17億4500万円等、計63億6000万円の特別損失が加わり、創業以来、初の最終赤字(38億1800万円)に転落。2002年2月通期の業績予想も、経常利益は期首計画の107億円から71億円に、当期純利益は52億円から5億円の欠損に大巾下方修正するはめになった。
 自己資本比率が70%を超え、有利子負債はわずか19億円強(2001年2月期末)と財務面は依然として強固な良品計画だが、販売効率がさらに悪化すれば来期は営業赤字に転落しかねない所まで追い詰められている。

衣料雑貨が凋落の元凶

 無印凋落最大の元凶が衣服雑貨で、直営既存店の売上は今5月には32.6%減まで落ち込み、上半期トータルでも25.6%減と全部門計の18.6%減を大きく下回った。天候要因や曜日進行、営業日数増等の押し上げもあって多くの小売業が急上昇した9月度は食品が22.3%増、生活雑貨も7.7%増まで回復し、トータルでは4.3%のプラスに転じたが、衣服雑貨のみは3.2%のマイナスと水面下を脱していない。
 過去二年間で衣服雑貨の売上シェアは39.4%から34.4%と5ポイントも低下。粗利益率(卸含む)は前中間期の48.2%から42.3%まで急落し、二年前は10ポイント近くあった生活雑貨との格差は3.7ポイント差まで縮まった。2000年2月期までは高粗利の衣服雑貨シェアの上昇が収益力向上に直結していたが、大量の不振在庫を処分するはめになった今、衣服雑貨はお荷物以外の何者でもなくなってしまった。
 そもそも質実な日常消費のこだわりに立脚した無印がSPA業界のトレンドに流され、実質家計消費の13%ほどを占めるに過ぎない衣料雑貨を売上の40%近くまで肥大させてしまった事自体が過ちであり、生活雑貨系ゼネラルマーチャンダイザーのバランスから見れば最大でも25%程度まで圧縮されるべきだ。

対症療法に留まる対策

 業績急落を受け、同社は既に幾つかの改革に着手している。第一が衣服雑貨におけるノンエイジ/ユニセックス/ノンクラスの“ライフスタイル型”日常衣料への回帰。昨年来、カジュアルチェーンとの競合回避を狙ってオン・デューティ対応を強化して来たが、上半期の消化率が50%台に留まるなど低迷。顧客ニーズとのギャップを埋めるべく、下期からはナチュラル素材に統一してベーシックに徹し、日常の普段着を重点強化して価格もさらに引き下げる。
 第二がすべてのカテゴリーにおける価格ラインの引き下げ。業績急落の要因は割高感による客離れにあり、対カジュアルチェーン、対百円ショップの価格競争力強化が不可欠と判断。一部商品に限定していた価格引き下げを拡大し、9月8日には衣服雑貨182品目で平均12%、生活雑貨359品目で平均23%、食品10品目で15〜25%の値下げを断行。例えば、婦人綿混デニムストレッチパンツは2500円とユニクロを潜る価格に設定した。衣料雑貨の取引先を32社から10社まで圧縮する他、商社機能の活用強化、素材/副資材の集約等でコストダウンを図っていく方針だ。
 第三が品目数の絞り込み。店舗の大型化と平行して進めて来たのが品目数の拡充で、千坪級のプラッツ近鉄店を出店した2000年中間期の総品目数は5959品目と前年から1.5倍近くも拡大。1坪当り品目数も20.99品目から26.03品目まで拡充したが、品目数の急増で開発が手薄となって仕様を詰め切れず、生産ロット縮小(1品目当り売上高は99年中間期の1259万円から935.4万円と25%強も減少)がコストアップ要因となった。
 今中間期は子供服を拡充したため衣服雑貨の圧縮は遅れたが、総品目数は5711品目と前中間期から4.2%減少し、1品目当り売上高も964.1万円とわずかに3.1%回復。来春には衣料品の品目数を1,100から700まで削減する等、品目を絞って競争力のある商品をクローズアップしていく方針だ。
 第四が不採算店の閉鎖と売場面積の圧縮だが、閉鎖が五店、圧縮が八店という発表は耳を疑う。これほどの業績急落にも関わらず撤収規模が限られる事に加え、戦略ミスの象徴であって最も凋落が激しい千坪級店舗が含まれていないからだ。有賀社長時代の既定路線とは言え、有楽町、難波と千坪級店舗の開設が継続されると言うのも絶句するしかない。本来なら第一に位置付けられるべき店舗リストラが最後に付け加えられるような情況認識に疑問を提さざるを得ない。

神話復活へ抜本革新を提す

 夏商戦以降、直営既存店売上はV字型で回復しており、9月度は衣服雑貨を除いてプラスに転じたが、特殊要因が 重なってバブル期以来というマーケット全体の浮揚水準に比べれば依然、低迷を脱したとは言えない。しかも、一番の元凶たる衣料雑貨は水面下のままだし、大量の在庫処分の要因となったビジネスアイテムも依然、店頭に並んだままだ。
 はっきり言って、この程度の対症療法では一時的に落ち込みを食い止めるのが精一杯で、『無印神話』の復活には程遠い。神話が復活しない限り、『価格競争力を欠く中途半端なバラエティストア』という実態がさらに露呈して、客離れに歯止めが掛からなくなる。それを回避すべく『無印神話』を復活させるには、以下の抜本革新を断行するしかない。
 1)超五百坪の全店を閉鎖せよ
 SPA業界のスーパーストア・トレンドに便乗して開発して来た超五百坪級の大型店は、先行SPAに追従して独自性を放棄したVMDと衣料雑貨の肥大化を背景に成立したものであり、こだわり生活アイテム密集のストイックな店舗が築いてきた『無印神話』を逸脱するものだ。プラッツ近鉄の劇的な凋落が証明するように、千坪級店舗は無印の顧客が求めた姿ではなかった。
 顧客の回答たる販売効率の低下は三百坪を超える大型店ほど大きく、『ストイックなこだわりライフスタイルを提供するスペシャルティ・バラエティストア』たる無印の現状での適正規模が三百坪までであることを実証している。生活アイテムを充実させていくにしても、こだわり商品の開発ペースとストイックな圧縮陳列を考えれば、販売効率を維持して五百坪を回せるようになるには何年もかかる。よって、すべての元凶たる超五百坪級の大型店全店を速やかに閉鎖/減床し、戦略的誤謬の根を断つべきである。
 2)『訳あって安い』の原点に回帰せよ
 ストイックなまでに余分な機能や装飾性、仕上がり姿や物流加工を否定して『訳あって安い』を謳い神話を築いた無印だが、ブランド神話に安住して「ユニクロ」や「ダイソー」に低価格商品開発で追い抜かれ、その存在意義が原点から問われる事態に陥ったのが急激な凋落の最大要因だ。ブランド商品的な付加価値開発に流れたり、トレンドに乗って領分を逸脱した衣料アイテムを拡張した事もコストアップ要因となった。
 今や『訳あって安い』の原点を最も体現しているのは「ダイソー」の現産地工場生調達方式であり、現地工場の仕様に余分な機能や装飾性、仕上がり姿や物流加工等の過大な変更を加えず、賢明にコストを抑制している。これこそ、無印の商品開発の原点であったはずだ。「ユニクロ」の匠チーム等は過剰な品質と仕様を付加してコストを押し上げるブランドビジネスの手法であり、『訳あって安い』を追求する無印は安易に追従すべきではない。
 無印の根幹たる生活雑貨領域では「ダイソー」の百円に脱帽するしかないアイテムが山積しており、開発調達の体制を抜本から変革して競争力を回復する事が急がれる。それは無印なりのこだわりが効いた原産地工場生調達方式であることは言うまでも無く、より広範なグローバル・ソーシングが問われる事になる。
 加えて、自社LC決済体制を軸とした商品財務の抜本転換もコストを切り下げるはずだ。販売資産回転が81.9日と遅いにも係わらず支払い勘定回転が33.3日と速く、48.6日もの逆回転差で89.3億円もの資金負担が生じている現状(2001年2月期連結)は、いつまでも放置されるべきではない。
 3)ミニマル・カルチャーの原点に回帰せよ
 無印神話のもうひとつの原点はミニマルなライフスタイル・カルチャーであり、トレンドにも自己主張にも流されないストイックなほど質実なライフスタイルがモダン建築に通ずる特有のミニマルなデザイン文化を生んだ。そのミニマル・カルチャーから展開し得る衣料品や服飾雑貨の領域は限定的なはずで、SPAライクなフレッシャースーツやOL感覚のジップアウターまで含まれるはずもない。 「ユニクロ」以上に機能を追求して装飾性を削ぎ落としたバウハウス的パスト・フューチャーな工業製品こそが無印のミニマル・カルチャーにふさわしいはずで、それはストイックなまでのシンプルさの中にイッセイミヤケ的な創造性を秘める ものだ。前述したような邪道商品は一刻も早く全廃し、顧客の尊敬を集める逸品を揃えるべきである。
 4)SPAトレンド追従のVMDを全廃せよ
 『ストイックなこだわりライフスタイルを提供するスペシャルティ・バラエティストア』こそ無印の原点であり、店舗空間はミニマルな建築的様式をストイックに体現しなければならない。そのルールはどこまでもミニマルであり、SPA業界のトレンドに乗ったダイナミックなVMD等、その独創性を放棄するものでしかない。ましてや小綺麗なライフスタイル演出などミニマルさを逸脱する最悪のモデルルーム的VMDと言うしかなく、二子玉川店は生活密着の質実なこだわりMDとは無縁の世界に陥っている。
 無印の原点的スタンスから逸脱したSPAトレンド追随のVMDを一刻も早く全廃し、無印のミニマル・カルチャーを体現したストイックなまでに詰め込まれた棚割りが顧客に訴えかける店に戻すべきだ。
 5)高経費体質を断て
 『訳あって安い』にしては良品計画の経費構造は高すぎる。元々低くはなかった所に販売効率の急落が加わり、33.4%という高水準にまでかさ上げされてしまった。生活アイテムを低価格で提供する業態としては、大創の24.0%、ウォルマートの16.3%、ドンキホーテの15.8%と比較して、『訳あって安い』とは言い難い水準だ。無印の経営陣に言わせればギャップやファイブフォックスと比較して高くはないと言いたいのかも知れないが、比較する相手が違う。付加価値志向のSPAをベンチマークしてしまった所に客離れの根本要因があるのだ。
 経費項目の中でも目を見張るのが物流費で、前中間期の売上対比4.6%から5.2%に肥大しているが、元々の水準自体がとてつもなく高い。百円商財を扱う大創のそれが1%台に収まっているのと較べれば、法外な費用と言わざるを得ない。カテゴリー別に分散した倉庫の統合やピッキング体制の刷新、アウトソーシングを含めて、緊急かつ抜本的な対策を打つべきだ。
 その他では新店開発に関わる費用が目立つが、これは今後の抑制が期待出来る。人件費は8.1%から8.8%に、借地借家料も6.9%から8.6%に上昇しているが、これは販売効率が回復すれば許される水準に戻るだろう。が、『訳あって安い』競争力を回復するには24%程度まで経費率を圧縮するしかなく、リストラを避けては通れないはずだ。
 下がったとは言え衣料雑貨の粗利益率は42.3%、生活雑貨のそれも38.6%と、『訳あって安い』と言うには利幅を取り過ぎている。大創やドンキホーテの粗利益率と比較すれば、まだ付加価値型ブランドビジネスの幻影を引き摺っていると言うしか無い。この根を断って『訳あって安い』を実現するには経費率の圧縮が不可避なのだ。
 6)生活アイテムをもっと拡充せよ
 肥大した品目数を圧縮すると言っても生活領域を逸脱した衣料雑貨についてであって、生活雑貨まで圧縮されて良い訳がないが、今中間期では前期の3,519品目から3,149品目に削減されている。競争力を欠く品目等が整理されたのであろうが、生活アイテムの拡充が著しい「ダイソー」等と較べれば、日常消費に応える必須アイテムが山ほど欠落しているのが実情だ。
 CVSの坪当たり百品目、「ダイソー」大型店の同三十品目強という品揃え密度を考えれば、食品や衣料雑貨も含めて50坪級のCVSタイプで3,000品目(同60品目)、150坪級の標準VSタイプで6,000品目(同40品目)、300坪級のフルサイズVSタイプでは9,000品目(同30品目)が求められる水準と考えられる。その大半を生活雑貨系や食品で充実させなければならないのだから、無印の商品開発は抜本転換を迫られることになる。
 7)生活アイテム圧縮陳列の小型店をFC展開せよ
 抜本的な調達コスト圧縮を果たして生活アイテム開発を進めるには千店単位の展開が不可欠だ。その主力となるのが30〜50坪級のCVSタイプと150〜300坪級のVSタイプであり、コンビニ銀座と駅構内に無印CVS有り、生活SCに無印VS有り、というが次の黄金時代の姿となるはずだ。生活に密着した品揃えをストイックなまでに圧縮棚割りに詰め込んだその姿は無印神話のミニマル・カルチャーを体現したものであり、神話復活の決定打となるに違いない。
 その展開においては直営にこだわる必要はなく、これまで培ってきたFC企業とのコラボレーションが活きてくる。ロジスティックス体制を抜本革新して効率的なFCシステムを築き上げれば、セブンイレブンや大創を脅かす無印帝国も夢ではなくなる。
 8)時流追随のミーハー経営を脱せよ
 無印神話をぶち壊して経営を悪化させた前経営陣の最大の誤謬は、独自性を放棄してSPA業界の時流に追従してしまった事だ。領域を逸脱した衣料雑貨の拡張と同質化したSPA型VMDによるスーパーストアの開発は、その最たる過ちであった。現経営陣の行動も今の所は対症療法に留まり、千坪級店舗の開設継続やセレクト商品の導入等、ミーハートレンド路線まで継承しており、独自性を再確立出来る状況ではない。
 無印神話の復活には再創業と言うべきほどのエネルギーを要するから、原点回帰の信念に燃える経営リーダーを欠いては夢物語に終わってしまう。まさに救世主の出現を希求する情況にあるというのが無印の今なのだ。良品計画がこの指摘を受け入れて無印神話を復活させるのか、独自性を失ったまま競争の波に飲まれて衰退していくのか。遠からず、答えは出るはずだ。

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