小島健輔の最新論文

ファッション販売2008年11月号掲載
『派手なプロモーションで上陸した「H&M」』
(株)小島ファッションマーケティング代表取締役 小島健輔

 ファストなモードカジュアルで世界を席巻しているグローバルSPAの「H&M」が11月13日、銀座7町目中央通りに日本第一号店となる4層1400平米の大型店を開店した。これで中央通りには四丁目交差点寄りから「ユニクロ」「ZARA」「H&M」と、「GAP」を除くグローバルSPA大手が出揃った事になる。「H&M」のプロモーション攻勢は凄まじく、ファッション誌は悉く取り上げTVのワイドショーやニュース番組もかなりの時間を割いて紹介するという過熱情況を巻き起こしたが、果たしてそれほどの魅力があるのだろうか。
 パリでもロンドンでもNYでも毎年のように見て来たが、著名デザイナーやセレブとのコラボなど派手なプロモーションと安さは目を惹くものの、ストアは何処もモダンな量販店にしか見えないし、品質のチープさと畳み皺剥き出しの無神経な陳列には腰が引けてしまう。トレンドのエッセンスを上手く取り込んだデザイン物は一見、魅力的に見えるが、グローバル対応ゆえのパターンの粗さと素材のチープさでフィットが決まらず、日本人好みのニートなスタイリングは望むべくもない。
 何処の国にも大味なファッション感性の安物好きはいるもので世界29ヶ国で受け入れられて来たが、レイヤードやリミックス、カワイイ感覚に象徴されるように世界最先端に感性進化した日本の消費者にだけは受け入れられそうもない。安くても品質は限界以下だし、大味なフィットは全然かわいくないからだ。感性発展途上の中国では成功しても、感性の貧民階級が存在しない日本では大空振りするのでは。
 目一杯お化粧したはずの銀座店でもディスプレイもスタイリング提案も凡庸かつ大味で、欧米店舗同様に畳み皺も剥き出しになっていた。レディスは色もフィットもミッシーぽくて凡庸な割りにプライスは期待されたほど安くなく(“ユニクロ”よりワンライン高い)、量販店のPBにも劣るという印象。Lサイズかと見紛うほど肩幅の大きいハンガーの無神経さにも驚かされた。メンズカジュアルは意外にシャープで品質のチープさも目立たず、掘り出し物が見つかるかも。メンズクロージングは素材が堅くテーラリングも雑で、価格の近い「スーツカンパニー」に遠く及ばない。結局の所、日本市場で受け入れられそうなのはメンズカジュアルのみで、他は安い?だけのチープで大味なしろものと扱き下ろすしかない。
 派手なプロモーションで盛り上げても商品は化粧し切れず、畳み皺対策も裾上げサービスも欠いたまま雑なグローバルフィットで上陸した「H&M」は市場の失望を買う事は確実。全国展開を構想するも離陸段階での失速が避けられず、似たり寄ったりの“フォーエバー21”同様、遠からず撤退という事になるのでは。

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