小島健輔の最新論文

マネー現代
『レジ袋有料化は「エコ」じゃない…?
日本人は知らない「不都合な真実」』
(2020年09月03日付)
小島健輔 (株)小島ファッションマーケティング代表取締役

レジ袋有料化で「エコ」になる…って、本当か?

「レジ袋」の有料化は「容器包装リサイクル法」の省令改正によるもので、小売業者など広範な事業者が対象とされ、違反すると行政が勧告や指導、企業名の公表を行い、悪質(?)な場合は50万円以下の罰金刑が課されるから、「協力要請」といった次元ではなく法的な強制だ。

コロナ感染防止の「休業要請」さえ罰則がないことを思えば、コロナ感染防止より重要な「国策」ということになる。

その目的はプラスチックごみ削減や焼却処分時のCO2削減など環境保護が建前で、環境省と経済産業省が旗を振っているが、じつはプラスチック(正確にはポリエチレン)製レジ袋を削減しても環境が改善される計算にはならない。

プラスチック製レジ袋はゴミ捨て袋など様々に家庭で再利用されており、それが無償で得られなくなれば市販ポリ袋が別途に購入され、焼却時に「レジ袋」の平均50倍もCO2が発生するマイバックが増えるだけだからだ。

有料化の「効果」

有料化の効果はてき面で、大手コンビニチェーン各社の発表では7月の「レジ袋」辞退率は75〜77%、同じく大手スーパーでは75〜85%だった。コンビニでは4分の1以下、スーパーでは5分の1まで「レジ袋」は削減されたことになるが、その分、地域によっては市販の「ポリ袋」がゴミ捨て用などに購入されたと見られる。「地域によっては」と断ったのは、「レジ袋」でゴミ捨てできる自治体とできない自治体があるからだ。

環境省によれば、「指定ゴミ袋」でしかゴミ捨てできない自治体は2017年段階で64.6%と3分の2近い。「指定ゴミ袋」はゴミ放出のペナルティや処理費用負担が加わるからか同サイズの市販ポリ袋よりかなり割高で、自治体にもよるが最低でも5割高、赤字に苦しむ市町村では30倍近い例もある。

40Lサイズを例にとれば、安い自治体で10〜20円、高い自治体では90〜135円、平均でも30〜50円もする。

「指定ゴミ袋」自治体ではもとより「レジ袋」をゴミ出しに使えないから、有料化はマイバック利用に直結する。

「レジ袋」をゴミ出しに使える自治体は人口ベースでも半分に届かず、有料化直後の「レジ袋」辞退率が全国ベースで75〜85%にも達したのは、再利用する人よりマイバッグで倹約する人が圧倒的に多かったと推察される。

じつは「レジ袋」より市販ポリ袋のほうが断然お得

全国的に見れば少数派の再利用派も、有償の「レジ袋」を再利用するより市販のポリ袋を購入したほうが断然お得だ。

「レジ袋」は持ち手の部分があって市販のゴミ袋とは規格が違い、関東と関西でも違うようでそれぞれ7サイズあるが、Sサイズ(5〜8L)で3円、Mサイズ(12〜15L)で5円、Lサイズ(25〜30L)で10円ぐらい取られる。業務用卸のまとめ買いだと、せいぜいその半額だから、小売業者はもとより無償で配っていたものを原価の倍で売っている。

市販のゴミ捨て用ポリ袋は20Lサイズで4〜5円、45Lサイズで6〜8円ぐらいだから、容量だけ見れば市販のポリ袋を買ったほうが断然お得だ。細かく区分して捨てるには「レジ袋」も便利かもしれないが、そんなコスト差を知れば「レジ袋」を再利用する人は急速に減っていくだろう。

「指定ゴミ袋」自治体の場合では、千葉のイオンが「レジ袋」の代わりに千葉市指定ゴミ袋(10L)を一枚8円でバラ売りしているのが便利で合理的だが、千葉市の指定ゴミ袋は20Lでは16円、45Lでは36円もする。

ゴミ出し袋としての再利用はともかく、消費者としてはこれまで無料だった「レジ袋」が有料になっただけで何のメリットもなく、騙された消費増税のように受け取られても致し方ない。地球環境保護のためにやむを得ない負担と割り切るしかないが、どうもその建前も怪しいようだ。

本当に「環境保護」なの…か?

プラ袋は石油精製時に出来てしまう副産物であるポリエチレン(精製量の1.4%)で作られているから、プラ袋を削減しても石油派生プラスチック生産が減るわけでないし、「レジ袋」という大量需要が消えてプラスチック需要が減少すれば、ペットボトルの再生循環まで崩れてしまう。

もとより「プラ袋」は自治体ごみの0.4%、海洋プラスチックごみの0.3%に過ぎず、海洋プラスチックごみの12.7%も占めるペットボトルの再生循環を妨げれば却って環境汚染を広げてしまう。

バイオマス素材を25%以上使った「レジ袋」(生分解はされず残る)、海洋生分解性プラスチックを100%使った「レジ袋」、厚手で繰り返し使える「レジ袋」(焼却時CO2は「レジ袋」の数十倍)は無料で配布しても良いが、割高になるから選択する小売業は極めて稀で、これまで同様の環境負荷を生む「レジ袋」を売るほうが儲けになる。

それでは小売店の利益になるだけで環境保護にはまったく繋がらず、環境保護という建前でキャンペーンすれば誰かが巨額の手数料を抜けるという行政絡みの怪しい仕掛けの一連としか思えない。

エコバッグを使う習慣がつけば良いという見方もあるが、コロナ禍の昨今では感染リスクを否めず、お金を払ってもレジ袋を買って“捨てる”人も多い。米国ではコロナ感染を防止すべく、エコバックの使用を禁止している州もある。せいぜい買い物金額の0.5%にも満たない追加出費だが、建前が怪しいだけに消費増税やキャッシュレス還元の終了と重なって4〜5%にも感じるウザさは否めない。

不都合な真実

「レジ袋有料化」を推進する環境省のスタンスも、いかにも怪しい。小泉進次郎環境相は事あるごとに『レジ袋をなくしてもプラスチックごみ問題は解決しない。「レジ袋有料化」の目的は他にある』と繰り返し公言しているし、経済産業省の説明も歯切れが悪い。「他の目的」とは一体何か。幾ら何でもキャンペーン手数料のピンハネが目的ではないだろう。

我が国に限らず世界の環境保護政策の真意は脱「化石燃料依存」であり、極めて政治的財政的戦略性が強い。近々に迫る「小氷期到来」が世界的飢饉を招く深刻さと比べれば「地球温暖化」がそれほど「不都合な真実」とも思えないが、産油国に経済を振り回され幾度も石油が戦争の原因となった歴史に決別し、人類の手には負えないと証明された原子力発電産業を維持するためにも、手を替え品を替え環境保護政策を打ち出すしかないのが各国政府のスタンスだ。

環境規制は止めがたい世界的な潮流であり、排気ガスを削減すべくバイブリッド車やEV(電気自動車)への切り替えが強制されつつあるが、化石燃料を脱して電気に依存するようになれば地球環境が良くなるわけではない。電気への依存が高まれば原子力発電を容認せざるを得なくなるからだ。CO2やメタン、ダイオキシンが減っても放射能に晒されるリスクが高まる、というほうがよほど「不都合な真実」ではないか。

風力や太陽光など自然発電にしても、地域の景観を損ない自然エネルギーの循環を阻害する弊害は小さくない。巨大な太陽光発電のプラントがどれほど地域の景観を損ない、大地の熱エネルギー呼吸を妨げて昼夜や四季の寒暖差を拡大しているか、環境保護を謳う人々や行政は「不都合な真実」に目を背けるべきではない。本当の環境保護とは、自然の大気浄化循環や海水浄化循環、エネルギー循環を人間が妨げないことではないか。

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