小島健輔の最新論文

ファッション販売2002年3月号
『2002年のビジネストレンド』
(株)小島ファッションマーケティング代表取締役 小島健輔

二十世紀文明の崩壊

 アングロサクソンの経済的合理主義が築き上げた二十世紀文明が、ワールドトレードセンターのように崩落しつつある。グローバル・スタンダードを謳って進出した外資流通業は次々と行き詰まって撤退ないしは計画縮小に追い込まれているし、流通の工業化を謳ってビッグになった量販店は次々と破綻し、効率至上のビジネスモデルで成功した「ユニクロ」も売上の急落に立ちすくんでいる。ネットベンチャーもベンチャーキャピタルも次々と破綻し、20世紀文明のビジネスモデルが悉く行き詰まりを見せている。
 不良債権の清算は倒産ラッシュを招いて金融恐慌に至り、日本国の信用も地に落ちて急激な円安でデフレスパイラルと局部的インフレが交錯するという最悪の事態が刻一刻と迫っている。もはや取引先はもちろん銀行も保険会社も信頼に足らず、国家システムさえ崩壊の兆しを見せ始める。2002年はそんな暗胆たる世情となるだろう。

マーケットは“癒し”と“和み”を求める

 失業増加と社会不安の中で人々は20世紀的な繁栄幻想を捨て、1)童話の世界を夢見た子供時代、2)未来と反逆を夢見た若々しい過去、3)平和だった牧歌的生活、への回帰を志向して“癒し”と“和み”を求め、消費スタイルとビジネスモデルは一変してしまう(当社のトレンド・ディレクションより)。
 工業的なスペックの大量生産品や生臭いトレンド商品が疎まれ、人の手の温もりが伝わる手工業的な商品や複雑な味わいのあるリミックス商品が好まれる。ハンドメイドやカスタマイズ、リメイクやヴィンテージがキーワードになり、フォークロアやボヘミアン、アラブから和まで、様々なエスニックが復活する。そんなマーケットでは、効率優先でサプライチェーンを絞り込んだ企業は総スカンを食ってしまう。
 マニュアル通りの接客やシステムむき出しのサービスが疎まれ、不器用でも心が伝わる接客が好まれるようになる。チエーン店が疎まれ、顧客を大切にする身近なローカル店が再評価されるだろう。非効率でも手に汗して顧客の期待に応える者が勝者となれるのだ。

人々は身近なコミュニティに回帰する

 世情不安と生活防衛から人々の行動圏はシュリンクし、アクセスに手間取り人混みに揉まれる広域型の大型商業施設やターミナルは疎まれる。替わって評価されるのが、コミュニティの人々が集う身近な商業施設や個性的な味わいがある小さなダウンタウンだ。
 前者は鮮度の高い食品スーパーや和めるオープン・カフェ、プックストアやCDショップ、カジュアルショップやエスニックショップなどが小じんまりと揃った、近所の人々がアクセスし易い開放的な商業施設で、米国ではライフスタイルセンターとかコミュニティ・ギャザリングセンターとか言われている。後者は世代の入れ替わりで個性的なブティックやカフェなどが散在するようになった住宅地の小さな商店街で、ロンドンのノッティングヒル、パリのマレやパッシーが好例だ。
 前者はまだ限られているが、コミュニティセンターのリモデル等で増えて来よう。後者は代官山などが近いのかも知れないが、各地に小さな試みが拡がりつつある。加えて、都市部の住宅地ではコンビニ銀座にHBCや生活雑貨、カジュアル衣料などのバラエティストアが集まり、ファッション性の近隣消費スタイルが台頭する。
 このような流れが本格化すれば、膨大な投資で開業した大型商業施設は投資回収の目処が立たなくなる。郊外の割りに実質賃料はターミナルと大差ない物件も多いから、テナントの困窮は想像に余り有る。逸早く新たな立地に適した業態を開発し、ドメインを移すべきであろう。

効率至上のビジネスモデルが破綻する

 工業的効率が流通でも追求された前世紀だが、最後の十年は旧社会主義圏も巻き込んでのグローバル化が急伸し、効率至上のSPA型ビジネスモデルが台頭した。MDを絞り込んでサプライチェーンを集約し、生産から販売までのトータルプロセスを効率化して低価格高品質を実現したが、生産スペックとMDの同質化、品揃えのバラエティとコントラストの欠除は避けられなかった。
 世紀が替わってマーケットが手作りの味わいやリミックス、品揃えのバラエティやコントラストを求めるようになると、効率至上でサプライチェーンを固定した紋切り型の工業的SPAは顧客に応えられなくなり、売上の急落に直面するようになった。
 かつてのナショナルチェーンが品揃えを標準化して調達を集約し、効率を追求した挙げ句に顧客に離反されて長い凋落に陥ったように、売り手都合のビジネスモデルを押し付ける工業的SPAも長い凋落に落ちるのかも知れない。チェーンストアにしてもSPAにしても企業側の効率を優先して顧客のニーズを取捨選択する事業システムであり、それが成功した20世紀という時代はよほど顧客が寛容な時代であったと言うべきだろう。

労を厭わず顧客に応える者が台頭する

 手頃な価格でオリジナリティを実現する手法としてのSPAを否定する気はさらさら無い。ただ、効率至上で顧客ニーズを切り捨てる姿勢に問題があっただけなのだ。工業的SPAに替わってマーケットの支持を得たのは、オリジナル開発手法としてSPAを活用しながらも顧客と個店に応える品揃えを追求したセレクト系SPAであった。
 セレクトショップの魅力は1)シャープなフォーカスで絞り込んだ品揃え、2)その中での“面”展開のバラエティ、3)“面”のコントラストとリミックスの妙、と考えられる。“面”とはメーカーや工場による素材感やディティール、パターンや仕上がり感の違いを言うもので、同一アイテムの“面”を揃えて様々な個性の顧客に対応する一方、“面”の異なるアイテムを組み合わせてリミックスの妙を訴求する事が出来る。
 “面”を揃えるには多様な調達先や開発手法を組み合わせる必要があり、効率至上でサプライチェーンを絞り込む工業的SPAとは対極にある。同じオリジナル開発でも、両者の手法はまったく異なるのだ。
 セレクトショップはチェーンストアとしての標準化にも背を向けている。個店毎の顧客の要望に真摯に応えるため、全店共通商品より個店対応商品の方が多くなる。配分や在庫管理に手間取る事になるが、顧客に応えただけ高い販売効率が得られる。多店化の限界を一業態2ダースとする不文律が守られているのもこの為なのだ。
 前世紀では顧客ニーズを切り捨てても業務効率を追求した企業が勝者となったが、21世紀では業務効率を犠牲にしても顧客ニーズに応える企業が勝者となる。『売れ筋だけに絞り込む』業革を徹底して来たあの「イトーヨーカドー」でさえ、客離れに苦しんだ挙句に昨夏から顧客対応重視に転換して品揃えを豊富にしたとたん、既存店の売上減少が止まってしまったではないか。
 国民も企業も痛みを分担せざるを得ないこれから、労を厭わず顧客に応える者が勝者となるのは当然であろう。労さず利益を狙う20世紀的なビジネスモデルの時代は終わったのだ。

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