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商業界オンライン 小島健輔からの直言
『六本木ヒルズのZARAに見るショールーミングストアの課題』 (2018年05月14日付)
小島健輔 (株)小島ファッションマーケティング代表取締役

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 INDITEX傘下のZARAがロンドンのウェストフィールド・ストラットフォードシティSC(ロンドン郊外のオリンピック選手村跡を再開発した巨大モール)に続いて東京・六本木ヒルズに期間限定で開いたショールーミングストアが注目を集めている。

これぞショールームストア

 5月9日に一般公開された六本木ヒルズのZARAショールーミングストアは館内で移転する狭間の7月末まで期間限定で営業されるポップアップストアで(1月26日にオープンしたロンドン店も5月までのポップアップ)、2層800㎡に男女の広いフィッティングスペースとサイズピッキングのバックヤード、レディス/メンズ/キッズのサンプル陳列だけ(約400着)のサロン的なストア空間を配している。

img_2e7dbfb365ee46d7d56bc9755cb90b055701443 利用プロセスは『AppStoreから専用アプリをスマホにダウン→試着する商品のバーコードをスキャンしてサイズを選択→試着申し込み→待ち時間表示→案内通知→顧客コード確認→試着室へ→試着して気に入ればスマホから発注(レジ精算も可)→13時までなら当日18時〜翌日正午以降店舗受け取り(他店受け取り可だが数日かかる)または宅配』、という典型的なショールームストアだ。

 慣れない方やガラケーの方には貸出用のスマホが用意されていて、通常のお店より多数のスタッフが付きっ切りで親切にサポートしている。それは“無人コンビニ”の「Amazon Go」(レジレスだけど人的サービスは手厚い)とて同様で、新しい試みゆえの特別体制なのだろう。

   
ストレスフリーが最大メリットだが……

 ZARAに限らずファストなファッション店で一番辛いのが試着待ちとレジ待ちで、待ちが長いと諦めてカゴ落ちしてしまう人も出てくるが、ここではそんな心配はない。試着待ちはミニマム5分、混めば10分近くかかりそうだが、在庫を積まない分、ゆったりとソファーを並べているから、座って買物客でも眺めていればストレスはない。発注と精算もスマホだからレジ待ちもなく、後で発注してもよい。

『試着待ちはミニマム5分』といったが、それはバックヤードで試着希望品のサイズを探してピッキングしフィッティングルームにセットする所要時間であり、順番待ちの時間は含まれない。混んで来ればピッキングも煩雑になり順番待ちも加わるから10分近くかかりそうだが、それでは『試着待ち解消』からは遠ざかってしまう。

 フィッティングスペースにはスタッフが張り付いており、試着してサイズが合わなければ数分で持ってきてくれるが、バックヤードのピッカーと試着サポートのフィッター、売場の販売員という三重配置では通常店舗以上に人手を要する。高販売効率な店舗では合理的な分担だから否定はしないが、ショールームストアの運営としては再考すべきかも知れない。

サンプル陳列がきれいでラグジュアリーなサロン空間だが……

     

img_b92afa0ee8e2cd06b3eef395e08e4fd76064049 ワンサイズだけの各1サンプルなので陳列はさすがにきれいで、在庫に占領されない分、ゆったりとしたサロン的な接客空間になっている。もとより1〜2色企画が多いZARAだが、ここでは1色に絞ってシングルハンガーにカラーグループ別あるいはテイスト別に色環順ルック回転陳列(隣同士でルックになるよう色相環順に配列)しているから、ちょっとしたラグジュアリーブランドみたいに見える。

       
 販売在庫をサイズまでそろえてぎっしり陳列すればきれいに見せるのは難しいが、サンプル陳列なら理想的な見せ方ができる。ラグジュアリーブランドの多くは端から見栄えにこだわるサンプル陳列で、接客段階でストックからサイズを出してくる。バックヤードに在庫を積んで持ち帰りに対応しているからショールームストアではないが、陳列手法とサイズ接客は似たようなものだ。

 ラグジュアリーブランド並みの見栄えを求めて試着用のサイズサンプルをバックヤードに持てば、顧客の要望に応じて逐一サイズサンプルを人海戦術でピッキングするというオペレーション上の負荷がかかってしまう。それは過渡期のポップアップストアだからで、ウェストフィールド・ストラットフォードシティSCに増床リニューアルする4500㎡の旗艦店ではロボットによる自動ピッキング倉庫が併設されるから、8月に移転増床リニューアルする六本木ヒルズ店でも同様な自動ピッキング倉庫が導入されるものと推察される。

実証運用による課題解決が急がれる

img_258bfe4533ea11fabfdbf1360c11ee5a4154185 ZARAのショールーミングストアでは、高級ブランド的な見栄えを優先してか顧客のストレスフリーを優先してか、展示用サンプルと試着用サイズサンプルを分離したため運営が複雑になりスペースも要している。全サイズ展示に割り切れば解消できるが見栄えが劣り、それはそれで試着プロセスで別の問題が生じるから、どちらがベターか実証運営してみなければ答えは出ない。

 サイズをそろえたピッキングヤードは結構なスペースを要し、自動化しても解消されない。在庫を積まない分、接客空間をゆったり取って買上率と客単価で売上げを稼ぎ、家賃も運営コストも軽減するというショールームストアの基本的メリットが成り立つのか疑問が残る。

     
 ZARAショールーミングストアはクリック&コレクトのプロモーションを担う実験的な形態で、「ショールームストア」としての確立はこれからだが、アパレル販売に関する興味深い課題を幾つも提議している。アパレル関係のみならず流通関係者には必見だから、早々に体験してみることをお勧めする。

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