小島健輔の最新論文

繊研新聞2020年07月27日付掲載
『コロナパニックで流通販売のDXが急進する』
小島健輔 (株)小島ファッションマーケティング代表取締役

■コロナパニックで店舗の脇役化が決定

 店舗運営の二大コストは不動産費と人件費であり、消費がデフレする一方で二大コストがインフレする構図が店舗小売業の経営を圧迫している。

自ら店舗を所有する資本装備型大規模小売業者の不動産費は売上の5%前後に収まるが、テナント出店する労働集約型衣料品小売業者の不動産費は20%前後(百貨店インショップでは30%を大きく超える)にも達するから、EC軸で販売と物流を分離し店舗在庫を圧縮して不動産費を抑えるOMOが急がれるのは当然で、コロナパニックで露呈した最低保証家賃など店舗運営固定費の恐怖がOMOシフトを加速するのは避けられない。

衣料品小売業者の人件費は売上の16〜18%、大型店舗でも12〜13%に達し、一人当たり売上は高額品や大型店では3000万円を超えても低価格の中小型店では2000万円に届かないが、ECでは規模を拡大すれば2億円を超える。かつてはコーディネイト提案やフィッティング、在庫照会など人的接客が不可欠に思われたが、便利なITアプリが普及するに連れECの方が情報が豊富でウェブルーミングやショールーミングが一般化して店舗の優位性が怪しくなり、コロナパニックで人的接触が忌避されるに及んで店舗はコストに合わないお荷物と認識されるに至った。

コロナパニックを境に『販売の基幹はECであって店舗はC&C利便を補う脇役』というOMO関係が決定的になり、ECとの一体化と店舗運営の無人化というDXが爆発的に加速し、世界で日本で膨大なファッション店が消えていくことになる。

■店舗運営のDX革命が爆発する

 店舗運営のDXは1)決済・精算業務のセルフ化と無人化、2)フェイシング管理の自動化とマテハン業務の半自動化、3)店受け取り・店出荷などC&C業務の半自動化、4)商品説明・推奨業務のデジタル化とリモートワーク化、の4方向から進んでいく。

 キャッシュレス化とともにセルフ化とID認証によるデジタル決済が急進し、「amazon Go」に始まった画像解析AIやICタグによる無人精算も実用化の段階に移り、画像解析AIとICタグリーダーを連携したリアルタイム・フェイシング管理も普及し始めているが、物流センターに導入されているようなマテハンの自動化は83年の西友能見台店「メカトロスーパー」大実験以来、停滞したままで、未だ店舗では非現実的と考えられている。

 その一方、EC商品の店受け取りではクリーニング店などで普及しているロボットピッキングが導入され始めているし、店出荷ではオンライン連携してICタグ検索レーダーで商品をピッキングし出荷伝票を自動発行する。商品説明・推奨業務のデジタル化はスマホによるショールーミングとして定着し、タブレット接客を活用する店舗も増えているが、顧客データも商品データも店舗とECで一元化されていることが前提だ。

販売業務のリモートワーク化だけは未来の夢物語と思われていたが、コロナパニックで実行せざるを得なくなった。店は閉めていても、ECやSNSを起点にスカイプでライブ接客したりチャット接客するのは慣れれば誰でも出来る。コロナパニックは販売員を全員ユーチューバー化してしまうのではないか。

※DX(Digital Transformation)・・・・デジタル化

※OMO(Online Merges with Offline)・・・・オンラインがオフラインを融合する一体化

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